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パン屋さん『ココ』

「そういえばまな、眼鏡かけるんだね。」

 三人で連なって歩きながら、リベルさんが話しかけてくる。

「え? あ、そうか。」

『鑑定眼鏡』をかけたままだった。

「これ鑑定の魔道具なの。」

「ええ?」

 リベルさんがまじまじと眼鏡を見て、そんな魔道具あるの? と驚いていた。

「でもまなにしか使えないんだよね。」

「多分。」

「そうだよね。鑑定スキル僕は持っていないんだ。それ、なかなか似合っているよ。」

「ふふ。ありがとう。」


「あ、そこだよ。」

 リベルさんが指す方を見ると、細い路地の奥まった所に草木が生い茂っていて、壁のような面にドアが見えるだけ。ドアの手前に小さい看板が置かれていたが、掠れていて読めない。

「ココっていうお店でね、地元で愛されているパン屋さんだよ。ご覧の通り分かりにくいからあまり知られていないけど、知る人ぞ知る隠れ名店。美味しいよ。」

「パン屋さんなんだ。」

「そう。ちゃんとデスの好きなスープもあるよ。」

「フッ。」


 細い路地を一列に並んで歩き、小さめのドアを潜ると、そこは別世界だった。

 茶色を基調にした、とてもシックな作りになっていて古めかしく、どこかホッとする空間だった。

 パンの匂いに混じって、色々な香りが漂っている。

 珈琲に似た匂いも感じてちょっと興奮した。

「ステキな雰囲気のお店ね。」

「でしょ。自家栽培とかしていて、結構安いから地元の人がよく利用するんだ。僕もね。」

「好きだわ、こういうお店。」

「しかもね、仕入れで変わったものを置く時もあってね、そういうのは安くないけど絶対楽しめるんだよ。今日は何かあるかな。」

 リベルさんがそう言いながら、マスターに手をあげて階段を下っていく。

 深い色合いの赤いエプロンをした男の人がニコッと笑って頷いた。

 エプロンの色がまた、このお店の雰囲気に合っていて素敵だった。

 私とデスもマスターにペコリとお辞儀をして、リベルさんに続く。


 階段を降りると、重厚な色合いのソファーが所々に置かれていて、数人がすでに腰掛けて食事をしていた。

 空いている席に座って、壁のメニューを見ながら食べる物を決める。


 注文を取りに来た女の人に、デスはやっぱりスープ。リベルさんはランチセットを頼んでいた。

 私は、ココ特製パンセットにした。

「マスターの奥さんだよ。」

 リベルさんがそっと耳打ちしてくれる。物静かな雰囲気の人で、さっきのマスターを思い出してなるほどと思った。

 辺りを見回す。

 パン屋さんっていうより、喫茶店みたいだね。日本でいう懐かしい昔の喫茶店って感じ。

 オムライスとかクリームソーダーとか出てきそう。

 日本でもこういう喫茶店に行ったことはないけど、心の奥底に懐かしいと感じる潜在意識を揺さぶられるような、心地よさがある。

 やばいです。常連さんになっちゃいそうです。


「今日は何か入ってる?」

「ふふ。今日はラスカエミューの卵が入ったから、スープにしたものがありますよ。」

 スイとデスが顔を上げる。


 卵スープ!

 卵あるのね?


「エミューの卵採れたの? すごいね。いくら?」

「一杯で銅貨五枚です。」

「じゃあ、三人分お願いします。」

「リベルさん?」

「今日は僕が奢るよ。デス、スープどうする?」

「さっきのは取り消す。」

「はい、かしこまりました。」


「リベルさんありがとうございます。」

「どういたしまして。」

「卵ってどこで採れるんですか?」

「普通に食べられているボーボー鳥の卵は、飼育している人から買うんだよ。」

「へえ。」

「でもエミューは、特定の地域にしか生息していないと言われているんだ。今日の卵はラスカに生息しているラスカエミュー 。」

「じゃあ、貴重品?」

「そう。このお店の息子さんがS級冒険者でね。強くて、食べることが好きな人で、主に珍しい食材を探している人なんだ。」

「面白そうですね。」

「とんでもない!珍しい食材、うまいと言われる食材を採るためとはいえ、魔物もその分強いからね。命がけだよ。」

「……。」

「でもここの息子さん、アモンさんって言うんだけど、パーティを組んで野営をしながら冒険しているみたい。冒険者というより、ハンターかな。」

「危険なところで野営しているんですか?」

「そうらしいよ。まあ、数少ないS級冒険者で変わり者って言われているけど、間違いなく強い人だから、意外と楽しくやっているのかも。好きなことしているしね。」

「はあ……すごいですね。」

「で、ここの両親の元へ食材を送ってくるんだ。それが店に出て僕たちが食べられるってわけ。」


 ちょうど奥さんがランチを運んできたので、話を中断する。

「おまたせしました。ランチセット、ココ特製パンセット、ラスカエミューの卵スープです。」

 ワゴンから次々テーブルに並べていく。

「セットのスープは、フルーツに変えさせていただきました。」

「うん。ありがとう。」

「わあ。美味しそう!」

「ふふ。ごゆっくりお召し上がりください。」

 デスを見ると、じーっとスープを眺めている。

 ラスカエミューのスープは淡い黄色の溶き卵をスープに投入されていて、緑の野菜とトマトも入って色が綺麗だった。

 スプーンですくって飲んでみた。

 ちょっとスープがトロンとしている。鶏ガラっぽいかな?

 あ、この卵美味しい!

 鶏の卵よりまろやか?

「美味しいです。」

「うむ。」

「うん。美味しい。」


「……。」

「……。」

「……。」


 無言になって夢中で食べていました。

 ボーボー鳥の卵は入手困難ってわけではなさそうだよね。あとでこの街にもあるのか聞いてみよう。


 ふと、横の奥まった壁際にぎっしりと本が並んでいるのに気付いた。

 その視線に気付いたリベルさんが、ここの本は持ち出さなければ自由に読めるよ。この本も人気の一つ。と教えてくれた。

 実はこの世界の本はとっても高い。

 ファジールで買った『調合全集』も金貨五枚払ったのだ。その時に、本には魔法がかかっていて、一定の距離を持ち出すと『捕獲』の呪文が発動して、お縄になると聞いた。買う時にその魔法を解除してから受け取ったので知ることができた。

 本だけではなく高価な商品には大抵魔法がかかっていると本屋さんが言ってたなあ。


「ここの本もちゃんと魔法がかかっているの?」

 なんとなく、勝手に持ち出されないのかしら? と心配になった。

「ああ、捕獲の? 多分ね。でも、マスターもママさんも名の知れた冒険者だったし、本を持ち出したって言う馬鹿な奴の話は聞いたことないなあ。」

「……すごい冒険者のお店なら安全だね。」

「そうだね。」


 デスも、スープを飲み終わって、ソファに深く腰掛けながら辺りを眺めていた。

 すごく寛いでいるね、デス。二人でもまた来ることになりそうな予感。

 一人クスッと笑って、ココ特製のパンをちぎって食べた。

 硬い焼き目がパリッと音を立て、優しい小麦の匂いと味が舌に広がり、とっても美味しいパンだった。

読んでいただき、ありがとうございます。

冷え込みが厳しくなってきましたね。身体には気をつけてお過ごしください。

宗馬も、ホットココア片手に投稿しています。

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