死国
「船仂 いゆさん、二十二歳です」
「原因は?」
近所のおばさんの声ではない知らない声が聞こえる。目を閉じていても瞼の中に届く光。私は手の指を少し動かした。下はふわふわしている。どうやらベッドの上にいるようだ。
「トラックによる交通事故です。これがその資料です」
事故…そうかやっぱりあの時事故にあったんだ。トラックとぶつかってといてただの貧血なわけないよね。
気を失う前の気持ち悪さがもうない。薄く目を開けると、染み一つない薄い黄色の天井が見えた。なんだ、死ぬかと思ったけど、私生きてるんだ。目だけを動かすと壁も布団も薄い黄色い色で、唯一真っ白なレースのカーテンは、リズムよく風に乗ってひらり、ひらりとしている。
声のする方向に目を向けると、看護師と、制服の様なをものを着た女の人が向かい合って話をしていた。どうやら私は今病院にいる様だ。
「あら。起きたわね」
スーツの人が私の方を向いた。前髪は左側にきっちりと止められていて、ピンがないのに髪の毛が一本も垂れていない。後ろで結わえられたポニーテールと、少しつりあがった目に真っ赤な口紅を塗られた唇。ザ・キャリアウーマンって感じ。襟元に何かのバッチが付いている。
刑事さんかな?看護師とも目が合い「では、失礼します」と、私に笑顔を向けて出て行った。広くはない空間に知らない人と二人で少し気まずい。まだ目を覚まさないふりをしておけばよかった。
「気分はどう?」と、キャリアウーマン。
事故に遭ったのだから気分が良いわけがない。それに、今は誰とも話したくない気分。私は「体調が悪いのですみません」と言って布団をかぶり目を閉じた。しかし「ちょっと!」と、すぐにキャリアウーマンにガバっと布団をめくられた。この人、病人に優しくない。
「今日は色々とやる事があるんだから、早くベッドから出てちょうだい。病人じゃあるまいし」
この人はきっと昭和生まれだな。昭和の人間は無理する事が美徳だと思っている人が多いから本当に疲れる。私は体調が悪そうなふりをしてその人を見上げた。
「色々って事情聴取ですか?今日はそういう気分ではないので明日にして下さい。それと、私は事故にあったので病人です」
「事情聴取?そんなの警察じゃないんだからしないわよ。それから、私は昭和生まれじゃないわよ」
嘘をつけ。私より年上に見えるし絶対昭和生まれだ。
「じゃあ刑事さんは何をするんですか?」
そう聞くと、キャリアウーマンは声を出して笑った。
「刑事?なんでそんな事私に聞くのよ」
「だって、警察じゃないなら刑事さんなんですよね?」
「私は死国管理局の人間よ。この国の役所の人間」
スーツの人は持っていたタブレットを見ながら言った。
「四国管理局?四国の人がわざわざ福島に何をしに来たんですか?しかも病院に」
「福島…そうねぇ…」
キャリアウーマンは私のいるベッドに腰を下ろした。
「あなた、死国の事を日本にある四国の事だと思っているみたいだけど、違うのよ」




