沼地を抜けます。
デスが、囲まれた馬車を支援するように向かっていく中、私はアントの群れで手薄なところを狙って、ファイアストームを放つ。
固まっていたアントをうまく蹴散らせた。
初めて大きい魔法を使ってみたけど、何とかなるみたい。
デスとあの人がほとんど倒して、そのうちアントが逃げていった時は本当にホッとした。
終わった……。
アントが散って行くのを見送りながら眺め、地面に散らばった死骸を極力見ないように目の動きが固まる。
この数はエグいです。
カタログでファイアストームを解除しておく。
ガラッと死骸の山からアントの胴体部分が転がり落ちる。お尻の針がこちらを向いてキラッと光った。
「ぎゃっ! デス、早くここを出ようよ。」
その時、はははははっと笑い声がして見上げると、あの人が腹を抱えて笑っていた。
明らかに私のことを笑っているよね。
うう。
その後自己紹介し合って、ランクAのアルディさんと知った。
確か、グレルさんも同じランクだったよね。
じゃあ、盗賊討伐の時にもいたのかも。
アルディさんは護衛の仕事でブライへ行くそうだ。
私たちはドローガ村へ行ってからブライへ寄るつもりだと伝えたら、ブライで会おうと、手を上げ先に行ってしまった。
とにかくこのアントが見えないところまで行きたいので、デスを急かして私たちも先へ進み、ようやく肩の力を少し抜くことができた。
この後はしばらく行くと沼地地帯になるらしく、デスの『鷹の目』で視てもらった結果、沼地を抜けるには半日ちょいかかるらしい。
もうお昼過ぎだから、今から行くと中途半端なところで休まなくてはならなくなりそうだった。
私たちは少し早いけどここで休んで、早朝に出発すると決める。沼地でスモールハウスは出せなさそうだしね。
そんなこんなで早めに寝たおかげで、早い時間に目が覚めた。
デスの淹れたお茶で一息入れてから、リベルさん家の庭で採れた野菜と、ボーボー鳥の卵焼きを挟んだサンドイッチで朝食。
デスはお茶のブレンドを変えておかわり中。
「アルディさんはどうしてるかな。」
「沼地を抜けたところで休んでいるんじゃないか。」
「すごいよね、あの後の時間から沼地入るって。さすがランクA?」
「経験値が違うからな。」
そうだねえ。
ランクAって、どれくらい仕事してなれるんだろうね。
「今日は採取控えめにするよ。早く沼地を抜けた方が良さそうだしね。」
「少しくらいは大丈夫だと思うが。」
「抜けるの優先で!」
「ふ。分かった。」
後片付けと身支度を手短に終わらせ、出発する。
春とはいえ早朝はまだまだ肌寒いけど、これくらいが歩きには心地いい。
日が高くなる前に少しでも進めておきたい。
木々はまばらだが、空気が少しじっとりとして沼地が近いような雰囲気に変わっていった。
簡易舗装された道の脇の土も乾燥した土ではなく、湿り気のあるものに変わりつつある。沼地が近いかな。
じめじめした場所も苦手だった。
ずっと家にいると自然に触れることも少なくなってしまう。
こっちにきてから素材採取で慣れてきたけど、じめっとしているところはちょっと嫌だなあ。
だから今日は服装も、強い汚れが目立ちにくいような色にした。
魔物には遭遇しなかったから、すぐに沼地と分かる場所についた。
はい。
沼地です。
見るからにどろどろの沼の上を、木の板で作られた道ができていた。
馬車も通れるくらいの幅はあるけど、万が一踏み外して落ちたら悲惨だ。
それに臭いも……。
冒険者って大変な仕事ですね……。
この辺りは水系の魔法が得意な魔物が多く生息していて、それらが水を使うから沼地になったとかなんとか読んだ。
こんなところにまで道を作って。こういう道は誰が作ってくれているんだろう。
「沼に住む魔物がいるらしいから用心しよう。」
「うむ。」
水系の魔物が多いから火魔法の出番かと思ったけど、こういうところはガスが発生していたりするから、火は厳禁なんだって。昨日私の魔法を見たアルディさんが念を押して言ってくれた。
だから今回は、得意の土魔法の出番です。
木の板の道はしっかりと頑丈に作られていて、意外と安心して歩けた。
それよりも辛いのは臭いだった。
臭くて臭くてたまらない!
「デスは大丈夫なの?」
「まあ、臭うな。」
「ううっ。」
服の襟元を掴んで鼻を覆っていたけど追いつかなくて、バッグから厚めのタオルを出して鼻を押さえながら歩き続けた。
慣れれば平気とまではいかなくても、何とかなるかなと思ったけどやっぱり臭いわ……。
グギェェ。
え?なんか聞こえた?
臭すぎて幻聴まできた?
「魔物だ。」
デスが鎌を出して構える。
ハッとして慌てて辺りを見回す。
いた。
沼地から顔を半分出しているカエルのようなもの。
「フロッグだ。」
本当にカエルだ。でっかいけど。両手で抱えるくらいかな。
こっちの世界って、巨大化したのが多いよね?!
フロッグはじっとこちらを見て動かない。
攻撃してこないのならほっとこうかな、と思ったところを急に口が開いて水球を飛ばしてきた。
「ひぎゃっ。」
土魔法を使う暇もなく、慌ててしゃがみ込んで躱した。
びっくりした!
気づくと、反対側の沼にも数匹もう少し小柄? なフロッグが出現していて、こちらをじっと見ていた。
……もしかして当たっていたら、ここに落ちてた?
「気をつけろ。来るぞ。」
最初のフロッグに視線を戻すと、もう一匹大きめのフロッグがいた。
増えてるー!!
はっ。
土壁!
水球を二匹同時に飛ばしてきたので、土壁でそれを防ぐが、ドンっと衝撃が結構強い。
それなら。
硬化!
フロッグ二匹がいる辺りの沼を硬化させて、動きを制限した。
焦ったように沼地を出ようとするが動けなくて顔の部分だけがプルプルと揺れた。
ふう。
時間が経てば沼に戻るから、このままにして行こうっと。
あれ?
気づいちゃった。
この沼全部固めちゃえば一気に通り抜けられるんじゃない?
あ、でもそうしたら、息ができなくて死んじゃうかな。
……やめよう。殺生がしたい訳じゃないし。
魔物が出たら有無を言わせず、硬化。それでいけば攻撃されずに進めるかな。
そんな私を見てデスが言う。
「ここはまなに任せた。」
「頑張ります。でも臭いだけはやだな。」
「……結界。」
デスの結界魔法が体の周りを包むのを感じる。
えっ?
あれ、臭いが、消えた?
「結界魔法には、臭い遮断の効果もあるから。」
「……うそーっ!」
「すまぬ。忘れていた。」
「……ううん。ありがたく使わせてもらいます。」
がっくりと肩から力が抜けたけど、これはありがたい!
そうだよ。結界って音声遮断臭い遮断があったじゃない。
どうして思いつかなかったんだろう。
「経験値だな。」
デスがボソッと言う。
「うーん。」
そうね。こうして快適な旅を覚えていくのね。
昨日のアンディさんもこうやって経験で覚えたことを仕事に活かしているのだわ。
そっか。
自分が持っているものやスキルで応用したりするんだね。
その後もフロッグが多く出現してその度に硬化で固めてやり過ごした。フロッグの他にも、木の上から毒の実を投げつけてくる小柄な猿の魔物(イタズラアイアイというらしい。)もいた。イタズラするだけであまり襲っては来ないが、その投げる実にやられている間に他の魔物に襲われることもあるらしい。
イタズラアイアイは魔物というより動物じゃないかと思ったけど、繁殖して増えるのが動物。
自然発生するのが魔物らしい。
人間は感じることができない魔物の魔素というものが魔物を生むらしい。
他にはゴースト、腐ったトレントがいた。
腐ったトレントは口から泥を吐き出して襲ってきたので、土壁で防いでその間にデスがウォーターカッターで切り倒した。
すると腐ったトレントが黒い灰のように散って、沼の上に綺麗な石が落ちた。
気になったので、沼地を硬化して歩いて拾ってもどると、デスがボソリと言う。
「道はなくても大丈夫だな。」
苦笑いを返しながら拾った石を眺める。
青くて親指の先くらいの大きさだ。きれいな石で魔力を感じる。
鑑定は後でしよう。
「魔物を倒した素材ってやつ? あと、灰のようになって消える魔物は初めて見たね。」
「うむ。」
ゴーストは実体がないせいか、土魔法での攻撃が効かなかった。
デスが鎌で切ってみたけどそれもゴーストの体を通過。
カタログで効きそうな魔法を召喚しようかと考えていたら、デスが闇魔法でゴーストを潰し消してしまった。
普通、ゴーストには光魔法とかではないですか?
後で聞いたら、聖水に浸した石をぶつけて倒すらしいがこの時は知らなかったので、デスの力技にお任せさせてもらった。
ちなみにゴーストも、きれいな青い石を落としたので、回収するのを忘れない。
試しにフロッグも倒してみたけど、フロッグは何も残さずに息絶えた。
うーん。
この石で命を宿していたりするのかな。いつか調べてみよう。
それにしても魔物図鑑、役に立ってなくない??
それか見落としたかな。
フロッグも色の違うフロッグがいたりして、口から紫の液体を出すポイズンフロッグもいた。
とにかく、地域による魔物生態のページは、休む時にでも補足しておこうと誓った。
聖水とか毒消しなどの対策をしっかりすれば、ランクEでもクリアできるんだろうけど、情報は大事だよ。
でも、新しい素材をゲットできたのはよかったね。
何に使えるか、調べるのが楽しみ。
ホクホクと十個ほどの青い石を袋に詰めてバッグに仕舞う。
そうして私たちは、沼地を通過した。
沼地を抜けたそこは、鬱蒼とした景色から打って変わり、緑豊かな草原が夕日に照らされ広がっていた。
「抜けたね。」
すごい達成感が湧き上がってきて、自然と顔が破顔する。
「うむ。」
「デスもお疲れ様。」
沼地を抜けた辺りから少し歩いて、ちょうど良さそうな場所にスモールハウスを設置して休んだ。
ところで。
実は魔物図鑑には載っていない情報等を売っている『情報屋』という人たちがいる。
通常は、彼らが情報を買ってくれそうな人に声をかけて売買を交渉してくるのだが、まなとデスの組み合わせは冒険者には見えず、売りつけにくる人がいなかっただけ。それを知るのはまだ後の話であった。
読んで下さって、ありがとうございます。
※沼地を抜けた時間がちょっと早かったように感じたので、「太陽が真上から少し傾いた頃」から「夕方」に変更しました。




