歌声
亀のようにゆっくりと歩くホラール。普段セカセカ歩く私にとってこのスピードはとても疲れる。だが今日は楽しい。全く疲れない。心はウキウキ。そして、まるでBGMの様にだんだん聴こえてくる音楽。よく聞いてみるとそれは歌声の様だ。だが、言葉にはなっておらず意味はよくわからない。
「この歌素敵だね。誰が歌っているんだろう」
木ばかりで声の主はどこにも見当たらない。
「声が近いし、そこら辺にいると思うよ」
そう言って周りを見渡しながら、さらにゆっくりと歩く。私も周りを見ながら歩くが、どこにも人がいない。
「いた。ほら、あそこ」
急にホラールが立ち止まり、少し先にある木を指さした。
「どこ?誰もいないよ」
私は目を細めてみたが、やはり誰もいない。あるのは緑々しい木だけだ。
「何処見てる?あの木の枝の所だよ?」
ホラールが少し屈んで私と同じ目線になり、一本の木を指さした。そこには、握りこぶし一つ分くらいのカラフルな鳥。ホラールの目線の先をたどるが、やはり同じ木を見ている。
「鳥しか見えない」
「歌ってるのはあの鳥だよ」
ホラールが背を伸ばす。
「でもこの声人間の声だよ。あ。あの鳥オウムなの?」
「鳥の種類は分からないけど、たぶんオウムではないと思う。昨日、この世界では全部の言葉が理解出来るって言ったの覚えてる?」
「え、動物の言葉も理解できるの?」
私は鳥を見たまま聞いた。
「うん」
「動物も人間の言葉を理解できるの?」
ホラールまた「うん」と返事をすると私の手首を掴み鳥がいる木に連れて行った。
「話しかけてごらん」と鳥の方に頭を傾けた。
「えっと。こんにちは」
思い切って声をかけると歌声がぴたりと消えた。やはりあの鳥の歌声だった様だ。鳥がこちらを向くと「やあ!」と言って羽を広げると私達の近くの枝に降りてきた。
「ホラールじゃないか。ごきげんいかが?」
鳥の声はさっきと違い綺麗な声ではなく、どこにでもいそうな男の人の声だった。
「まあまあかな?そっちは?また女の子を誘ってるの?」
「うん。でも今日は駄目かな。鳥の女の子じゃなくて人間の女の子が来ちゃうしね。その子は?前に言っていた子かい?」
ホラールは私をちらりと横目で見た。
「違うよ。昨日こっちに来た子。日本人」
人間が動物と会話をしている。私も混ざりたい。
「ほー日本人。白鳥から良く日本の自慢話を聞かされてたな。日本ってあれだろ?」
鳥は急に話すのを止めて、左側を向き「悪い、また!」と言って飛んで行ってしまった。
「かわいい子を見つけたみたい。俺達も行こう」
忙しない鳥だったな。
鳥が飛んで行った方を見ながらそう思っていると、すでにホラールは歩き出していた。小走りで追いかけて隣に並んで歩く。
さっき鳥が言った前に言っていた子って誰だろう。私をその子だと思ったって事はきっと女の子だよね。彼女かな。ホラールはイケメンだし彼女がいない方が不思議か。
「さっきの鳥、ホラールの名前を知っているってことは仲良しなの?」
本当は鳥の事なんて興味はなく『前に言っていた子』の話を聞きたかったが、いい気分のままでいたいので止めておく事にした。まだ純粋にこのときめきを楽しみたい。
「仲良しってわけじゃないけれど、時々俺の部屋に来て歌ってるんだ。それも朝早く。こっちは眠いってのに」
「鳥が起こしてくれるなんて、電子音に起こされるよりいいと思うけど。私の所にも来てほしいな」
「時間の設定機能がついていたら最高なんだけどね」




