盗賊が出ました。
過ごしやすい気温だったけど、最近ちょっと冷えてくるようになったなあ。
季節はもう冬に移り変わっていた。
二つある木箱のうち一つを、外で待つデスに手渡す。
「デス、これお願い。」
「うむ。」
昨日作った、『回復薬(小)』と『回復薬(大)』の瓶詰めを十本ずつ、箱に詰めたものだ。
ギルドに随時依頼が出ているから、時間が空いた日には受注して調合して卸している。
ランクFの依頼では『回復薬(小)』になっているんだけど、『回復薬(大)』も作れると話したら、仕事をさせてもらえるようになって、結構良い収入源なんだ。
ホワイトベアーの毛皮のポンチョを肩に巻いて、あったかブーツを履く。
デスは、ブラッディベアーの毛皮の腰巻きをコートの下につけている。
「寒いね。」
言葉と一緒に吐き出された息が白くなる。
フェイクファーなんてものはなくて、本物の毛皮です。
元の世界では、毛皮は高いし、セレブな人たちが身に付けるもので自分には縁がない、と思っていたけど。
安い毛皮はちょっと獣臭かったり、手触りがゴワゴワしていたりするから、お金を惜しまないでしっかり良いものを買ったよ。
そのうち雪も降りそう。
両手を擦り合わせて暖をとる。
デスとギルドまで歩く道すがら、顔なじみのご近所さんであるマルさんとこの時間にいつも会う。
「おはよう。」
「マルさん。おはようございます。今日も冷えますね。」
「ね。そろそろ雪が降ってくるわよ。今日はギルド?」
デスが抱えている箱を見て言う。
「はい。依頼品が出来たので卸しにいくんです。」
「順調に依頼をこなしているのね。」
「おかげさまで。」
「そうそう、聞いた?盗賊が出たんですって。」
「え? 盗賊ですか?」
マルさんが声を潜める。
「ツクノ平原で業者の馬車が襲われたんですって。」
ファジールを出てこっちへ来るときに通った平原だ。
「それで、襲われた人は無事だったんですか?」
マルさんは、黙って首を横に振る。そんな……。
「襲われた馬車、積んでいたものも貴重品ばかりで、ランクBの冒険者を二人護衛につけていたんだけど、その人たちも一緒に……。」
「ランクBで?」
「そう。強盗は顔を見られたら捕まるから、基本生かして逃がさないわ。……あなた達も気をつけるのよ。」
頷いて返す。
マルさんは、正門で受付をしていて、出かける冒険者が無事帰ってくるとホッとすると言っていた事を思い出した。
ショックだろうな……。
私もデスも、冒険者のランクは変わらずFだけど、いくつか依頼をこなしてきて、今ではもう、外で採取依頼を遂行したりしていた。
魔物も、ウルフやキラーアント、ワームなどはデスと一緒に倒せるようになっている。
デスが見た目に反して強い。
魔物を狩ることに躊躇がないからだとデスは言っていたけど、それでもサクッと倒してしまう。
今では意識して私の補佐をしてくれている。
そうそう。収納カードはやっぱり私には使えなかったから、デスに使ってもらっている。
「盗賊が出るなら、外へ出るのは自粛した方がいいかな。」
「うむ。用心に越したことはない。」
「そうね。でも、誰かが討伐依頼を受けるんでしょうね。」
「そう、ランクAの冒険者が数人駆り出されたわ。ランクSの人はほとんど出張っていてここに居ないから。」
「大丈夫かしら。」
「安心はできないわね。そう、グレルも討伐メンバーにいたわよ。」
「グレルさんが!?」
「ランクAだったのか。」
デスが意外そうに言う。
「あら、グレルってああ見えて強いのよ。でも油断はできないわよね。」
そっか……。
ザワザワした気持ちが胸を占める。
グレルさん無事で居て。
心の中で強く祈った。
マルさんと別れてギルドに着くと、中はいつもより騒然としていた。
やっぱりギルドでも盗賊のことが話題になっているようだ。
特に商業関係の人が受付に集まっていて、護衛がとか討伐してくれとか色々声が飛び交っていた。
「ランクAの冒険者が、ほとんど討伐に向かったからこの騒ぎですよ。」
すっかり顔なじみになったカルダさんが寄ってきて、耳打ちしてきて驚いた。
「カルダさん、突然耳元で話さないでくださいよ!」
「おや。冒険者たる者、これぐらいで驚いてどうします?」
「もう……。」
「まあ、それはさておき、持ってきてくださったんですね。」
木箱をチラッと見ながら部屋へ誘導する。
「はい。よろしくお願いします。」
デスと共にミニ会議室へ入って、木箱をテーブルに置いた。カチンと瓶の擦れ合う音がする。
「こっちが回復薬(小)で、こっちが(大)です。」
「はい。」
カルダさんがスキル『鑑定』を発動して、チェックしていく。
「確かに。報酬は受付で受け取ってください。ギルドカードを。」
ポーチからギルドカードを出して手渡し、依頼完了の手続きをしてもらう。
いつもの流れだ。
「ほんとにこれ、どういう仕組みなんですか?」
「前にも言いましたけどね、この魔石が依頼完了の印をカードにつけるんですよ。で、受付でそれを読み取るんです。」
「やっぱり何回聞いても分からないわ。」
「学院へ行って一から魔法学を学んでください。」
「それは考えていません。」
「やれやれ。」
カルダさんがツイと片眉をあげて顔を振る。
「それよりも、今日はお願いがあるのですよ。」
あれ、珍しい。
「何でしょうか?」
「まずはお二人とも掛けてください。」
木箱を机から下ろしながら、カルダさんが椅子を勧めるので、デスと顔を見合わせながら座った。
「まずは、盗賊が出たことはご存知ですね。」
「ええ。」
「うむ。」
「ギルドは、ランクBの冒険者も二人失いました。相手はそれほどの手練れということで、それなりの措置をとっていまして。」
頷きながらじっと聞く。
「ギルドからはランクAの冒険者のほとんどを討伐チームとして依頼しました。ほとんどの方が引き受けてくださいました。ただし、門番を空けることはできないので、数人は正門に残ってもらっています。」
「……。」
「そして、治癒師も三人常在するように配置済みです。」
「はい……。」
「そこで、回復薬、薬草、傷薬、とにかく回復系アイテムの用意も始めています。怪我人が出た時にすぐ対処できるように、です。」
何となく話の流れが分かってきたかも。
「何となく察してくださっていると思いますが、まなさんには回復薬のクエスト受注の実績もあるので、是非お願いしたいのです。それも『回復薬(大)』を。」
「回復薬を。」
カルダさんは深く頷きながら、話を進める。
「まなさん以外の方には、それぞれ傷薬、毒消し、聖薬をお願いしています。役割分担で進めたいのです。」
「何個作ればいいんですか?」
「お願いできるのであれば、『回復薬(大)』を二十個。無理なら十個でもいいです。」
「……分かりました。期限は?」
「早ければ早いほどいいです。でも使ったとしてもあと二日は在庫が持ちますので、切らすまでに持ってきてくださると助かります。」
「じゃあできた分からデスに持って行ってもらいますね。」
「ありがとうございます。」
カルダさんが頭を下げるので、驚いて止める。
「カルダさん。」
「では、一緒に私の席へ来てください。特別依頼発注の手続きをしますので。あ、デスさんのカードもお願いします。」
「私は調合せぬが。」
「いえ、お手伝いをしていただけるんですよね。ちゃんと評価させてください。」
「そうか。」
私たちのギルドカードを預けて、一旦ミニ会議室を出て、そのまま受付へ向かった。
カルダさんの受付で、依頼受注をしてカードを受け取り空き瓶を貰い受ける。それと同時に、回復薬の報酬も受け取った。
スモールハウスへ帰ろうとギルドを出る時、ランクFの掲示板に、あの二人がいた。
バッシュさんとザイトさんだっけ。
ランクFになったんだね。
二人を見ていたら、こっちを向いて視線が合った。
私たちだと気付くと、フン、とそっぽを向かれた。
そんなに嫌われるようなことしたかなあ。
「まな。」
「うん、行こう。」
空き瓶の詰まった木箱をガシャリと持ち上げて、スモールハウスへ帰った。
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