スワンの小さな仕返し
「でも、残された家族の事を思ったら、幸せだと思うなんてできないし、しちゃいけないと思う」
チヒョンは家族思いだな。私は死国へ来てもそんな事少しも思わなかった。
「チヒョン、あなたは何故死国へ来たの?」
「俺は癌。鼻にチューブを入れられて、舌は乾くし最悪だったよ。ベルトで腕を拘束されてベッドに縛り付けられて身動きは取れないし、俺は何の為にここにいるんだろうって毎日辛かったな」
「あなたの辛さを100%理解はできないけど、辛かったでしょうね」
アムリがチヒョンの肩を撫でて「お疲れ様だったね」と言った。
「私達は殺されたから急に人生が終わってしまったんだけど、死ぬってわかってたあなたと違ってかわいそうでしょ?だから、かわいそうな私達が幸せを感じても叱らないで欲しいわ。それに、家族の在り方は各々だから、自分の考えを押し付けるのはやめた方がいいわよ」
チヒョンは納得していない顔をした。
「死ぬんだなってわかってたとしても、残りの人生を好きなように生きれるわけではなかったし、俺の方がかわいそうだと思うけどな。ところで」
チヒョンはスワン達の顔を順番に見た。
「三人とも悪そうには見えないのに殺される程みんな憎まれて生きてたの?なのに何で地獄じゃなくて死国に来る事ができたわけ?」
「チヒョン。あなた、ちょっと私達に対して失礼じゃない?」
すかさずスワンが強めの口調で言った。
「みんな相手の勝手な都合で殺されたからに決まってるじゃん。しょうがない。僕がなんで死国へ来たのか教えてあげる」
胸に手を当て、真顔だけど目をキラキラさせたアムリがガラリと空気を変えた。のほほんでもなんでもない。新しい空気。
「出たわね」
「出たな」
「いゆ。疲れたわよね?私達は先に部屋に戻りましょ」
私の返事を待たずに、スワンは自分と私の荷物を持って立ち上がった。
「俺も先に休むよ」
ホラールも立ち上がりカバンを背負う。
次々に席を立つみんなを見て、チヒョンは不思議な顔をして時間を確認した。
「みんなもう部屋に戻るの?まだ七時過ぎたばかりなのに?」
「うん。チヒョンも休んだ方がいいと思うよ?疲れただろうし、これから疲れちゃうし」
少し笑いながらホラールが言う。
「俺はまだ大丈夫だけど、これから疲れるってどういう意味?」
チヒョンの質問には答えず、アムリはとても嬉しそうに、「じゃあ、僕と話そうよ!」と言った。スワンは小声で「可哀そうに」と言ったが顔は楽しそうにしている。
「じゃ、おやすみ二人とも」とスワン。
「おやすみ」と私。
「また明日」とホラール。
「みんなおやすみ」とアムリとチヒョンは元気に言った。
学食を出て、寮の階段をのぼりながら「チヒョンを置いてきちゃうなんて可哀そうな事しちゃったかも」とホラールが笑い、スワンも「本当ね」と笑った。
「でも、私達を憎まれ者呼ばわりしたから仕返しだと思えばいいわよ」
二人がいつも嫌がるアムリの話し。
「どんな内容か私少し気になる」
「今チヒョンと一緒に話を聞いていたら絶対後悔してるわよ。また妹の紹介から始まるし」
「明日になったら俺達に感謝すると思うよ。じゃあ、二人もおやすみ」
私達の部屋の前でホラールが挨拶をして、向かいの部屋に入って行った。
「え、ホラールって向かいの部屋なの?」
「そうよ。さ、いゆも早く部屋に入って」
友達と同じ建物の中で暮らして、おまけに部屋が近いし、シェアハウスみたいで楽しい。
部屋に入り、私は真ん中に置いてあるソファにドスンっと座り、そのまま寝ころんだ。
「シャワーじゃなくてお風呂に入りたいな」
「あら?お風呂の場所教えてなかった?」
「お風呂あるの?」
スワンに大浴場の場所を案内してもらった。せっかくだから一緒に入ろうと言ったが、スワンはシャワーでいいらしく、一人でゆっくりと湯につかった。お風呂のおかげかとても眠くなり、部屋に戻ってベッドにもぐりこむと私は直ぐに眠りについた。




