観測者ミラ
異常は突然現れない。
気づかないくらい小さな違和感。
それが積み重なって、
世界は壊れていく。
朝。
カイトは教室の扉を開けた。
いつもの騒がしさ。
いつもの空気。
……のはずだった。
ジンが叫ぶ。
「終わった!! 理科の課題忘れた!!」
イロンが笑う。
「毎回終わってんな」
「今回はマジだって!」
カイトは席につく。
その瞬間。
机の横の金属フックが、
カチッ……
少しだけ曲がった。
イロンが小さくつぶやく。
「……また反応してる」
その時。
教室前方の扉が開いた。
白衣。
長い黒髪。
落ち着いた笑顔。
理科教師。
ミラ。
「おはよー。今日は実験あるから静かにね〜」
軽い口調。
生徒達が少しざわつく。
ジンが小声。
「先生、今日もオーラ強くね?」
イロン。
「オーラって何だよ」
ミラが近づく。
黒いノート。
紫色のストラップ。
そして、
一瞬だけカイトを見る。
長い。
視線。
「……?」
ミラは笑う。
「寝不足?」
それだけ言って通り過ぎた。
昼休み。
理科準備室前。
カイトのロッカーに紙。
放課後。理科室。
来ないと困る。
放課後。
理科室。
誰もいない。
窓の外だけ赤い。
ミラがいた。
白衣姿。
机には大量のノート。
写真。
地図。
異常記録。
「来たね」
「先生……何者なんですか」
ミラは少し考える。
「教師」
「観測者」
「あと、止めたい人」
「止めたい?」
ミラは黒いノートを開く。
【観測記録】
対象:カイト
GLITCH反応:増加
危険度:高
「ナイトアサシン」
「知ってる?」
空気が重くなる。
「……知ってる」
ミラの目が少し変わる。
「やっぱり」
「あなた、戻ってきた側なんだ」
その瞬間。
理科室の照明が、
ジジッ……
点滅。
ミラの顔色が変わる。
「早すぎる……」
窓の外。
校舎屋上。
黒い影。
赤い目。
ナイトアサシン。
低い声。
「観測者確認」
「修正開始」
窓ガラスが歪む。
ジンが廊下から叫ぶ。
「先生!? 理科室光ってるんすけど!?」
イロンも来る。
「……来たか」
ミラはノートを閉じた。
「カイト」
「私はあれを止める」
「ナイトアサシンを」
理科室の空気が、
少しだけ歪んだ。
― 夜 ―
ミラは家の浴室で湯船に浸かっていた。
静かな音。
お湯が揺れる音だけが響く。
今日は異常が多すぎた。
転生帰還者。
GLITCH増加。
ナイトアサシン。
そして。
カイト。
浴槽の縁。
防水メモ。
そこに書かれた文字。
【観測記録】
対象:カイト
危険度:上昇中
GLITCH反応:増加
備考:
想定以上
ミラは目を閉じる。
湯気がゆっくり上がる。
「……また始まった」
指先で水面をなぞる。
波紋が広がる。
小さなズレ。
GLITCHみたいに。
ふと。
浴室の照明が、
チカッ……
と点滅した。
ミラの表情が消える。
「……ここまで来てる」
鏡を見る。
湯気の向こう。
映るのは自分だけ。
……のはずだった。
ほんの一瞬。
黒い影。
赤い点。
振り向く。
誰もいない。
ミラは静かにつぶやく。
「ナイトアサシン」
「今度こそ止める」
照明が、
もう一度だけ点滅した。
第3話「観測者ミラ」を読んでいただきありがとうございます。
今回は、今まで謎だったミラが本格的に動き始めました。
教師。観測者。
そして、ナイトアサシンを止めたい人物。
カイト達の日常はまだ続いているように見えますが、少しずつ“普通”が壊れ始めています。
そして最後。
浴室でミラが見たものは、本当に錯覚だったのでしょうか。
次回は、GLITCHがさらに加速します。
それでは、第4話で。
— ヌルライト




