魔力はあるのに?
ファジールを出ると、整備された街中に慣れたせいか、いきなり荒地になっていて驚いた。
土や岩肌がむき出しになっていて、木や草花が所々に生えている。風が吹けば所々の乾いた砂が舞い上がる。
思ってたのと違った!
馬車の帆を下ろしてビニール製の窓で外を眺める。
グレルさんがゴーグルとマスクを装備して馬を操って、進んで行く。
私は荷台の中でそれらしく整備された、向かい合った椅子に座り、リベルさんの魔法講座を聞いていた。
私の中には魔力が豊富に蓄積されているはずだと。
そもそも魔力がないと魔道具も扱えないから、魔道具を使うのも残り魔力に注意しながら使わないといけないらしい。
私はファジールの街中ではほとんど『隠密』の魔道具を使っていたけど、特に疲れる倒れるということはなかったので、気づかなかった。
でも教えてもらった初級呪文を試してみたけど、何も起こらなかった。
「おかしいなあ?」
とリベルさんは首をかしげる。
もしかしたら、カタログで呪文を買わなければ使えないのかも知れないと思い至ったのだけど、それは秘密。
「魔道具に特化しているのかしらあ?」
オルテシアさんが、紅い剣の手入れしながら疑問を口にする。
「魔道具は今まで買ったやつは問題なく使えています。例えばこれも。」
両腕にはめた『盗賊の腕輪』を見せる。
「試したら実際に早く走れましたから。」
初めて走ってみた時は、あまりにも早くて、プロの短距離ランナーになったようで感動したよ。
「うわ、これすごいよ。」
リベルさんは手元をまじまじと眺めてため息をついた。
「すごくアンバランスだね。戦ったこともない素人なのに身につけているものは素晴らしい。」
「もしかしてえ、貴族う?」
「いえ、違います。」
「まあ、事情は人それぞれ。あまり突っ込まないでおくよ。」
「じゃあ、これ試してみてえ?」
オルテシアさんが、自分の荷物の中から短剣よりも小さなナイフのようなものを取り出した。
「これも魔道具で、魔力を込めるとお」
ナイフの刃の部分が炎に包まれた。普通の炎より白っぽくて透明感がある。
「これえ、浄化の炎で死霊系の魔物に効くよお」
「まなは魔法を使えるかまだわからないけど、魔道具は使えるみたいだから、とりあえずこういった武器を持ってみたら?」
リベルさんがオルテシアさんのナイフを受け取り、自分も魔力を込める。刃が白い炎を纏う。
そして手渡してきたので、魔力を込めたつもりで念じてみる。
「……」
「……」
何も起こらなかった。
「あれえ?」
「使えない?」
二人とも不思議そうにナイフを見つめる。
しばらく考え込んだリベルさんが、ハッとしたように目を見開いた。
「君の『ヒーラーの杖』使ってみて。」
そう言うと、自分の指先をナイフで軽く切る。
じわっと血が丸く形作っていく。
慌てて『ヒーラーの杖』を取り出して回復をかけると、小さな傷は閉じて丸い血も消えた。
「次は僕に使わせてくれるかな?大事なものだと思うけど。」
うなづいて杖を渡した。
リベルさんは再度ナイフで小さく傷をつけて、杖に魔力を込めて回復をかけた。が、傷は消えなかった。
「やっぱり。」
「ええ? どういうことお?」
オルテシアさんが杖に触れる。使ってもいいかと聞いてからリベルさんの指に杖を向ける。
それでも傷は消えなかった。
「あたしもダメみたいねえ」
「まな、君は自分の魔道具に自分にしか使えないように魔法がかかっているのかも知れないよ。そのかわり他の人の魔道具も使えない。この杖もきっとその腕輪も、君にしか使えない。……一体どこで買ったんだい?それとも能力?」
リベルさんはぶつぶつと一人で思考の中にハマっていく。
「リベルってえ、こうなるとしばらくダメだからほっといていいよお。」
つまり、カタログで買ったものは私にしか使えないってこと?
便利なのか不便なのかよくわからないけど、勝手に悪用されることはなさそうだね。あれ?
スモールハウスもカタログで買ったけど、他の人は入れないのかな?
バッグは実証済みだけど、どうなのかな。いつか試してみたいな。
というか、あんな小さい家にお客さん呼ぶことはないと思うけど。
じゃあ、今度からカタログで買う時は、他の人には使わせたくないってことを考慮して買う手もあるね。ふむふむ。
「まなってえ、リベルと同族う?」
色々考え込んでいたら、オルテシアさんが笑っていた。
馬車は何事もなく進んでいく。
「魔物がこっちへ来るぞ。」
グレルさんが正面のカーテンを開けて戦闘の準備を促す。
「前方にウルフが五頭だ。」
「はあい。」
「分かりました。」
「は、はい!」
「まなはまず中で待機。俺はまなの護衛兼ねて戦う。まな、みんなの戦闘をよく観察しておけよ。ウルフの弱点は腹だ。」
それだけ言うと、馬車をとめた。
オルテシアさんとリベルさんが、荷台の後ろから飛び出していった。
私は窓から外を見守る。一応杖は手に持って怪我に備える。
薄い青色のようなグレーのウルフが五匹、確かにこちらに向かって来る。
群れで狩りをする魔物のようだ。一定の距離を保ちながら、歩くスピードを徐々にあげて向かって来る。
不思議と恐怖はそんなに湧かなかった。冷静に観察する。
オルテシアさんが剣を抜いて構える。
「まな、ウルフは初級の冒険者がギルトで請け負う魔物だ。だからそんなに強くはないが、群れるから用心をする事。」
「はい。」
ガウウゥゥゥ……。
ウルフの群れが横に広がり、武器を持っていないリベルさんに狙いを定めたようだ。
急にウルフたちのスピードがあがった!
リベルさん!
リベルさんの前に二頭のウルフが飛びかかる。残りは横から挟み撃ちにするようにかけてくる。
風の魔法で目の前のウルフを弾き避ける。
弾かれた空中のウルフを、すかさずオルテシアさんが下から剣を横に払う。あっという間に二頭を倒した。
すごい。ちゃんとお腹を狙ってる。
そこへ、リベルさんが風の魔法で残りのウルフを切り裂いていく。リベルさんから一番離れたところにいたウルフが、標的を変えて馬車の方に視線を向けるが、オルテシアさんが素早くトドメを刺した。
「まあまあだな。」
グレルさんの声がした。
まあまあって……。
「まな、降りていいぞ。」
荷台の後ろの帆があいて、グレルさんの顔がのぞいた。
降りて見ると、血の匂いが風に乗ってくる。本当に魔物がいる世界なんだ。
「どうだ、大丈夫か?」
「はい。」
「よし、じゃあこれ。」
グレルさんが、厚いカードのようなものを手渡してくる。
手のひらに乗るくらいの大きさで、青い石のようなものがカードの中央に埋め込まれている。
「収納カードだ。これを魔物に向けて魔力を込める。そうすると魔物が自動で収納される。ギルトに売ったり食材にするんだ。一頭は今日の食材にするから四頭収納してくれ。怖くないか?」
「やってみます。」
倒れているウルフに近づいて魔力を込める。
「……」
「……」
「収納できません。」
そうだった。さっきリベルさんに言われたんだ。
「はあ??」
グレルさん。口が開きすぎて面白い顔になっちゃってます。
「収納カードを使えない奴がいるのか……。」
「ええ? それもだめなのお?貸して、あたしがするわあ。」
オルテシアさんが代わりに収納してくれた。
あの収納カードって、バッグと仕組みは同じじゃない?
でも確認したら、容量に限界があって、最大で中型魔物一頭分くらいまでしか収納できないらしい。
ウルフだと約十頭。
中型魔物以上の大きさがある時はどうするのか聞いたら、この辺にはいないと笑われた。もしいたとしても、上級冒険者が討伐依頼を受けた時に、ギルドからそれにあった収納カードを借り受けるらしい。
収納カードは、ギルドで登録すれば一人一つ配布されるらしい。
私はギルドで登録してカードをもらっても使えないのかな。
自分でもらえば使えるってことはないかな。
そこは要確認だね。
グレルさんが残した一頭のウルフを解体して食材と毛皮に分けていた。そして何やら魔道具を使って、血や汚れを取っていく。あの魔道具いいな。
初めてリアルの魔物を見たけど、みんながいたおかげか落ち着いていられた。
魔物っていうより、普通の狼みたいよね。かなり凶暴にしたような。
グレルさんにそろそろ出発するから馬車に乗るように言われたので、従って先に乗り込む。
「大丈夫か。」
デスが心配してくれてる。
「うん。あれ、食材にするんだって。狼、じゃなくて、ウルフは多分初めて食べるよね。」
「……。」
妙な沈黙になったのでした。
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