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スモールハウスで朝を迎えて。

 翌朝目を覚ますと、スモールハウスの新しい木の匂いに混じって、外で雨が降っているような水の音がした。

 スモールハウスは、なかなか寝心地の良い家だね。この狭さがちょうど良いのかもしれない。


 昨日は、夕食の後、泊まっていた宿『ムンドウ』に少ない私物を取りに行き、チェックアウトする事を伝えてきた。オルテシアさんがもし訪ねて来たら、リベルさんの家に居る事を伝えて欲しいとお願いすることも忘れない。


 着替えを済ませて外に出ると、デスは既に庭で、どこから出したのか椅子に胡座をかいてぼーっとしていた。

 デスの視線を追うと、畑の中央から水が散布されていた。

 あれ、水の魔石で畑に水を撒いているんだね。雨の音じゃなかったのか。

 よく見ると、畑の所々に色々魔石が設置されている。

 後で知った事だけど、虫除けや温度調整の魔石も設置されているみたい。魔法で調整しているから、農薬使わなくて大丈夫だったんだね。いいな、魔法って。


「おはよう。早いね。」

「ああ。」

「どうしたの、その椅子とか。」

「リベルにもらった。庭用の倉庫にしまってあったそうだ。」

「そうなんだ。……これがあれば、外に料理を持ち運んで食べるのも楽しそうだね。」

「む。」

「今日は、リベルさんがお昼から案内をしてくれるから、それまでは調合の練習をしてみようと思ってるの。でもその前に、朝食作るね!」


 調理場で献立を考える。

 バッグに入ってる食材は全然使っていなかったから、いっぱいあるんだよね。

 昨日作ったチキンスープの残りを、鍋ごとバッグから出し、以前作り置きしたトマトソースも出してスープに投入した。

「これであら不思議。トマトスープに早変わり。」

 トマトソースに色々野菜も刻んで入れてあるから、作っておくと重宝するのよね。

 あとは根菜系の野菜にするか豆にするか。うん、今日は豆にしよう!

 買っておいたドライビーンズを入れて、塩を足して、柔らかくなるまで煮込む。


「ああ、美味しそう!」

 お玉で鍋の中をグルグルかき混ぜてっと。


 あとは煮込みながら、サラダを作った。

 エルドラドのカフェでチーズ入りのスープを飲んだ事を思い出す。

「後でチーズ買いに行きたいな。他にも色々な食材があるかも。案内してもらう時買い物もさせてもらおうよ。」

「そうだな。」

 デスにはテーブル拭きをお願いしてから、サラダと丸パンを盛り付けたカゴを置いてもらう。となりにバターも並べた。

 エルドラドはオランジが特産らしいから、オランジジャムも作りたいな。きっと美味しいよ。


 サラダは取り分けられるようにして小皿を横に添えた。

「なんか物足りないね。もう一品作れないかな。卵があるといいんだけどここに売ってるかな。」

 お弁当に何か、なかったかな。

 バッグに手を入れながら考える。


「そういえば……何を入れたか覚えていないものって、ずっと入ったままになっちゃうんだろうか?

 そうなったら、カオスだね……。」

「む。バッグの中身か。確かにな。」

 一度全部出して整理した方がいいかな。

 粉ふきいもと刻んだデイルを和えたものがあった事を思い出して、シンプルに塩味でまとめてテーブルに出した。


 リベルさんに、安く庭を借りる代わりに、朝食は毎食作る事を提案したのだ。

 昼は各自で。夜は約束した日のみ。


 スープがいい具合に仕上がってきたので、味見をして完了。

 デスに、リベルさんを呼んできてもらうようにお願いして、その間に、テーブルにスープとスプーンも並べていく。

「うーん。三人だとちょっと狭いけど、仕方ないっか。」


 きちんとした装いを感じる紫のローブを纏ったリベルさんが来て、みんなで食べた。

 デスが、スープを美味いとお代わりしてくれました。

 ドアと窓を開け放っているから、庭の空気が通り抜けて気持ちいいね。

 今日一日のモチベーションが上がります。


 リベルさんはこの後、魔法学校の学生たちに風魔法の実技授業があると、朝食が終わったらすぐに出かけた。

 デスは、ギルドでFランクの依頼を見てくるって出かけたけど、その前に結界の魔石を何やらいじって、結界効果を庭全体に広げて、庭からは絶対に出るなとしつこく言ってから出かけた。デスってこんなこと出来ちゃうんだね。すごい。ちょっと過保護だけど。ふふ。


 二人とも昼には家に戻るらしいから、それまでは調合をやってみますか。

 朝食の後片付けをしたテーブルに、今度は調合道具と『木の葉の手』で買った薬草やハーブ、回復薬など既製品の入った瓶各種、もらった練金粉も出した。そして『調合全集』を出して、まずは需要の高そうな回復薬に挑戦してみる。


 まずは一般的な回復薬を作ってみよう。傷薬などの塗り薬はクリームも作らないといけないみたいなので、体力回復の飲み薬から始める事にした。


『材料

 ヨモ草、きれいな水、長命草またはヒール草のエキス


 作り方

 ヨモ草を縦半分に切って割り、中のジェルをしごき出す。

 綺麗な水をジェルの三倍分量を足し、半量になるまで煮詰める。

 とろりとしてきたら、長命草のエキスまたはヒール草のエキスを分量に対して十分の一を足す。

 サラッとしてきたら冷まして、飲む薬草の出来上がり。

 ※ヨモ草のエキスをそのまま摂取するより、効果は格段に上がる。』


 へえ。ヨモ草って緊急時にはそのままかじったりしても良さそうだね。

 疲れた時の飴玉的な感覚かしら?

 ヒール草もそのままいけそうって思うんだけど、ヒール草はそのままかじるとお腹を下すんだって。

 必ず摘出したものを使うように書かれていた。


 そしてここがすごく気になるポイントなんだけど、魔力を込めながら作ると効果は更にアップするらしい。

 だから同じ材料の回復薬でも、販売価格はピンキリなんだよね。

 同じ材料でどうやって効能の差を知るのかというと、ちゃんと鑑定魔法を持っている人が視るんだって。


 薬は瓶に入っているから、冒険者にとってはあまりたくさんは持ち歩きたくないらしい。

 だから、持ち歩く数本の半数は効果の高い薬を。という人が多いらしい。もちろんお財布とも相談しなくちゃいけないけどね。


 そしてここが調合の面白いところなんだけど、販売されている本には入門編しかないと聞いた事。

 つまり、あとは独自で作り上げていくか、教えてもらう必要があるっていう事。


 『調合全集』は、調合師なら誰でも知っている情報を載せただけに過ぎない。


 調合も自分の生活の種になるから、簡単には情報公開はされないみたい。

 この本は、私みたいに調合の世界の右も左も知らない人が買うんだろうね。

 『調合全集』に載っている情報は、調合の基本だから、ここから予測しながらあるいは鑑定しながら、作り上げる足掛かりにするための全集なんだと思う。


「使う材料は鑑定できれば分かると思うんだけど、作り方とか分量とかは自分で調べるんだろうなあ。」


 『調合全集』に回復全般も載っているし、調合が難しいと言われる毒消しも数点は載っている。これだけでも困らないんじゃないのって思うんだけどね。

「独自に作り上げた調合ってどんなのがあるんだろう?」


 まだ調合を仕事にしている人には会った事がないから、なんとも言えないけど、私もちょっと試してみたいことがあるんだよね。

 日本にいた時、ネットで見たアロマオイルの精油の作り方を思い出す。

「でもこれは余裕ができてから、かな。」


 香りを焚いて何か効能があるよって使い方も良さそうだし。

 なかなかいいアイデアだと思うんだけど。

 取り敢えずまずは、基本からよね。


 まずは『木の葉の手』で買った、加工済みの薬草の匂いや色をチェック。

 これは塗るタイプだけど、使っている薬草は一緒なんだよね。

 まず完成品がどんなのか知らないと、作ってもわからないと思うし。


「ちょっと香りがキツイけど、どの薬草の香りなんだろう?」

 瓶のラベルには、薬草(小)とあり、材料までは記載されていなかった。

(小)ってどれくらいの効果なんだろう?

 ちょっと手の甲に塗って、なんとなく舐めてみる。

 味はそんなにひどくないね。なにかの香りが鼻を抜けた。ヨモ草は無臭に近いから違うし、長命草かヒール草かな?

 回復薬が喉を通ると、喉が少しじんわりと熱くなった。手の甲に塗ったところも暖かく発熱している。全然疲れていないからイマイチ効果は分からなかったけど、熱を感じる辺りが効いているように感じる。


 一通り観察してから、『調合全集』にある回復薬の材料で初調合をしてみました。

 計りを使うのがちょっと難しかったけど、きっちり分量測って作ってみたよ。

 材料を二回分まとめて用意して、まずは半量を魔力なしで普通に作って、残りの半量は魔力を込めながら調合鍋の中をグルグルして作ってみた。

 調合全集を読み直しながら、冷めるのを待って瓶にそれぞれ詰めて完成。


「出来た〜!」

 初めての回復薬だよ。

 瓶にそれぞれ回復薬(魔力無し)、回復薬(魔力有り)とラベルを貼っておく。


 鑑定のスキルってポイントいくらかな?

「オープン。」

 カタログで探してみたところ、スキル『鑑定』と『高度鑑定』。そして魔道具だと、『鑑定眼鏡』があった。

 この眼鏡は魔力を流すと物の鑑定が出来るみたい。

「やっぱりスキルの方が高いね。」

『鑑定眼鏡』の方がポイントも安いし、こっちが有力かな。必要な時にかければいいしね。


 これはまずデスに相談してオッケーが出てから買おう。デスは反対しないけど、一応共同のものだからね。


「ちょっと疲れたわー。」

 うーんと背伸びをして、そのままデスのソファベットに横になったら、気持ちが良くて眠気が襲ってきた。


「ちょっと! 何よこれ。どうして入れないの?!」

 外で何か聞こえたような気がしたけど、気のせいかな。

 眠気に勝てず、そのまま眠ってしまった。

いつも読んでいただき、ありがとうございます。

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