調合の結果は?
ふと目が覚めたら、デスがテイ茶を淹れていた。
「あれ。デス帰っていたの?」
「ああ。飲むか?」
「うん。ありがとう。ごめん、デスのベッドで寝ちゃった。」
「構わん。」
両手にテイ茶が入ったカップを持ってテーブルまで運んでくれた。
「ほら。」
「ありがとう。」
一口飲むと、リベルさんの家で飲んだテイ茶と似ていた。
「リベルにオランジの皮だけ分けてもらったんだ。」
「ふふ。デス、気に入っていたものね。」
「くれると言うからもらっただけだ。」
「ふふ。」
一口一口飲んでいくと身体が温まる。
ふとテーブルの上が綺麗に片付けられていて、調合で作った瓶だけが置かれているのに気づいた。
デスもそれに気づいて、
「それ以外はバッグにしまっておいたぞ。」
と言った。
「調合、できたのか。」
「一応形だけ。効能とかは分からないから、鑑定眼鏡があるといいかなって思って。」
カップを置いて、カタログを召喚する。
「これなんだけど。」
楕円形のレンズに、黒い縁の眼鏡を指差す。
「確かに鑑定ができないと、完成しているのかも分からぬな。」
「どうかな?」
「スキルの方がいいんじゃないか?」
デスもソファに腰掛けながらカタログを覗き込む。
「ポイントが高かったから。他にも買いたいものはあるし、こっちにする。」
「そうか。」
早速『鑑定眼鏡』をポイントで買って、装備して魔力を込めながら回復薬の瓶を凝視してみた。
すると眼鏡越しに、瓶の周りに文字が浮かんで見える。
『回復薬(微小)ヨモ草、水、長命草のエキス、製作者まな』
「すごーい!」
もう一つの、魔力を込めながら作った方も見てみる。
『回復薬(小)ヨモ草、水、長命草のエキス、魔力まな、製作者まな』
項目が一つ増えてるね。
でも(小)なんだね。本ではかなり効能アップするようなことが書いてあったのに。
内心ちょっとだけがっかりしちゃった。
「あれ?」
「ん?」
一つ気づいた。
「ただの水になっている。水の魔石で出したきれいな水を使ったつもりだけど。」
「きれいな水ではないということだな。」
「もしかして……水を浄化してからでないといけないのかな。」
でも初めてで、回復薬(小)が作れただけでも良しとしよう。
次は浄化する方法を調べてもう一度作ってみたい。
というか、材料を鑑定すればいいんじゃない?
きれいな水になったか鑑定してから使えば無駄もなくなるよね。
デスに説明すると、初めてにしてはいい方だと言ってくれた。
ふと、外の方で騒がしい女性の声が聞こえてきた。
なんか揉めているような、なんだろう?
デスと窓辺に寄って外の様子を探ると、庭の入り口の門でリベルさんが女性と言い争っていた。
「リベルさんだ。」
「うむ。」
「あの人、何だろう? リベルさん困ってるみたいだけど。助けに行った方がいいかな?」
「どういう事ですの!」
「だからそういうんじゃないんだよ。僕は……」
女の人の方が一方的に怒っていて、リベルさんは明らかに困ったように対応していた。
「あのう、大丈夫ですか?」
二人に近づいて恐る恐る声をかける。
するとリベルさんに詰め寄っていた女性が、キッとまなを睨んだ。
すごい髪型……。
まず、こんもりと作り込んだ頭にびっくりしてまじまじと眺めてしまった。
「あなたは引っ込んでいてくださる?」
「ナディア、まなに失礼だよ。」
「そう。まなさんとおっしゃるのね。まなさん、あなたリベル様とどういうご関係?」
「どういうって……リベル様?」
「私という婚約者がいるのに、なぜ他の女性が一緒に暮らしていらっしゃるのかしら?」
ナディアさんはにっこり笑いながら、頰をヒクヒクさせる。
「婚約者……?」
「ナディア。それは母が勝手に話していただけで、僕は聞いていないんだ。」
「リベル様、私はずっと夢見ていましたのに、あんまりですわっ!」
両目に涙を浮かべて走り去り、近くに待たせていたらしい馬車に乗って去っていった。
呆然としていると、ばつが悪そうにリベルさんが謝った。
「まな、驚かせてごめんね。」
「……今の人は?」
「ナディア。母の友人の娘さんなんだ。昼前に一度来たらしくて、でも結界が張られていて入れなかったみたい。」
「ああ、あの女だったのか。」
「デス?」
「誰かが結界に触れたのを感じたから。」
「そっか。でもまあ、結界があってよかったかも。突然まなとばったり会ってたらと思うと……。」
リベルさんが顔に手を当ててため息をつく。
「掛けて話そう。」
リベルさんが率先して、庭に設置した椅子にみんなで腰を下ろす。
リベルさんの話によると、ナディアさんとはお母様同士が親友で、よく家で会っていたそうだ。
お互いの子供の年も近いし、将来結婚したら家族になれるわねっと軽く話していた事を、ナディアさんが知ってそれから想い続けてきたらしい。
リベルさんにとっては友人の一人で、そういう風には見ていないと伝えたけど、納得してもらえていないようだ。
ちょっとナディアさんが可哀想な気もするけど……。人の気持ちは、思うようにはいかないね。
「いつもはあんな風に怒ったりしないんだけど、まながいたから逆上してしまったみたいだ。ごめんね。」
「私はいいけど……でも、これから大丈夫?」
「ナディアは基本いい子だから、誤解だと分かればまなとも仲良くなれると思うんだよ。」
「ふっ。」
「デス?」
「そう簡単かな。」
「……子供のくせに妙に達観しているんだね。」
「あ、リベルさん。デス見た目は子供だけど、それは呪いのせいで。」
「……えっ?」
「本当は成人しています。」
「……そうなの?」
そうらしいです。
「ふん。」
リベルさんが、デスと私を相互に繰り返し見ながら、それって、とかブツブツと何か言っています。
大丈夫かな? リベルさん。
「一応、母に連絡入れておくよ。ちょっと待ってて。」
リベルさんが家に入っていく。
しばらくデスと話しながら待っていると、手紙を持って出てきた。
「ちょっと送るから待ってね。」
そう言って手紙を持っていない方の手を上に向けて唱えた。
「リリィ」
すると、緑色の風が手のひらでつむじを起こして、みるみる鳥の形に変わった。
きれいな緑の羽根に覆われていて、尾からは長い二本の羽根が伸びていた。
何より艶々とした丸いお目目が心臓を鷲掴みにするくらい可愛かった。
「な、なんですか、この鳥は。」
驚いてじっと鳥を見ていると、ピィと鳴いた。
「可愛い!」
「知らない?れんらくちょうだよ。」
「……連絡帳?」
「そう。連絡したい相手に手紙を届ける鳥だよ。」
「……あ、連絡鳥?! 鳥なのね。」
リベルさんが不思議そうに首を傾げていたけど、私からしたらギャグかと思ったわ。
伝書鳩みたいなものかな。
「リリィ、これを母上に届けてね。」
連絡鳥のリリィは、ピィと鳴いて手紙を加えると青空へ飛んで行った。
「とにかく、また来るかもしれないけど、怪しい人物じゃないから安心してね。」
「私は大丈夫だけど、ナディアさんが嫌なんじゃないかしら。」
「うーん。でも僕にとっては、ナディアもまなも大事な友人だから。これはナディアになんと言われてもしょうがないさ。」
「ふっ。」
うーん。ナディアさんがきたら、ゆっくりお話しできるといいけど。
「これから案内するよ。まずは食事に行こう。僕の好きなお店を紹介するよ。」
そういえばもう昼過ぎで、お腹も空いていた。
回復薬をバッグにしまい、スモールハウスの鍵をかけて、私達はリベルさんの案内についていくことにした。
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