リベルさんと再会。
「すごく可愛くない子供だね。」
「ふん。」
うーん。合わないのかな、この二人。
事の発端は、リベルさんがデスに、「こんにちはー。僕、いくつかな?」と小さい子に話すように、デスの視線に合わせて体を低くしながら声かけた時。
デスが「気持ち悪いな。」と強烈な一言を返したから。
「ちょっとまな、疲れないの? こんな生意気な子連れて歩くの。」
「私にはそんな話し方しないので……何とも。」
「ふーん。女の人にはやさしいんだ。いやらしい。」
「ふん。ひがんでるのか。」
「むっかー!!」
「まあまあリベルさん。リベルさんはどうしてここへ?」
「あ、うん。ちょっと引越しをするんだ。」
「引っ越し?」
「うん。ちょっと理由があって、家を出ることにしたんだ。」
「そうなんですか。どちらへ引っ越しするんですか?」
「うん。……そうだ。時間あるなら見に来る? ついでにお茶しながら、街を案内する日を決めようよ。」
エルドラドの人の家が、覗けるのはすごく惹かれる。
家の中を見ると、生活とかリアルに感じ取れるよね。
「行ってみたいな。デス、どうする?」
「私は構わん。」
「私、だって。子供らしく僕って言いなよ。」
「私の勝手だ。」
また言い合い始めた。
「まあまあ、じゃあ、お邪魔してもいいかな?」
「うん。こっちへ、もう少し先だから。」
そう言って案内してくれた先は、広い庭付きの一戸建てだった。
庭には様々な植物や花が育っていて、辺りにいい匂いが仄かに立ち込めている。
手入れが行き届いているね。定期定期にお手入れしないとこうはならないよ。庭師さんかな。
家は、南の国に建っていそうな白くて可愛い家で、女の子が喜びそうなデザインだね。
二階はないけど、一人で住むにはちょっと広いんじゃない?
周りにも綺麗目な家が建っていて、先日エルドの森へ向かう途中にあった家々よりは裕福そう?
どうぞ、とリベルさんが玄関を開ける。
「わあ!」
可愛い!
広い玄関ホールは植物が色々飾られていて、開放的になっている。
靴のまま中に入って、ホールを抜けた後に脱いであがるようになっていた。そのままドアなしの広いリビングとベッドの部屋になっている。
テーブルなどがセットされたリビングには、調理場も備えられていて、近くの棚には『木の葉の手』で見たような、ハーブや液体の瓶でいっぱいになっていた。リベルさんの説明によると、料理にも調合にも使える素材が置いてあるらしい。
リビングの反対側、ベッドルームにはカラフルな布がかけられたベッドに、小さく積み上げられた本の山。
棚には何やらオブジェが飾られていた。
ドア付きの個室はなくて、一人暮らしか夫婦の家って感じ。
「ステキな家ねえ!」
「気に入った? ここは僕の姉が使っていたんだ。結婚して空いたから譲り受けたのさ。」
「お姉さんがいたのね。」
そっか。女の人が使っていたからなんだ。
洗練された優しい雰囲気のインテリアに好感を持てた。
「うん。上に三人。僕が一番下で長男だよ。」
「そうなんだ。リベルさん綺麗な顔しているから、きっとお姉さんもステキな方ばかりなんだろうなあ。」
「き、きれい?」
言い方が気に入らなかったのか、リベルさんが驚いたように目をしかめている。
「ふっ。」
デスが急に笑って、ますますリベルさんが眉をしかめた。
「むっかー!」
何かまずいこと言ったかしら?
リベルさんは、気を取り直したように、背中に背負っていた荷物を降ろし始めた。
「何かお手伝いしましょうか?」
「大丈夫だよ。姉が出たばかりの状態だから、ベッドのシーツ変えるくらいで済むし。」
「うん。」
「そこの椅子に座ってていいよ。」
「ありがとう。」
リビングにあるテーブルの椅子にデスと並んで座ると、椅子もクッションの布が貼り付けられていて、座り心地が良い椅子だった。よく見るとテーブルも、すべすべで触りごごちが良くて、脚も精巧な彫刻が施されている。
リベルさんの家ってもしかしてお金持ちさん?
「どうぞ。」
リベルさんがテイ茶を淹れて、テーブルにそれぞれの場所に置いてくれた。
ちょっといつも飲むテイ茶とは少し違う匂いがする。
何だろう?柑橘系?
「気付いた?」
リベルさんが楽しそうに笑いながら種明かしをしてくれた。
「テイ草とオランジの皮を乾燥させたものをブレンドして、はちみつを少し入れたんだ。」
「すごく美味しいです。」
そっか。こっちの世界では農薬とか使っていないみたいだから果物の皮も使えそうね。色々、面白そう。
「……美味い。」
デスが思わずと言った感じでつぶやく。
「……可愛いとこもあるじゃない。」
リベルさん、ちょっと嬉しそう。ふふ。
リベルさんって、薬草茶も美味しく淹れてくれたから、元々こういう事が好きなんだね。
クッキーとかケーキも一緒に食べたいな。
そうだ!
バッグから、ファジールにいた時に作り溜めたお弁当の一つ、サンドイッチを取り出した。
サンドイッチといっても、買ってきた小さめの丸パンを横半分にカットして調理した肉と野菜を挟んだだけ。パンの両面にはバターを塗ってある。本当はマスタードとかの方が好みだけど売っていなかった。
「これ、よかったらみんなで軽く食べませんか?」
ベルトから抜いたナイフでカットして、包みを広げてテーブルの真ん中に置いた。
「へえ。お弁当持って来ていたんだ?美味しそうだね。いいのかい?」
「はい。お口に合えばいいけど。」
「ありがとう、頂くよ。」
私も一緒に食べると、作りたてのジューシーな肉汁が溢れる。
美味しい!バッグのおかげです。
デスはリベルさん特製のテイ茶をお代わりしていた。
デスがサンドイッチを食べないのを不思議そうに見ていたリベルさん。
デスはあまり食べなくて、ホットドリンクとスープが大好きなんだと教えたら、納得してくれた。
「だから人形の時も、スープ持って行ってたんだね。謎が解けたよ。」
と笑ってくれた。
不意にデスが口を開いた。
「おい、庭、広いな。」
「ん? そうだね。姉がハーブとか野菜の栽培していたから、半分は畑だけどね。」
「借りれるか?」
「デス、何を言っているの?」
「まなはいつか宿を出てちょっとテントを置けるところ探しているだろ?」
「テントって、まあ、そうだけど。」
何かを察したようにリベルさんが手をあげた。
「分かった。庭にテントを設営したいんだね?」
「だめよ、デス。ごめんなさい。人様の家の庭にそんなこと言って。」
「いいよ。」
「……え?」
「テントだろ。大丈夫だよ。土地に固定して建築する建物じゃなければ何も言われないから。テントは撤収できるからね。」
「……置くタイプなら何でも大丈夫なんですか?」
「うん。住むところに困っているなら家に入れたいけど、ほら、見ての通り個室がないから。若い女性を入れたら姉に叱られるからね。庭でよければ貸すよ。」
わ。どうしよう。すごく魅力的だけど、常識的に考えたらだめだよね?
人の家の庭にスモールハウス置いちゃうの?
迷惑なんじゃ?
「じゃあ頼む。月にいくら払えばいい?」
ちょっとデス、何話進めちゃっているの?!
「デス。」
たしなめようとすると、リベルさんもデスの話に乗ってきた。
「まなとは友達だし、月に銀貨一枚でいいよ。」
「えっ、銀貨一枚?!」
宿で一泊分の料金を一月?!
「乗った。」
「成立ー。」
「ちょっとリベルさん。」
思わず腰があがる。
いい案だよ。とリベルさんは嬉しそうに話す。
「まなが嫌でなければ庭使ってよ。プライベートはお互い立ち入らない。冒険者になったばかりでしょう。お金が貯まるまではここで頑張りなよ。そうだ、時々夕食作って一緒に食べてほしいな。僕は料理はあまり得意じゃないし、時には一緒に食べたいな。きっと楽しいし、困った時はお互い様だよ。」
ね?
と言って笑う。
「まな、大丈夫だ。リベルが襲ってこようものなら私が片付けてやるから。」
ちょっとちょっと、何言うんですか!
「ごめんなさい、リベルさん。私そんなつもりでは……。」
急いで謝る。
「そんな事しないよ。君、相棒が大事なんだね。」
リベルさんが、脱力したように苦笑いしながら、デスに言い聞かせる。
「リベルさん、ご迷惑でないならお願いします。」
「うん。じゃ、後で空いているところを案内するね。」
話の流れで、お願いするような形になっちゃったけど、いいのかな。
その後、庭先の木の影になっている辺りを案内してもらうと、そこは芝生が綺麗に茂っていて、木陰もあって風通しも良さそうな場所だった。
お礼を言って、バッグからスモールハウスを出して設置したら、リベルさんが目を白黒させて腰を抜かしていたのだった。
読んでいただき、ありがとうございます。
しばらく庭を借りることになりました。




