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初めての野営

「よし、今日はこの辺で野営するぞ。」

 グレルさんが馬車を止めて馬を木に繋げる。


 馬車からテントを取り出して設営する。大きいテントだ。四人で寝ても余裕あるよこれ。


 グレルさんがテントの真ん中の天井に、結界の魔道具を設置していた。

 私が持っているのと似ているけどちょっと違うね。

「結界を張るものですよね?」

「ああ。特注品だから売っていないんだ。すごいぞ。テントの周りを直径五十メートルくらいの結界に、匂い、灯り、声などを遮断する効果もあるんだ。」

「すごい! 私が持っているのは結界の(強)だけです。こんなの欲しいです。」

「残念ながら、知り合いが特別に作ってくれたものだから。これはやれないが、まなもこれから冒険者として成長していけばそういう知り合いも繋がりもできる。まあ、ぼちぼち頑張れよ。ガハハ。」

「はい。」

「よし、じゃあ、夕食摂ってしっかり休むぞ。」

「はい。」


 デスが汚れるといけないから、自分に割り当てられた場所の壁際に座らせて外に出た。

 オルテシアさんが手招きをしている。


 どうやら馬車に積んだ箱から取り出した食材を、調理するようだ。

 テント前にはもう、石を積み上げたかまどができていて、鍋が一つ乗っていた。


「今日はウルフを狩れたからあ、豪華にできるわよう。」

 オルテシアさんはご機嫌にニコニコしながら、調理台の上に収納カードから出したウルフの肉を豪快にカットしていく。

 そしてその肉の塊を多めの油で熱した鍋に一気に投入した。

 じゅわわわーっと弾ける音がして、肉が焼けていく。

「そこのフルーツ、とってくれるう?」

 カゴに用意されたみかんのようなフルーツ、オランジを手渡す。

 するとナイフで半分にカットして果汁を両手で潰して絞り出した。


 オルテシアさんって、見た目に反して豪快なのよね。剣士だから力もあるし。


 オランジの果汁が肉に降りかかり、焼ける音は勢いを増してじゅわじゅわわと煙をあげた。

「肉の臭み取りには必須よねえ。」

 そう言いながら今度はスパイスを振りかけていく。食欲を刺激する匂いがしてきた。


「そこのドライフルーツ切っておいてえ。」

「これ?なんのドライフルーツなんですか?」

「ふふん。今日はまなと初めての野営だから特別よお。あたしの、特製クコの実よお。」


 クコの実?


 ちょっと日本で食べたクコの実を思い出したけど、これは全然別物だ。大きさも手のひらに乗るくらいある。私は、日本で目にした食べ物と近いものだけ選んで調理していたから、これは初めて。


「食べやすい大きさに切ってくれればいいよお。」

 言われた通りに、一口大にしていく。

「じゃ、入れてえ。」

 鍋に投入する。

 炒めているうちにトロトロに溶けてきて、肉に絡まり艶々と照りを出していく。

 スパイシーなお肉が甘辛い匂いに変化した。

 うわ、美味しそう!

「いい感じねえ。」

 オルテシアさんも満足そうにニコニコだ。


 ドライフルーツってこんな使い道もあったのか。

 今度私もチャレンジしてみよう。身が大きくてとろけそうな種類ならいけるかも。


 リベルさんは、薬草を束ねたものを入れて沸かした、筒状の鍋でお茶を作っていた。

 疲れを取る効能のある薬草だけでは苦いので、色々ハーブをブレンドして飲みやすくしている。


 普段飲むお茶として親しまれているテイ茶は、テイ草を乾燥させたものを煮出している。少し甘酸っぱくてフルーティーで飲みやすい。

 でも長旅をする時は、薬草茶が主になるらしい。冒険者のパーティによっては、苦いまま飲むところもあるが、リベルさんみたいにこだわっている人もいて、その人のいるパーティでは美味しいお茶が飲めると評判をよんでいるとか。


 私はスープを誰も作っていないことに気づいて、自分が持ってきた材料で作らせて欲しいと提案したらオッケーをもらった。


 デスにも食事を用意したいというのは胸に秘めて、スープを作り始める。

 甘辛い肉料理に合いそうなあっさり系でいこう。


 バッグから食材を出す。

 出発前に買った保存食のお肉と『食の魅惑』で買ったスパイスで出汁をとる。

 スパイスは、お弁当を作る時に色々味見してみてスープに合いそうなものを分けておいたもの。

 そして塩。

 そして野菜をカットして瓶に詰めておいたもののうち一つ。


 私のバッグは入れた時の状態を保持するから、こんな使い方を覚えたのよね。


 時間がある時に新鮮な食材を買ってきて、すぐに使えるように、カットして瓶に詰めまくっている。

 今日の瓶は『おかずセット』。

 根菜系の野菜をサイコロ状にカットしたものを詰めた瓶。

 バッグには野菜の他にも、手作りの調味料とかソース、スパイスを炒め合わせて固めたものとかも入れてある。

 このやり方で料理の時間がグッと短縮された。

 このバッグがあってこそできる事なのよね。まさにバッグ様よ。


 水と空いた鍋を借りて、干し肉とスパイスを投入して煮込んでいく。

 出汁がでてきたら取り出して、野菜を投入。優しい匂いがしてくる。取り出した肉を割いて再投入。

 塩を入れて味を見ながら温めていると、グレルさんが鍋を覗き込んできた。


「こんな材料、持ってきていたのか?」

「はい。必要最低限のですけど。」

「なかなか手際がいいなあ。しかし……元々一人で『隠密』を使って行くつもりだったんだよな?」

「……。」

 うーん。どうしよう。


「干し肉で食いつなぎながら行くつもりだったんです。」

「やっぱり無謀だな。干し肉だけでは持たんぞ。」

 でしょうね。

 元々スモールハウスの中で食べるつもりだったから。


『隠密』をつけていると、私が中にいるスモールハウスにも効果が少し出るみたいだったから。

 どこにでもある普通の家、的な?

 それに結界の魔道具もあったし。

 でも他の冒険者から見たら、旅を舐めとんのかってくらい私の荷物は少なく見えるだろうし。

 これからもこんな疑問を持たれるのは面倒だなあ。


 でも。

 この街にきたばかりの時を思い出す。

 このバッグを奪おうとした三人組に抱いた恐怖。


 そうだ。バッグを奪われても大丈夫なように、カタログで対策できるものがないか調べてみよう。

 アーティファクトのバッグと知っても手が出せないような?

 そんなのあるかな?

 それか、誰に襲われても全然平気なくらい防御系のスキルをガンガン買う?


「おーい。」


 自分で自分を守れるくらいのものをカタログでどんどん買って、堂々とバッグを使えると一番楽かもしれない。


「ぅおーい、まな?」


 ふと思考が遮断された。

「え?」

「おっ、帰ってきたか。まなもリベルと同業だったんだなあ。」

「え?」

「何、同業って。」

 リベルさんの顔もクエスチョンマークを張り付けたようになっている。

「本人たちは自覚ないよねえ。」

「ま、いいわ。食べようぜ。」

「あ、ちょっと待ってください。」

 まなは、カップにスープを注いでデスのところへ運ぶ。


「デス、今日のスープよ。携帯食で作ったから具が少ないけど。」

 デスは何も言わないが、後ろのほうから残念そうな声が聞こえる。何となく言われていることは想像できるけど……。

 きっとデスも気にしている。

「デス、気にしないで。本当にデスを相棒だと思っているから。」

 私は、デスに救われてきたから。

 勝手に相棒にするなって言われるかもしれないけど、デスには感謝している。話せるときに改めてお礼を言いたいから。

 後でまた取りに来ると伝えて、みんなのところへ戻った。


 初日だからサービスだと、これからの旅に英気を養えと私のお皿にもたくさんの肉を盛り付けてくれた。


 クコの実は、オルテシアさんが自家栽培している、美容効果たっぷりのフルーツで、めったに食べれないものだそうだ。

 美容への強い追及に恐れ入りながらもありがたくいただいた。


 スパイシーな肉に、ドライフルーツの甘みがこってりと舌に広がって、とってもおいしかった。

 この場にデスもいて、一緒に食べれたらいいのに。

 そんなことを思いながら。


読んでくださりありがとうございます。

書いていて肉料理が食べたくなりました。じゅる。

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