いつか思い出す事
チヒョンがビールを一口飲んで、ゆっくりとコップをテーブルに置いた。
「子どもと一緒に居る時、こんな事が楽しいの?こんな事で喜ぶの?って思った事ない?」
少し考えてから「ある」と答えた。
「でも、いゆも昔はその子どもと同じだったんだよ。成長すると食の好みが変わるように、子どもと大人とでは喜楽の感じ方も変わってしまう。でも、大人が嫌だなって感じる事は子どもが嫌だなって感じる事と同じで、それは変わらない。だから、嫌な事はいつ思い出しても嫌な気分になるんだと思うよ」
嫌な事は直ぐに消える様に脳が進化すればいいのに。
「嫌な思い出に浸る時間があるなら、楽しいなって感じる事を沢山した方が良いよ。楽しい事はいつまでも続かないけど、楽しむ事は何度でも出来るから。もし、今度また嫌な事を思い出しそうになったら、今日俺と一緒にチキンを食べた事を思い出してよ」
そう言って、チヒョンはビールが入ったコップをカチンと私のコップに軽く当てた。
「前に、チヒョンは死んでから幸せを感じるなんてしちゃいけないって言ったでしょ?でも、やっぱり私は、ここでみんなと出会えて幸せだと思うし、チヒョンにも出会えて良かったし嬉しいって思うよ」
「でも」
私の言葉にチヒョンの表情が一瞬歪んだ。
「いや。ありがとう。そう言ってもらえて嬉しいよ」
チヒョンの顔と言葉が合ってない。私は咄嗟に「ごめん」と謝った。
「何で謝るの?」
「ちょっと迷惑そうな顔してたから。でも、大丈夫!愛の告白とかじゃないから!私が好きなのはチヒョンじゃなくてホラールだから!」
さっきのお姉さんにも聞こえる様に「私が好きなのはチヒョンじゃなくてホラールだよ!」ともう一度言った。
「大丈夫って何が?それに何で二回も言った?」
あははとチヒョンが笑う。
「迷惑じゃないし、告白だとは思わなかったけど。それより急にカミングアウトして、俺の事好きじゃないとも言うし、そっちの方が驚きなんだけど。俺はいゆの事好きなのに」
そう言ってチヒョンが私の手を優しく握った。
いつしかテレビで見たチワワが悲しんでいるような顔に、心を鷲掴みされたが、私は咄嗟に手を引っ込めてお姉さんを探す。
「そこまで嫌われているなんて俺傷付いちゃうんだけど。ホラールとアムリは同じように好きだよって言ってくれたのに。スワンには今すぐ手を離さないとぶっ飛ばすわよって言われた」
そう言って笑うチヒョン。誰にでもしているんだ。どきっとして恥ずかしい。きっとあのお姉さんもこれをやられてときめいたんだ。チヒョンは罪な男だな。
「俺に会えて嬉しいって言ってくれて本当に嬉しいよ。それにホラールは確かにイケメンでかっこいいよね。俺も初めて見た時そう思った」
「それにね、優しいんだよ。優しさの塊みたいに優しい」
「でも、俺もイケメンでしょ?」
チヒョンは自分の右頬に手の平を当てると、大げさにまばたきをして笑顔を作った。
「私はホラールの方がタイプ。顔がドストライクだったの。そしたら中身も素敵だったの。優しさの」
「塊なんだろ」
「何で知ってるの?」
私は大げさにびっくりしてみた。
「ついさっき聞いたよ」
チヒョンはやれやれと首を横に振った。




