馬の愚痴
中に入ると、レストランやファストフード店、カフェなどの飲食店が所狭しと並んでいた。空港や駅とは違ってお土産売り場は一つもない。
アジアばっかり。みんな日本人かな。
新幹線乗り場に向かう途中、馬乗り場の看板を発見した。ちらりと見ると、そこにいたのは武士や侍の格好をした人がほとんどだった。中には現代っぽい格好の老人や幼い二人組の子どももいて、自分も馬に乗れたかもしれないと感じた。
「よう。お譲ちゃんも俺達に乗って帰るのかい?」
突然、白い毛の馬が話しかけて来た。
「ううん。私は新幹線で帰るの」
「新幹線か。乗り換えがあって大変だろ?俺達に乗れば乗り換えなしで家の前までのせて行くのに」
「え。乗り換えがあるの?」
「生国の日本駅に着いたら、次は家の最寄り駅に行く電車に乗り換えて、最後は俺達に乗って家まで行くんだ」
「私馬に乗れないから新幹線にしたのに」
家の前まで電車で行くと思ってはいなかったが、乗り換えがあるなんて思っていなかった。
「はははっ。大丈夫だよ。俺達がきちんと落ちないようにコントロールしながら乗せて行くから。お嬢ちゃんはただ乗っているだけで良いんだ」
「それなら安心です」
「昔は飛行機や新幹線なんてなくて、行きは馬で帰りは牛しか交通手段がなかったのに、時代は変わったね。俺達悲しいよ」
馬が馬の声でヒヒーンと鳴いた。
「武士達は、昔は馬に乗れない身分だったからいまだに俺達に乗れる事が嬉しいらしい。だけど、俺達を足で合図して進むものだと思っている奴らもいて、それは困るんだよな。同じ所ばっかりけるから痛いし。騎手も俺は馬乗りが得意だって自慢をしたいのか鞭なんか持って来やがる。これは秘密だけど、態度の悪い奴は俺達わざと落馬させたりするんだ」
馬は最後だけ小声で言った。
それで怪我をしたらどうするんだろう。
「馬さん。ごめんなさい。私、新幹線の時間がそろそろだからもう行かなきゃ」
「あ。そうか。お嬢さんは俺達に乗るんじゃなかったな。もし駅について見かけたら俺が乗せてやるからな」
「ありがとう」と、一応言ったが、また愚痴を聞かされそうだし、絶対に白以外の馬に乗ろう。
大体、愚痴を言う人は同じ事を二、三回も言ってくるのでちょっと疲れる。きっとそれは人も馬も変わらないと思う。




