敵
お昼を食べた後、みんなで次の授業の時間まで時間を潰していると、授業開始の予鈴がなった。
「僕、次スピーチの授業だからもう行くね」
「教室、近いんじゃなかった?ずいぶん早く行くのね。」
「今日発表だからちょっと練習したいの。国を変えられるような人は、スムーズに面白い話ができる
方がみんなも応援してくれそうな気がするんだ。だから、今日もそんな人になったつもりで頑張るの」
チヒョンが「かっこいい」と、小さく拍手をした。
「えへへ。今の僕の人生は不安と絶望だらけだったから、次生きる時は希望をもって精一杯生きたいの。同じルーマニアのみんなが、そんな風に思える国にもしたいし。じゃ、また夜にね」
アムリはカバンと食器の乗ったおぼんをもってみんなにバイバイをした。私は走って行く後ろ姿を見つめながら、そんな考えが出来るアムリを羨ましく思った。
「俺が十八の時は、生きるのに精いっぱいで訳も分からず、ただひたすら戦ってるだけだったな」
「何と戦ってたの?」
「自分が敵だと思ってた人達だよ」
敵?十八歳なら大学受験かな。確かに、受験生なら周りは敵だらけだ。毎年受験シーズンになると日本でもニュースをやるくらいだし、韓国の学生は大変そう。
「数字上では俺の方が人生の先輩なのに、アムリの方が大人だなって感じる事がたまにあるんだよね」
「私もそう感じる事あるわ。本人には絶対に言わないけど」
そう言う二人がアムリのお兄さんとお姉さんに見える。
「カレーって、食べると幸せホルモンが出るらしいの。だから、アムリには今日だけでも幸せだなって思ってもらえたらいいな」
「アムリは、毎晩寝る前に明日も妹が幸せな一日を過ごせますようにって言ってから寝てるんだよ」
「それ、素敵」
ベッドの上でお祈りをしてから寝るアムリを想像すると、可愛い。
私は人の不幸しか願った事が無いのに。アムリはちゃんとした人間に育ったな。
「俺、何気なくアムリが幸せなら、妹も幸せなんじゃない?っ言った事があるんだけど、その時の笑顔が凄く悲しそうだったんだよね」
「アムリは妹の話をする時、たまに悲しそうに笑うわよね」
ホラールがそろそろ俺も行くねと言って授業に向かった。
「スワンはまだ行かなくて良いの?次何の授業?」
「ええ。アムリの教室の隣。直ぐそこなの。スパイの授業よ」
「え?」
声が揃い思わず私はチヒョンを見た。
「何でスパイの授業を取ろうと思ったの?」
スワンに聞いた。
「かっこいいじゃない。だからなんとなく取ってみたの。そしたら結構楽しくて。二人とも興味があるなら取った方がいいわよ。本当に楽しいから」
「いや。私は大丈夫」
「俺も大丈夫。この世界の誰かに命狙われそうだし」
「この世界で二度目の死は私達を迎え入れないんだから、命を狙われたって平気よ。もしかしたら、私地獄のスパイかもしれないわよ」
何かを企んでいるかの様にスワンは悪い笑顔を作った。スパイの授業なんて選択の項目からどうやって見つけ出したんだろう。もしかしたら忍者や海賊の授業もあったりして。
「そろそろ私も行くわね」
授業内容をウキウキしながら説明していたスワンが、時間を確認すると急に冷静戻って言った。
「俺達も行こう」
私達はこれからチキンを食べに行くのだ。
「じゃ、二人ともまた夜にここでね」
出口で別れてチキン屋さんに向かう。
「やっぱりカフェに行かない?がっつり食べるチキンじゃなくて、軽く食べられるものが良いな。そ
して美味しいやつ」
「世の中美味しい物ばかりだろ?」
「一番美味しいやつ!」
「嫌いな食べ物は?因みに俺はキュウリ」
「トマト」
「好きな飲み物は?因みに俺はビール」
「ウーロン茶!」
「じゃ、チキンに行こう」
「えー。今の会話にチキンの要素一つもなかったじゃん」
結局、奢りという言葉に私は遠慮せざるを得ず、この前行こうとしていた韓国町のチキン屋に行った。




