遠征二日目
二日目も順調に歩みを進めています。
何もないような広い平原に、だんだんと草木の密集が増えてきた。
木の影や草の茂みから、今にも魔物が飛び出してきそうな、この道以外手入れされていないような荒れた風景。
時々、乾いた土が盛り上がったような丘を見かける。
そんな感じ。
そこで、初めて一匹のアントに出会ったときは足が震えた。
アントの感想?
ぐ、グロい……!
信じられない大きさ。
日本にいたときは、道端のアリなんて気にも留めなかったけど、これは無理。
虫系は……無理!
私を獲物としか見ていない、アントの無機質な表情。
肉食だ。
と確信した。
魔物図鑑で前もって調べた通り、火魔法『ファイアボール』でなんとか蒸し焼きにしたけど……。
生理的に好きではない見た目にやられて、ギャーギャー叫びながら倒すという失態を晒した。
アントは殻が硬いから、体のつなぎ目を狙って斬るか、火魔法で蒸し焼きにして倒すのが一般的だと書いてあった。
「この辺りはアントの縄張りが多いみたいだな。」
アントは血を流さないし、素材になる部位もないのでそのまま放置する。
「デス、ここは早めに通り抜けたい……。」
フッと苦笑いをして、分かってると頷いてくれた。
「とりあえずそのまま、火魔法を解除しない方がいいだろう。」
「絶対解除しない。」
「ふ。ここからは私がメインでやってやる。」
ありがとうございます。虫はダメなんです。本当はしっかりと倒せるようになっておく方がいいんだろうけど、私の目的は強い冒険者じゃなくてゆっくり暮らすことなんです。無理無理無理。
「おい、まな。しっかりしろ。」
はっ。
「そんなにダメなのか。」
「ごめんでも……。アントは火魔法が効くんだし、私頑張るよ。」
「いや、火魔法でなくても倒せる。」
「そうだろうけど……。動く魔物のつなぎ目を狙うって厳しそう。」
「……。」
デスが少し思案顔になって、それから鎌を持ち上げてニヤリと笑う。
「まあやってみる。あと、威圧を放って近づかないようにしてみるか。」
「それって、どれくらい効くの?」
「それは定かではないが。」
ふと、馬車の走る音が後ろから聞こえてきたので、邪魔にならないように端に寄る。
木造の、ファジールからエルドラドへ来た時に乗っていたような、乗合タイプの馬車だ。
横を通り過ぎて、しばらく行ってから止まった。馭者さんの隣に乗っていた冒険者風の青年が降りて近づいてくる。
「おい、お前ら、冒険者か……。他に人を見ないけど、まさか二人だけか?」
この世界では見た目で年齢を推し量ることは無理だけど、見た目だけで言うと三十より手前って感じかな。
こげ茶の短髪に、黒いバンダナのようなものを巻いている。
武骨な革の胸当てに、大きい両手剣を背中にかけていた。
いかにも、冒険慣れした人の雰囲気が伝わってくる。
「はい。二人でチームです。」
「歩きだろう? 大丈夫か?」
すごく怪訝そうな顔で聞いてくるので、とりあえずその通りではあるけど大丈夫だと伝えた。
「そうか? 一応、油断するな。この先しばらくはアントが出るし、もう少し行くと沼地だからキツいぞ?」
「はい。気をつけます。ありがとうございます。」
「護衛中でなかったら一緒に行ってやるんだが、でも坊主は結構腕が立ちそうだな。」
デスをまじまじと眺めてから、気をつけるんだぞと何度も念を押しながら馬車に戻って走り去っていった。
「グレルみたいだな。」
「あは、そうだね。いい人そうだったね。」
「ふ。なかなか強そうな奴ではあったな。」
それからしばらくいくと、むっとデスが鎌を構え、ウォーターカッターを茂みに繰り出した。
ザザッと音がして倒れたそれを見ると、胴体が真っ二つに分かれたアントだった。
すごい。
きれいに狙って切断してる。
草の影で見えないのにどうやって?
ささっとその場から距離を取って、アントが目に入らないようにする。
「カッターで倒せるのは確認できたな。」
「うん。良かった。デス、お願いします。」
デス様。
思わず両手を合わせて拝んでしまった。
アントは獲物を探すときは単体で行動するけど、見つけたら、それの大きさによっては仲間を呼んで、みんなで巣まで運ぶみたい。
ぞっとするよね……。
デスの行くぞという掛け声に同意し歩みを早める。
しばらく行くとアントの他にも、ラビットやオオガラスなどとも遭遇した。
他にも、ラビットよりも強い一角ラビット。キラーラビット。
土の中からワームも出てきた。
ただしワームは、潜っている場所が丸わかりだったから、一度は土魔法で埋め直したけど、攻撃するわけじゃないからスルーしたり。
一つ分かったことが、魔物図鑑って、完璧ではないんだということ。
本で紹介されたよりもたくさんの種類の魔物が出てきて、メインは土魔法で倒したけど、見た目で効きそうな魔法を使って倒したりもした。
デスはサクサクと倒していく。全然苦労していない。
それにしても、アントが本当によく出現する。
今、目の前にもアントが顎をカチカチと鳴らして威嚇してくる。
ウルフよりも、遭遇率高くない??
デスを見ると、魔力が立ち込めるような空気の変化を感じる。その表情はニヤリと笑っていた。
アントが近づいてこない。もしかして威圧?
その状態のまま、デスが鎌を振り下ろして空を切った。
ブゥンッと、風を切る音だけがする。
するとアントが慌てたように踵を返して逃げていった。
「わっ、逃げた。」
すごいすごい。
鎌を振り下ろしただけで魔物が逃げるなんて。
と、その逃げたアントだけではなく、いくつかの草茂みもガサガサとざわめく。
他にも魔物がいたようだ。
そのざわめいた茂みたちが、ザザザザッと前方に向けて散っていくような動きをした。
これなら……アントとは戦わなくて済みそうかな?
それからはアントのみならず、魔物と遭遇することなく歩き続けることができて、ちょっとほっとした。
「遭遇したくない雑魚魔物には有効だな。」
デスがそういうのでますます安心して、それでも早歩きで進む。
しばらく歩いていくと、デスが足を止めて前方を見据える。
「異様な空気を感じる。」
言われて意識して見ると、確かに嫌な空気が伝わってくる。
ギャーギャーと、鳥のような騒がしい声もわずかに聞こえる。
「……なんだろう?」
少し駆け足で様子を見に近くと、緑と乾いた土の上に黒いものが見えた。
よく見て腰を抜かしそうになった。
なんとアントの群れがひしめき合っていた。
「鷹の目」
デスがスキルで様子を見に行ってすぐに戻ってきた。
「アントに囲まれいる馬車が見えた。」
「え?それって。」
「ああ。さっきの馬車だ。」
「!……大変!!」
「あと、砂山みたいなところに穴が開いていて、そこからどんどんアントが出てきている。」
「あの丘みたいなの、巣だったのね。どうしよう?」
「さっきの冒険者が馬車の周りで戦っていたが、アントの数が多すぎる。」
「オープン!」
カタログを召喚して、火魔法のページで『ファイアボール』を解除する。
そしてもっとレベルの高い火魔法『ファイアストーム』を購入。
魔力を右手に宿るのを確認してから、カタログを閉じて前方を睨みつける。
「分かった。私も行こう。」
「うん。」
怖がっている場合ではない。
すごく怖いけど、少しでも後方支援したい。
デスが鎌を水平にして両手で構える。
見ていたら、鎌の形が変形した。
変形というか大きくなった。倍の2メートルくらいになっている。形もシンプルな鎌じゃなくて、装飾されたような作りになっていて、すごく強そう。
「なにそれ??」
「刃の部分は魔力で作り出している。今回は、いつもより多めに込めた。」
「刃って、魔力で作れるものなの?」
「この武器は特殊で、そう作られているんだ。」
アントの群れに目を向けながら、先に私が魔法『ファイアストーム』を放って、怯んだところにもう一発。そしてデスが加勢に入る。
私は近づきすぎないようにしながら、手薄なところに魔法を放つということをデスと決めて、瞬刻駆け出した。
読んで下さって、ありがとうございます。




