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揺れる観測

違和感は、最初から大きな形では現れない。


ほんの少し。


時計の秒針。

机の位置。

誰かの視線。


「気のせい」で済ませられる程度のズレ。


だけど、一度それを認識してしまった瞬間、

世界は静かに形を変え始める。


これは、“異常”を見てしまった者たちが、

もう元の日常へ戻れなくなる話。

worldGLITCH

第2話「揺れる観測」


朝。


カイトは目覚ましが鳴る前に目を覚ました。


嫌な夢を見た気がする。


だが内容だけが思い出せない。


天井を見上げる。


……少しだけ歪んで見えた。


「……疲れてるだけか」


そう言い聞かせ、制服に着替える。


登校中。


横断歩道の信号が、一瞬だけ止まった。


赤。


青。


その切り替わりの間に、


“存在しない色”が見えた気がした。


紫とも黒とも違う。


ノイズみたいな色。


瞬きをすると消える。


周囲の人間は誰も気づいていない。


教室。


イロンはいつも通り椅子に座っていた。


「おはよ、カイト」


「……おはよう」


カイトは席につく。


その瞬間。


机の横の金属フックに掛かっていたカバンが、


ガコンッ──


と音を立ててイロン側へ引っ張られた。


「うおっ!?」


クラスが少しざわつく。


「なんだ今の?」


「磁石でも入ってんのか?」


イロンは苦笑した。


「いや、知らねえって」


でもカイトだけは見ていた。


イロンの近くで、


金属だけが“ズレた”ことを。


授業中。


シャーペンが勝手に転がる。


黒板のチョークが少し浮く。


時計の秒針が逆に動く。


誰も気づかない。


でも確実に何かがおかしい。


昼休み。


カイトはイロンに聞く。


「お前、最近変なこと起きてないか?」


「変なこと?」


「なんていうか……周りがおかしい感じ」


イロンは少し黙る。


そして小さく言った。


「……ある」


カイトは顔を上げる。


イロンは続けた。


「最近、鉄とか金属が勝手に寄ってくる」


「スマホも変になるし」


「昨日なんか、自転車の鍵がロッカーにくっついた」


冗談みたいに笑う。


でもその目は少しだけ怖がっていた。


放課後。


カイトとイロンは理科室の前を通る。


その瞬間。


理科室の棚に置かれていたクリップケースが、


ガタガタガタッ!!


と激しく揺れた。


次の瞬間。


大量のクリップがイロンへ飛ぶ。


「っ!?」


カイトは反射的にイロンを引っ張る。


金属の束が床へ散乱した。


教室が静まり返る。


その時だった。


廊下の奥。


誰かが立っている。


黒いコート。


顔は見えない。


でも“影”だけが異常に濃い。


ナイトアサシン。


一瞬で空気が冷える。


時間が止まったみたいに静かになる。


黒い影は、


まっすぐカイトを見ていた。


そして。


低い声が響く。


「……観測誤差を確認」


「修正を開始する」


その瞬間。


廊下の電気が全部消える。


真っ暗。


耳鳴り。


ノイズ。


世界が壊れる音。


カイトの脳裏に、


知らない世界の記憶が流れ込む。


剣。


炎。


崩壊した城。


そして。


自分を貫いた黒い刃。


「っ……!」


呼吸が乱れる。


目の前の闇の中で、


ナイトアサシンだけが立っている。


だが次の瞬間。


イロンの周囲で空気が歪む。


床に落ちていたクリップが浮かび上がる。


金属音。


空間がねじれる。


ナイトアサシンが初めて動きを止めた。


「……構造異常個体」


「なぜ存在している?」


イロン自身も混乱していた。


「え……?」


「何だよ……これ……」


教室の窓ガラスにヒビが入る。


時計が止まる。


磁石みたいに机がズレる。


世界が悲鳴を上げ始める。


ナイトアサシンは静かにつぶやく。


「世界の歪みが、加速している」


そして闇の中へ消えた。


電気が戻る。


時間が動き出す。


でも。


もう何も元通りじゃなかった。


カイトは理解する。


これはただの違和感じゃない。


“世界そのもの”が壊れ始めている。


第2話 終

第2話「揺れる観測」を読んでいただきありがとうございます。


なんとこの作品連載することが出来ることになりました。


この話では、“違和感”が少しずつ形になり始めました。


イロンの異常。

ナイトアサシンの接触。

そして、静かに壊れ始める日常。


まだ大きな戦いは始まっていません。

ですが、カイトたちはすでに“普通の世界”から少し外れ始めています。


worldGLITCHは、派手な異世界ではなく、

「いつもの日常が少しずつズレていく怖さ」を大事にしている作品です。


次回、第3話では“観測者”ミラが本格的に関わり始めます。


世界のルールを知る者。

そして、ナイトアサシンを見続けている存在。


ここから物語はさらに深く、静かに壊れていきます。


——ヌルライト

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