第25話 最終試練!夫婦予定のガチ手合わせ
「いやいやいやいやおかしいですわ!おかしいですわ殿下!お妃教育の最終試練が、なぜ『王太子とのガチ対決』になっておりますの!!!」
王宮の特別第一訓練場。
エレノア・フローレンスは、手渡された白銀の練習用大剣を両手で抱えたまま、本日何度目か分からない絶叫をあげていた。
「エレノア、一歩も引くなよ!」
「王家の首を毟ってこい!」
周囲を見渡せば、なぜか訓練場の観客席には、フローレンス男爵家の父バルトと兄ライナスたちがビールジョッキを片手にガチの応援体制を敷いている。
「頼むから訓練場を更地にしないでくれ……」
その対面では、筆頭側近のシド・ヴァレンタインが、新調したばかりの胃薬の瓶を握りしめて祈るように座っていた。
「おかしくなどないさ、エレノア」
対峙するフェルナンド王太子は、いつもの冷徹な美貌に、動きやすい黒の戦闘服をまとい、すらりとした長剣を構えて不敵に微笑んでいた。その琥珀色の瞳は、これから極上の獲物と刃を交える歓喜で、爛々と輝いている。
「私は生涯、お前を正妃として、唯一無二の相棒として隣に置くと決めた。ならば、お前を愛する男として、この私が本当にふさわしい強さを持っているか……お前のその、美しくも圧倒的な『武』をもって、直接確かめてもらいたいのだ」
「そんなスピリチュアルかつバイオレンスな確かめ方、聞いたことがございませんわ!!」
エレノアは顔を真っ赤にしてパニックを起こしていた。
(どうしましょう、どうしましょう!殿下からの熱烈なプロポーズは、天にも昇るほど嬉しかったわ!でも、その後に続くのが『俺を全力で殴ってみろ』だなんて、都会のスパダリの情緒はどうなっているのよ!?もし私がいつもの手癖で、殿下の美しい顎に右ストレートでも叩き込んで、そのままお星様にしてしまったら、私は本当に国家反逆罪で南部のお山へ強制送還だわ!!)
「エレノア。手加減をしたら、即座に南方に送り返すからな」
「ひっ……!」
フェルナンドの甘く冷たい脅し文句が、エレノアの脳天を直撃した。
「私はお前のすべてを愛すると誓った。だからこそ、私に嘘をつくな。お前のその、世界を蹂躙する本物の力を、私にすべてぶつけてみせろ」
フェルナンドが剣を正眼に構え、その全身から、王家最高峰の「濃密な青い魔力」が爆発的に立ち上った。訓練場の頑丈な石畳が、彼の放つプレッシャーだけでパキパキとひび割れていく。
(……あ、殿下、本当にガチだわ。手加減したら、逆に私が切り刻まれてお山送りですわね)
エレノアはゴクリと唾を飲み込んだ。
パニックになっていたハチミツ色の脳細胞が、フェルナンドの放つ圧倒的な戦意によって、強制的に「戦闘モード」へとカチリと切り替わる。
(わかりましたわ、フェルナンド殿下。そこまで私を求めてくださるのなら……私が実家のお兄様たちを全員血祭りにあげてきた、フローレンス流の『真実の愛』、たっぷりとお見舞いして差し上げますわ!)
エレノアの瞳から、おしとやかな霧が完全に晴れた。
代わりに宿ったのは、狩猟祭でベヒモスを叩き潰した、あの神々しくも苛烈な戦女神の眼光。
「――エレノア・フローレンス、お相手いたしますわ、殿下!」
エレノアが三十キロの大剣を片手で軽々と水平に構え直したその瞬間、彼女の全身から、まばゆいばかりの「白銀の闘気」が、炎のように激しく吹き荒れた。
ドォォォォォン!!!
二人の放つ魔力と闘気が、訓練場の中央で正面衝突し、激しい衝撃波となって周囲の防壁を揺るがした。
「いくぞ、エレノア!」
「受けて立ちますわ、殿下!」
フェルナンドの身体が、青い雷光となって一瞬で視界から消えた。王家伝来の神速の踏み込み。
次の瞬間、エレノアの視界の最前線に、フェルナンドの鋭い突きが迫る。
――キィィィィィンッ!!!!
エレノアは大剣の腹でその突きを完璧に弾き返した。
金属同士が激突する、鼓膜を引き裂くような高音が訓練場に響き渡り、二人の「最強夫婦予定のガチバトル」が、ついに火蓋を切って落とされたのである!




