他人の恋は蜜の味
そんな顔をして、何を言われるのか。
「あのね、ホラールは前の恋人の事をまだ忘れられないんだそうよ。だから、いゆの恋は、その・・・叶わないかもしれないわ」
その話で私はピンと来た。きっと、ホラールと行った森で鳥が言っていた『前に言っていた子』がその子に違いない。
好きなのは好きだけど、絶対に付き合いたいわけでは無いので(欲を言うならば、死国で一番仲のいい友達になりたいとは思う)なんて事ないような顔をした。
「アムリ達よりは好きって感じで、すごい好きなわけではないから、叶わなくても大丈夫。アムリ達って言うか、アムリとチヒョンよりって事。スワンと同じくらい好きって事!」
早口になっていたかもしれない。スワンは驚いた顔をして、私が話し終えると大笑いした。
「そんなに必死になって言わなくても大丈夫よ。ま、別れた相手を忘れられないなんて未練たらたらな男、私だったら嫌だけど」
スワンは自分の机に向かい、髪の毛をほどいて櫛でとかし始めた。髪の毛がサラサラ。美容室で何かしてもらってるのかな。なんて聞きたいのではない。
「ホラールが別れようって言ったのかな?」
そこだけは気になって聞いてみる。
「死んだ日に別れを告げられたんですって」
「え、まさかそのショックでホラールは」
「違うわよ。学食で死国へ来た理由を聞いたでしょ、偶然よ。自殺していたらここには居ないしね」
あんなに良い人の事、なんで振ったんだろう。きっと美人なんだろうな。私の頭にふと担任のトルキ先生の顔が浮かんだ。トルキ先生も美人さんだな。どこの国の人なんだろう。
「またホラールの事考えているわね」
「違うよ。ね、ありえないんだけど、もしもの話しだよ。もしも、その、私とホラールが、付き合う事になったら、その先ってどうなるの?その、結婚とか子どもとか」
叶わなくてもいい恋だと言ったくせに、自分で言って私は恥ずかしくなり手をぱたぱたさせて顔をあおいだ。
「結婚なんて概念はないし、死国では新たな命は生まれないの。だからプラトニックな恋愛よ。生まれ変わるまでの短い恋愛だけど、死国で結ばれた相手とは生国でも結ばれるって聞いた事があるわ。ここで友達なら、生まれ変わっても友達っていう話と同じで確証はないみたいだけどね」
プラトニックな恋愛か。確かに死んだ世界で新しい命が生まれるっておかしいよね。
私達が大浴場へ向かう途中、部屋に戻る途中のホラールとアムリに会った。
「二人も今日はお風呂なんだね」
お風呂上がりで少し髪の毛が濡れている上に、普段セットされている前髪がおろされているホラールになんとも言えないほどキュンとする。いや。キュンなんてものじゃない。ドキュンだ。この姿を毎日見られるアムリが羨ましい。
「シャワーじゃなくてお湯につかりたいのよ」
「チヒョンは戻ってきた?僕達お風呂に行く前に部屋行ってみたんだど、まだだったの」
「私達も何回か部屋に行ってみたけどいなかったわ。そのうち戻って来るでしょ」
「いゆ?」
ホラールに優しく肩を掴まれ、私は体ごとドキュンとした。
「顔、赤くない?大丈夫?」
私は先程と同じように手で顔を仰いだ。
「いゆはのぼせちゃったのよね?」
スワンが首を傾けてにやりとする。
「お風呂まだなんでしょ?どういう事?のぼせてるのにお風呂入って大丈夫なの?」
ホラールも心配しながら手で私の顔をあおいでくれている。
「うん。ちょっとだけだから。じゃあ、二人ともおやすみ!」
私はスワンの肩を押して大浴場へ早足で向かった。
「ちょっと、スワンやめてよ!恥ずかしいじゃん」
「良いじゃない。うふふっ。他人の恋って楽しいわね」




