キム・キムチ
キム・キムチ
「いゆはまだなの?僕腹ペコ」
アムリが椅子に浅く座って背もたれに寄りかかり、お腹をさする。実習が終わり、学食に来た三人だが、いゆが来る気配がない。
「実習があるから、夜は一緒に食べましょうて言ったんだけど、忘れちゃったのかしら」
入り口を見て入ってくる人の顔を確かめるスワン。
「僕達と何時にどこで会うかは言ったの?」
「あ」と言って入り口から顔をアムリに向けた。
「忘れてたわ。私達はいつもここに集まるからその癖でいゆもここに来ると思って」
「もーう!スワン何やってんの」
アムリが口を尖らせている。
「連絡してみようか?」
ホラールズボンのポケットからスマートフォンを取り出した。
「あれ。そういえば、俺いゆの連絡先知らないや。そもそもスマホを持ってないのか」
「そうだったわ」と言って、スワンがある事を思い出した。
「多分、今同じクラスの韓国人の男と一緒よ。名前は何だったかしら。チ・・チ、チ」
スワンは瞬きをせずにテーブルをじっと見つめる。
「キムチ!確かキムチって名前よ」
「キムチ?何それ。絶対嘘だよ!」
キャッキャと笑うアムリ。
「嘘じゃないわよ。キムチよ。たしか名字はキム!キム・キムチ」
その言葉を聞いて我慢できなくなったアムリは大笑いした。
「韓国って、キムチが有名なんだよね?嘘をつかれたんじゃない?」
「そんなくだらない嘘つく訳ないじゃない。いゆの事探しに行った方がいいかしら」
「お腹がすいたら自然と学食に来ると思うけどな」
「それはあんただけよ」と言って、スワンはアムリのおでこを指でつついた。
「いやぁー。もう最高!見た?さっき俺が話してた人!俺がマジで尊敬してる人。うわぁー・・生きている間に会えると思わなかった!」
歩きながらチヒョンは興奮をして何度も同じことを言っている。
「生きている間って。チヒョンはもう死んでるしょ」
「ははっ。確かに」
このくだり、もう何回目か分からない。韓国町のチキン屋さんへ行く途中、チヒョンが有名人に遭遇したらしい。私にとっては知らない人だし、全く興味が無かったのだが、その人がお茶を奢ってくれると言ったので、近くのお茶屋さんで三時間近く話をしていた。(しかし、話していたのはチヒョンとその人だけ)それからチヒョンはずっとこの調子だ。けれど、チヒョンが生きていると言い間違えてしまうのは理解出来る。私なんて生きている時よりも毎日が楽しい。
「さっきまで俺の事呆れたような目で見てたのに。いゆも嬉しそうに笑ってるじゃん」
「事故に遭った時は死ぬ事に恐怖があったけど、今は死ぬのも悪くないなって思ってさ」
笑いながら話すと、チヒョンは足を止めた。私も足を止めてチヒョンを見ると、彼は険しい顔をしていた。
「それ本気で言ってる?本気で死んで良かったと思ってる?」




