今日はデスとまったりします。
オルテシアさんに案内してもらったおすすめの宿は、女性専用の小さな三階建ての『ムンドウ』という名前だった。
一階がくつろげるフロアになっていて、食事とバーも兼ねている。二階から客室になっていてお風呂と鍵付き。女性専用だから男性冒険者とかに絡まれる心配もなし。引退した女性の冒険者が、若い人を応援したいと開いた宿兼食事処になっていて、オルテシアさんお気に入りの宿のようだ。好条件なのにお代の方も安く設定されている。よって、女性冒険者の多くが愛用しているらしい。
オルテシアさん、ステキな宿を紹介してくれてありがとうございます!
私とデスは、二階の突き当たりの部屋の鍵をもらい、荷を下ろしたところだった。
「ゆっくり話すのは久しいな。」
この感じ!
「本当ね。スープも一緒に飲めるしね。」
「ふ。」
デスも楽にしてくれてる。
デスは動かないけど、なんだろう。空気がふわっとしてるっていうか。そこにデスがいるのをきちんと感じる。
楽だなー。スモールハウスで過ごしたゆったりした時間を思い出す。
デスを座らせたテーブルに近寄って座る。
「……デス、人形から出て一緒に旅はできないの? あまり話せなくて、なんだか……すごく寂しかったよ。」
「……。」
「前に、このままでいいようなことを言っていたけど、私は一緒に歩いても楽しいって思えるようになったよ。もちろん、強制はしないよ。でも。思うことを言うと、そう思うの。」
「神のみぞ知る、だ。私にはどうにもできぬ。」
ハッとした。そうか、好きで人形になったんじゃない。私ったら!
「デスごめん。ごめんね、無理言って。」
「大丈夫だ。」
思わずデスを両手に取ってギュッと抱きしめる。
この大切な友達は、ずっとこのままなんだろうか。たまらず胸が締め付けられる。
すると、何かが頭を撫でるのを感じて、驚いてあたりを見回すが誰もいない。
「もしかして、デス?」
「大丈夫だ。心配するな。」
「……。」
「それより、久し振りに食事を楽しめそうだ。」
「……うん。そうだね。待ってて、そろそろ夕食の注文できる頃だから、お願いしてくるね。」
デスをテーブルに座らせて、部屋を出た。
階段を下りながら考える。
今度神様のコンタクトがあったら、デスのことを絶対聞こう。
あの神様、自分の言いたいことだけ言ってさっさと消えちゃうから、真っ先に言おう!
ん? というか、こっちの声聞こえてるんじゃない? ちょっと呼びかけてみる?
「神様、聞こえますか? 神様、デスのことを教えて欲しいのですが。……神様。やっぱり聞こえていませんか。」
うーん。神様の都合でしかダメなのかな。
神様のコンタクトが近いうちにある事を祈りながら、固く決心した。
食事のお願いをしてから、部屋に戻ってとりあえず着替えることにする。
そうだ。デスもずっと外にいたから、服が少し砂埃で汚れているような気がする。
「デス、ちょっとコートを洗うね。」
「何?」
「うん。このコート、砂で汚れているから洗濯してあげるよ。」
「そんなことしなくても大丈夫だが。」
「洗わせて。」
「おい。」
デスのコートを外す。中の服はコートに覆われていたからかそんなに汚れていないみたい。コートだけでいいよね。人形の服は売っていないだろうし。
「じゃ、お風呂入る時についでに洗っておくね。」
コートをお風呂前のドアにかけておく。
部屋に簡易炊事場があるのを見つけて、夕食までまだ少しかかりそうだし、とバッグからテイ茶のハーブが入った瓶を出す。
「デスもテイ茶飲む?」
「うむ。」
簡易炊事場で火魔法の魔石に魔力を流してお湯を沸かそうとした。
「あれ?」
魔石に魔力を込めるが、火が出ない。
こういうのも使えないのか。私のものじゃないから?
「思ったより不便だね。」
「私がやる。」
デスの魔力を感じたと思ったら、火がついた。
「わっ、デス、ありがとう。」
ずっとスモールハウスだったから、気づかなかったね。
とりあえずバッグから、木のカップ二つとティーポットを出して準備しておく。
ファジールで買ってスモールハウスで使っていたお気に入りだ。
日本で見た小ぶりなガラスのティーポットと似ている。ただ素材が、こちらでは銅製のポットしか売っていなかった。
湧いたお湯をティーポットに淹れて、しばらく蒸らしてからカップに注ぐ。
テイ茶の甘酸っぱい香りがいいね。
こちらの世界ではよく飲まれているお茶で、飲みやすくて私もすぐ好きになった。日本でいうと紅茶の仲間っぽい味と香り。
一つをデスにあげて、一緒に香りを楽しむ。
スモールハウスでのいつもの過ごし方だった。
「今日の夕食は何かな。メニューはもう決まってて、肉か魚か選ぶようになってたわ。旅では肉ばっかりだったから、魚にしたよ。こっちの魚は初めて。」
「そうか。スープは?」
「確認済み。スープはセットになってるみたいだから、デスにあげるよ。」
「うむ。」
「……美味しい。しみるね。」
「静かでよい。」
「あはは。」
まったりした時間が流れている。
じっとデスの顔を眺める。といっても人形なんだけど、私にはもうこの顔がデスなんだよね。
「デスって本当はどんな顔してたの?」
「ん?」
「ほら、私デスの顔見たことないのよね。」
「……そういえばそうだな。」
「前に助けてくれた時は、出てきたんでしょ?」
「まなが危機にあったからな。」
「あの時も記憶があまりなかったし。」
「この人形がそのまま大きくなった感じだな。」
「そうなの?」
ちょっとツンツンした目、白い顔、長い黒髪を一つに三つ編みされていて、肩から垂れている。眉毛はキリリ。服は真っ黒。頭にはちょっとツノ的なものが付いている。
「そうなんだあ。」
「なんだ、ジロジロ見るな。」
「あはは。ごめん。声はそのまま?」
「そうだな。」
「そうなんだ。デスの声、好きだよ。落ち着く。」
「ふん。」
コンコン。
ノックの音がした。夕食かな?
「はい。」
「夕食をお持ちしました。」
来たよ。さかなさかな。
ドアを開けて夕食を受け取って、テーブルに置いた。
夕食を持ってきた人、かなり鍛えた体をした女の人だった。
女性の歳を考えるのは失礼な気もするけど、お母さんくらいに見えて、それくらいの歳になっても鍛え上げられた体を維持するって、すごい。
門番のバルさんが、ひ孫もいる人だったくらいだから、あの女の人はもうちょっと上だったりするのかな。
「この世界の人って、寿命とかどうなっているんかな。」
「知らぬが、気にするところか?」
「うん、ちょっと気になる。私も何もなければそれくらい生きるのかなって思ったり。」
「まあ、おいおい分かるだろう。」
「そだね。」
「ちなみに今の女は、二百年以上は生きてるな。」
ちょっとフォークを持つ手が止まった。
「……えっ!」
「一応元死神だからな。寿命はもう見えないが、どれくらい生きたかは分かるな。」
「二百年……。」
驚愕したわ。そんなに生きて、人口とかいっぱいにならないのかな。
「といっても、元の世界にいた時の基準で見ての二百年だ。こっちの基準は知らぬ。」
「うん。十分伝わったよ。日本にいた時より、人の寿命は長いんだね。私も適用されてるのかな。」
「体は、前とは違うからこっち寄りかも知れぬな。」
「そっかあ。そうだよね。」
止まったフォークを再び動かす。
さかな、淡白な身にハーブのソースかな?
女性好みのフレッシュな味になっている。ヘルシーなメニューになってて、絶対オルテシアさんはここもポイントに入れてるなって思った。
デスは野菜スープを楽しんでいる。
ゆっくり食事と会話を楽しんだ。
引きこもり歴が長い私としては、やっぱり静かにこもってる方が楽だね。
すごーく楽。
でも三人との旅も、学ぶことが多くて楽しかった。
やっぱりデスも一緒にできたらいいなあ。
基本はデスと一緒で、時々みんなで会う。このくらいの感じがちょうどいいかな。
色々夢想して一人ニマニマしていた。
夕食を終えて、デスのスープも最後には私が飲み干した。
「私はこれ片付けたらお風呂はいって休むから、デスももう休んでね。」
「うむ。」
食器を片付けて、お風呂の準備にかかる。
スモールハウスを出せなかったから、長くお風呂に入れなかったのがちょっとキツかったね。オルテシアさんの風の魔道具で身体の汚れを落としはできたけど、やっぱり日本人だからかな。お風呂入らないとスッキリしないわ。うふふ。久しぶりのお風呂を味わいましょう!
お風呂場に入ると、スモールハウスにあるお風呂のような作りになっていたので、操作に困ることなくお湯を準備しようと思ったら、ここでも問題が。
お湯が出ません。しくしく。
デスに声をかけてお湯を出してもらった。
「ああ、温まるわあ。」
久しぶりのお風呂を満喫ー♪
読んでくださってありがとうございます。




