到着
普通、道路を走っている馬がいたら大騒ぎになりそうだが、誰ひとり私達の方を見向きもしない。
ぶつかっても怪我はしないが、馬はきちんと車を避けて走ってくれている。馬の走る足音いいな。それに走る時の振動があまり来ないので、乗り心地も良い。
「気持ち良いね!」
馬に聞こえる様に大きな声で言った。
「そんな大きい声で言わなくても聞こえるよ。気持ちいいだろ?俺は、生まれ変わってもまた馬になって、今度は広い土地を走りたいんだ。死ぬ前は競走馬で鞭で叩かれながらぐるぐる回ってるだけだったからな」
「動物って、人間になりたいって思う人いないの?私、昔はお金持ちの家のペットになりたいって思った事があるんだ」
「俺達、人間以外の生き物の間では、最大の罪を犯すと地獄に行かなくても、人間にされるって言われているんだ。人間はお金がなくちゃ生きていけない、一種の奴隷だって。だから人間に生まれ変わりたい奴は少ないんじゃないかな。君は生まれ変わったら動物になるのかい?」
「子どもの頃はそう思ってたけど、やっぱり私も、同じ種類の人間かな。あ、あそこ私が通っていた小学校だよ!」
「へー。大きい学校だね」
「人数も多いんだよ。今はもしかしたら少子化で少ないかもしれないけど」
途中、馬に乗っている色んな死国の人間に出会った。
「死国の人意外と多いね」
「迎え火が焚かれていないこの時間はまだ人がまだ少ない方だよ」と馬が言った。
「そういや、いわきって馬の温泉があったよな。寄り道してから戻ろうかな」
「よく知ってるね!」
「競走馬の間じゃ有名だったんだ。福島の馬は良いなってよく話してたもんだ」
段々となじみ深い風景になってきた。この木に挟まれた坂を登れば家だ。相変わらず、沢山の植木が美しい緑色を見せてくれている。
家に到着し、馬から降りて、馬の鞄から自分のリュックを取り出す。
「馬さん。ありがとう」
「いいえ。まだ誰も来ていないようだね。それかもうみんな新しい何かに生まれ変わってて来ないのかな」
「ご先祖様達に会うの緊張するなぁ」
「初めての事はなんでも緊張するよな。
帰りは、送り火を目印にここに牛が迎えに来るから、遅れずに、ちゃんと牛に乗って駅まで来るんだぞ」
「うん。分かった。ありがとう」
馬は出発する時と同じようにヒヒーンと鳴いて走って行った。足音が聞こえなくなるまで見送ってから「ふぅー」と口から一気に息を吐く。
自分の家を一度良く見てから、玄関に向かって歩きだした。




