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晴れた日の話し  作者: ゆかわ どり
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声の正体


 突然、部屋で聞こえた声とともに上から羽音が聞こえた。上を見上げるとさっきのゴキブリが私達の方に向かって飛んできていた。つま先から頭のてっぺん迄自然とたつ鳥肌。急いでチヒョンの後ろに隠れた。


「さっきいゆが部屋で聞いた声はきっとあの虫の声だよ」


 チヒョンが振り返って言った。


 虫って言うかゴキブリなんだけど!!


「植木さん達!ごめんなさい!わたしが話しかけたら驚いて窓から落ちちゃったんです。人間さんも驚かせてしまってごめんなさい!」


「チヒョン。私、クモとゴキブリが駄目なの。本当に苦手なの」


 ゴキブリに聞こえない様にまた小声でチヒョンに伝えた。


「人間!次からは落ちてくるなよ!全く今夜は寝不足だ!」


「はい。すみませんでした」


 チヒョンの後ろから顔を出し、私はもう一度植木達に謝った。


「人間さん。本当にごめんなさい」


「ひいいいいいい!」


 羽音を立てて目の前に現れたゴキブリに驚き、私は直ぐにチヒョンの後ろに戻った。


「ごめんなさい。わたし、普段は人間に話しかけないんですけど、泣いていたからつい」


 ゴキブリの話を聞いて、チヒョンは私の顔を覗き込んだ。


「心配してくれてありがとう」


 まさかゴキブリと会話する日が来るなんて。


「ゴキブリさんは何でこの世界に来たの?」


 チヒョンがゴキブリに尋ねた。


「わたしは、日本にいたんですが、床がベタベタする建物に入ってしまって、動けずにそのまま死にました。いつも気を付けていたのに、友達と鬼ごっこをしていたら夢中になってしまって」


「目の前の事に気づかず楽しい事に夢中になっちゃ危険だよね。殺されたわけじゃないなら、もとは地獄にいた生き物じゃないよね?」


「そうなんです。わたし遺伝子検査したら生粋のゴキブリみたいで。今度は逃げ回らなくて良いように人間に好かれる虫になりたいと思っているんです」


 声だけ聞けば可愛い女の子だな。


「人間の為に決めなくてもいいんじゃない?」


「わたし、人間が好きだから仲良くなりたいんです。あの、そちらの人間さん。わたしが大体の人間に嫌われている事は分かっていたのですが、そんなに驚かれるとは思わず、話しかけてしまいすみませんでした。今度からは話しかけないようにしますね。それじゃ。お二人ともさようなら」


 ゴキブリは足音を立てずに走って行った。

「チヒョンはゴキブリ平気なの?」


「ある程度の虫なら平気だよ。で、いゆは何で泣いてたの?」


「ただのホームシック」


 照れ笑いをした。


「悲しんでも、もう生国には帰れないんだけど、みんなまだ私の事覚えてくれてるのかなと思ったら涙が出てきちゃった」


 近くのベンチに座り、さっき思った事をチヒョンに話した。


「いゆは、もし生国に戻れたら何をしたい?」


「したい事はないよ。しなきゃいけない事はあるけど。仕事を見つけて働かなきゃ」


「日本休暇には生国に行くの?」


「日本休暇って何?」


「ご先祖様が帰ってくる日。日本にもあっただろ?」


「お盆の事かな?」


「たぶんそれ。死国では日本のお盆の時期を日本休暇って言うんだ。日本休暇の時に一度帰って、状況を見てきたら良いよ。みんなが自分を覚えてくれているか」


 いつまでも悲しんでくれる友達はいないだろうな。それを目の当たりにしてショックを受けるのもなあ。


 チヒョンが上着の内ポケットからスマートフォンを取り出し、画面ちらっと確認すると直ぐにしまい、ベンチから立ち上がった。


「俺寮に戻るけど、いゆはまだここにいる?」


「私も中に戻る」


 私達は寮に向かって並んで歩き出した。


「チヒョン今までずっとお姉さんと飲んでたの?」


「いや。ずっと愛の手紙を書かされてた」


「愛の手紙?何それ?」


「書いてあげないとご機嫌斜めになっちゃうからさ。美人だけど、ちょっとかわった人で大変なんだ。でも、大好きなんだよね、俺」


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