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晴れた日の話し  作者: ゆかわ どり
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初実習


「お腹がぱんぱんでスカートがきつい」


「沢山食べるからじゃん」


 午後は選択授業の初実習がある。体力をつける為にご飯を沢山食べたのだが、少し食べすぎたかもしれない。


 今朝はホラールも一緒にご飯を食べて、昼間一緒にご飯を食べた。昨日に比べて今朝は元気で、今朝に比べて昼は元気だった。だが、まだいつものホラールではない。


 実習を行う場所は、すべて学校の敷地内にある。敷地内だがとても広く、ここら辺の地理を覚えるまでは地図が必要になりそうだ。しかし、幸いにもチヒョンの実習先が私の実習場所に近いらしく、途中まで一緒に行く事になった。


 ラッキー。


「チヒョン、チョコが好きなんだから、一緒にチョコの授業を取ろうよ」


「嫌だ。俺は作るより、ただ沢山食べていたい」


 だんだんとチョコレートの匂いがしてきた。


「いゆの実習先は、あのカカオの木でできたアーケードをくぐった先にあるよ」


「わかった」


「じゃ、頑張れよ」


 私は「うん」と返事をしてアーケードに向かった。いつも一緒にいるチヒョンがいないと思うと少し心細い。


 アーケードの内側にはカカオが沢山実っていて、私は興奮し思わず写真を撮った。


 アーケードを出ると、すぐに工場はこちらと書いてある大きな看板が目に入った。その看板に従って歩いて行くと、壁全部が板のチョコレートのデザインになっている大きな建物が見えて来た。近付いて触ってみたが、さすがに本物では無かった。


 実習場はこちらの案内に従い、私は梱包の部屋に入った。

 

 梱包の部屋は、部屋と言うよりも、長方形の大ホールだった。中には長机がずらりと規則正しく並んでいて、人が間を空ける事なく前から順に座っている。今まで以上にチョコレートの匂いが鼻の奥まで駆け込んで来る。

 

私は朝深呼吸をする時の様に、体の隅々にまでチョコレートの空気を大きく吸いこんだ。


「いい匂い」


「実習生ですね」


 茶色いベレー帽とコックコートにズボンの男の人が話しかけてきた。


「はい」


「この帽子を髪の毛が出ない様に被って、このマスクとエプロンもつけて下さい。席は好きな所に座ってかまいませんが間を空けずに詰めて座ってくださいね」


「分かりました」


 不織布で出来た帽子とエプロン、マスクをつけながら私は席へと向かう。隣の人は女の人だった。


「あら、こんにちは」


「こんにちは」


「どこからきたの?私はオーストリア。スザンネよ。よろしく」


「私はいゆです。日本出身です」


「日本!素敵。私一度も行った事がないのよね。友達が北海道のチョコレートを日本のお土産で買ってきてくれて、とても美味しかったから行ってみたかったの。いつか行こうって思ってる間に死んでしまって行けなくなっちゃったわ」


 スザンネさんと色々な話をしていると、放送が流れた。


「皆さん。こんにちは。実習担当のダールです。目の前の机に注目して下さい」


 指示通り机を見てみると、小さく立体的な人の映像が映し出されていた。横から見るとちゃんと横が見えるし、上肩見るとちゃんとつむじが見える。


「今日はほとんどの人が実習初日だと思うので、まずは板状のチョコレートの包装からして頂きます」


 立体的な人が立体的な板のチョコレートと包み紙に変わった。梱包の部屋という名前からしてチョコレートを作る部屋ではないと思っていたが、やはり最初からチョコレートを作る事は出来ない様だ。少し残念。


「一緒にやってみましょう。まず、チョコレートを紙の真ん中に持ってきます。そしたら右の紙をこのように折ります」


 映し出された映像を見ながらチョコレートを包んでいく。


「これで一通りは終わりです。包み方が分からなくなった場合は、椅子の横についているボタンを押せば、もう一度先程の映像がみられます。では初めてください」


 三十分くらいチョコレートを包んでいると、またダールさんの声が聞こえてきた。


「皆さんお疲れ様です。そろそろ飽きてきた頃と思います。チョコレートの包みはこの辺にして、次はチョコレートの袋詰めをして頂きます。ここからは、猿とペアになってやって頂きます」


 猿?私達が入ってきた扉から次々と色々な種類の猿が入ってきた。


「よろしく」


 私の所に来たのは顔と腕は白いが足は赤茶っぽい毛並みのいい猿だった。


「よろしく」


 猿は机の上に座り、私の目線と同じ高さになった。


「俺はアカアシドゥクラングール。名前はジジだ」


「覚えられないけどかっこいい種類だね。私は日本人のいゆ。よろしくね、ジジ」


「ペアが出来ましたね?では、机にある袋にチョコを五つ入れたら猿に渡して下さい。猿は人間からチョコの袋を受け取ったらタグを付けて、段ボールの中に詰めていって下さい」


 私は袋にチョコレートを五つ入れて目の前の猿に渡しながら、ひとつ気になる事を聞いてみた。


「ねえ。ジジ」


「何だ」


「手って綺麗なの?」


「は?」


 ジジは作業している手を止めた。


「ほら、今は食品を扱ってるからさ、動物って色んな菌を持っているって聞いた事あるし。さっき四足歩行で入ってきたじゃん。床も汚いでしょ?」


「おい!」


 私はジジの声にビックリして思わず椅子ごと後ろに倒れそうになり、慌てて机の淵を掴んだ。周りの人間や猿達も、何事かとこちらを見ている。


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