お昼
「以上で学校案内は終了となります。今見せられてだけで全てを覚えられるわけではないと思いますが、授業や実習には遅れないように気を付けて下さい」
映像を見た後は、学生証の使い方(なんと、学生証にはクレジットカードの機能がついており、公共交通機関は無料で利用が出来るそうだ)スワン達に聞いた死国の年齢の話や、言葉の話などを色々聞いた。先生の説明が終わるのと同時に、今まで気にならなかった時計の針の動く音が大きく聞こえた。
「時間が来たので今日はこれで終わりです。今日はもう授業はありません。明日は九時にまたこの教室で授業を行います。遅刻しない様に」
先生は来た時と同じ様に早歩きで教室を出て行った。
授業中に一度も笑顔がなくて、怒らなくても怖い先生だな。
「なあ、いゆ」
出て行く先生を見ながら、チヒョンが話しかけて来た。
「死国と何処かが繋がるってどういう事だと思う?」
「どういうって、そのままの意味じゃない?」
「地獄にも繋がるのかな」
「何で気になるの?」と聞くと、チヒョンは「興味があるから」と扉を見つめながら、独り言のように言った。
見学学習で行けるんだからそんなに気にするような事じゃないと思うけど。
「いゆ?」
開けられたままの後ろの扉からスワンが入ってきた。
「中々出て来ないからどうしたのかと思ったわよ」
スワンの言葉にチヒョンも反応した。
「ごめん。俺が引きとめちゃったから」
スワンがチヒョンの前に立って腕を組んだ。背はチヒョンの方が高いのだが、スワンがチヒョンを上からを見下ろしている様に見える。
「あんたは誰よ」
初対面の相手に対してあんたと呼ぶなんて、さすがスワン。誰に対しても気がつよい。
「俺はキム・チヒョン君は?」
「スワンよ。ウ・スワン」
スワンの名字ってウっていうんだ。初めて知った。
「スワン。よろしく」
チヒョンはスワンと握手しようと手を差し出したが、それを無視して私に話しかけた。
「いゆ。さっき伝えるのを忘れちゃったんだけど、私達この後夜まで実習で、お昼は実習先で食べるの。お昼、一人にさせて申し訳ないけど、夕飯は一緒に食べましょう」
「うん。分かった」
「じゃあ、また夜にね」
良く知らない相手なのにチヒョンもスワンに手を振っている。
「私達の達って誰?」
「友達だよ。スワンを含めて三人いるんだけど、三人とも三年生なの」
「こっちに来たばかりなのにもう友達がいるの?生きてる時に日本人ってシャイって聞いてたんだけど」
「日本人全員がシャイなわけないじゃん」
私はかなりシャイだけど。
「まぁ。そりゃそうか。韓国人全員が辛い物が平気な国って言ってるのと同じだよね。俺辛いの嫌いなんだ。口がヒリヒリする食べ物の何が美味しいんだか」
またマシンガントークが始まった。
「ずーっと点滴しかしてなくて、何も食べてなかったから久々にチキン食べたいな。ビールも飲みたい。いゆ、一人なら一緒にお昼食べようよ」
初対面の人とご飯を食べるのは少々気まずいが一人で食べるよりはいい。それに、スワン達とのご飯は気まずいとは感じなかったし、むしろ楽しかった。
私は「うん」と返事をした。
チヒョンがチキン専門店で食べたいと言ったので、私達は学食ではなく学校の外で昼食をとる事にした。チヒョンが奢ってくれるらしい。でも、チキンって衣にしか味がなくてあんまり好きじゃないんだよな。
「朝ご飯はどこで食べたの?」
「学食だよ。学食でチキン食べた」
「チキンを食べたのにまたチキンを食べるの?食べすぎじゃない?鶏を食べすぎて復讐されちゃうかもよ。違うの食べたら?」
と、さりげなく違う食べ物にしようと誘導。
「育ち盛りはさ、すぐお腹すくし、好きなものを食べても全然飽きないの」
結局チキンを食べる事になりそうだ。
育ちざかりって、もうその時期すぎてるじゃん、と私は少し笑った。
「チヒョンは今何歳なの?」
「俺は今年で三九六歳だったかな。ある程度年を取ると自分の年齢って忘れるよね。いゆは何歳なの?」
普通に会話を進めているけど、突っ込んだ方が良いのかな。
「私は二十二歳だけど。韓国では自分の年齢をそんなに盛るのが流行りなの?」
「…えーい!冗談に決まってるじゃん。つまんない人だね。どう見ても俺はピチピチの二十四にしか見えないだろ」
ピチピチの二十四歳は、死国に来て間もないはずなのに、道に迷わずまっすぐ目的地に向かっている。
「ここ、なんだか雰囲気が日本っぽいね」
「日本町だからね」
「日本町?国じゃなくて?」
「ここは日本じゃなくて死国だよ。死国の日本町」
「じゃあ、チキンはアメリカ町にあるの?」
「いや、俺が食べたいのは韓国チキン。だから韓国町に行かなきゃ」




