閉じこもった元気
その日の夕飯時、ホラールは食欲がないといって学食には来なかった。
「心配だな。僕、三年も一緒にいるのに、あんなに元気のないホラールを初めて見た」
「明日の朝は無理やりにでも連れて来ましょ。夜は寝るだけだからいいけど、朝はきちんと食べないと」
食器を片付けてから、ホラールに何か食べるものを買おうと、学食の売店に行った。因みに、売店は無料ではない。
「ロシアの食べ物を買ってあげたいな」
売店にはお菓子しかなく、私はパッケージに赤ちゃんの顔が描かれているチョコレートを一枚購入した。それに決めたのはチヒョンのアドバイス。
「ホラールは甘いの苦手だよ?僕達カフェに行ってもいつも甘い物を食べないし」
「でも、チョコ嫌いな人なんていないよ。まぁ、ホラールがいらないって言ったら俺が食べるから大丈夫」
「チヒョンて呼吸するみたいによくチョコレートを食べてるよね。しかもいつも同じチョコレート。病気になっちゃうよ」
「アムリ、この世界では病気も死も怖がる事は無いんだよ」
「この世界の勧誘の言葉みたい。僕だったら怪しすぎてついて行かないけど」
「この世界に勧誘だなんて。まるで死神ね」
アムリが自分の部屋の扉をノックしたが返事はない。
「はぁー。自分の部屋なのに入りにくいな」
ゆっくり扉を開けて中に入ると、ホラールが窓際に座って外をぼんやりと眺めていた。
「ホラール?」
アムリが名前を呼ぶとゆっくりと私達の方をみた。
その顔は無表情だった。
私は部屋に入りホラールにチョコレートを差し出した。
「これ、お腹すいちゃうと思って。ロシアの食べ物。チョコレートなんだけど」
「あ。俺チョコはあまり食べないんだけど、ありがとう」
「あのね、今日、図書館に行ったんだけど、結局、悪魔との契約について役に立ちそうな事は何も分からなかったの。ごめんね」
「謝らないでよ。大丈夫。みんなに迷惑をかけたくないから、何もしなくていいよ。もし、本当に手伝ってほしい時が来たらその時はお願いしてもいい?」
ホラールはやっと笑顔になったが、どう見ても作り笑顔で目に生気がない。
「うん。もちろん」
「ありがとう。じゃあ、悪いけど今日はもう寝たいからまた明日」
「わかった。ゆっくり休んでね」
「うん。スワン、今日は怖い目に合わせちゃってごめんね。みんなもごめん」
「申し訳なく思うなら、朝ごはんはきちんと食べに来なさいよ!」
「うん。ありがとう」
ホラール達の部屋を出て、私達はそれぞれの部屋に入った。
「明日には少し元気になってたらいいね」
私達は部屋の真ん中のソファに座った。
「そうね。ロシア休暇の度にペトラさんの話を楽しそうにしてたのに。あ。そういえば、日本休暇は来月だったわよね?」
「うん、そうなの!少し楽しみ。明後日、午後の授業が無いから、その時にこの前作ったパスポートを取りに行くんだ」
ホラールには申し訳ないが、本当に楽しみで仕方がない。
「帰らない人もいるけれど、日本休暇になると日本町のお店はほとんど閉まるし、人も少なくなるのよ」
「へー。そうなんだ。その光景少し見てみたいかも。でも、幽霊になって、生国に行くのも楽しみだし、壁とか通り抜けられるか試してみたいし、ワクワクするなあ」
「そうよね。私も初めて行く時はわくわくしたわ」
急にスワンが寂しそうな顔になった。
「何かあったの?」
「うん。ちょっと。だから私はもう帰らない事にしたのよ。私はもうあの世にいなし、新しい私の為に準備をしなきゃね。でも、私はまたあの家には生まれたくないわ。それを忘れない為に、初めて来た休暇の手紙を残しておいているの」
すごく気になるけど、これ以上聞かないでと言っているように感じる。
「いゆは良い休暇になるといいわね」
「うん」
「私も今日は疲れちゃったし、もう寝ようかしら。先にシャワーするわね」
「うん」
スワンの元気も無くなっちゃった。




