95.場の空気さんが大忙しです!
2351 ディアナのセリフを若干修正
作中で出てこないから、すっかり皇太子の存在を失念してました。
行きはよいよい、帰りは怖い。
やっと帰れるというのに、なぜか悪寒を感じるアーサー君です。
俺とダリルさん、そしてミレーユは順調に旅程を消化しまして、領地へ進んでいます。
おかしいですね?早く帰りたいし、我が家が待ち遠しいのに、どういう訳か悪寒が止まりません。
いえ、往路のようにトラブルが待ち構えている訳でもありませんし、凱旋のハズなんですが……
気が緩んで、風邪でもひいたんでしょか?
順調に行けば明日の昼には領都に着くんですが、何か見落としているんですかね?
そこへ、前方の偵察に出ていたミレーユが帰ってきまして、俺達は昼食にしました。
今日の昼食はミレーユのリクエストで魚になりました。
俺が近くの川に行きまして、風魔法で衝撃波を作り、手頃な岩にぶつけます。
すると衝撃を受けた魚が気絶して、浮き上がってきます。
ミレーユがそれを素早くすくい取って、昼食のメインディッシュを確保しました。
それを適当な枝に刺して遠火で焼きながら、乾燥野菜と干し肉でスープを作り、パンと一緒に食べれば、けっこう豪勢な昼食になります。
そんな昼食を食べながら、俺は悪寒の原因について考えていました。
うーん、おみやげも買ったし、途中で報告の手紙も書いた。
おっかしーなー。とくに漏れや抜けがあるとは思えないのですが、なぜか悪寒が止まりません。
「ご主人さま、おかわりニャ!」
「はいはい、ミレーユは猫舌のくせに、スープ飲むの早いよなぁ」
まあミレーユも今回の王都の一件では、随分と頑張ってくれたので俺は苦笑しながらも、スープをよそってやります。
……ん?
あっ!ミレーユの存在を手紙に書いてない!
大ポカをやらかした事に今更ながら気づきまして、俺は冷や汗が背中を伝うのを感じました。
マズいです。ヒジョーにマズいです。
決闘の時よりすごいプレッシャーが、いきなり襲い掛かってきました。
母様が知ったら、間違いなく倉庫に連行されますし、エリカが知ったら泣きながら中級魔法を連発されます。
そしてエリカに泣かれると、もれなくロイドさんが背後から刺しに来ますし、父様にもぶん殴られるかもしれません。
それならいっそ、功績をたたえてこの場でミレーユを開放するか……
いや、ダメだ。そんなことをすれば俺のモフり禁断症状が……
昼食を食べ終えて再び移動を開始しても、納得いく答えは出ませんでした。
その日の宿に泊まり、例によってミレーユをモフってから、俺は決断を下します。
うん、あきらめて正直に話そう。開き直るしかなさそうです。
そうして、翌日の昼俺達は無事にセルウィン領へ入り、そこから1時間ほどで領都の街が見えてきました。
「ミレーユ、あれがセルウィン領だよ」
俺の馬を引くミレーユに、馬上から俺は声をかけました。
「ウニャ!海が見えるニャ!魚は旨いのかニャ!」
ミレーユは、そんなのんきな言葉を吐きまして、海の方向を見ています。
たぶん、思考の半分以上は魚で占められてますね、間違いなく。
そうこうしているうちに領主館が見えてきまして、ウチの領の騎士達が出迎えに来てくれました。
数こそ少ないですが、こうして見ればウチの騎士たちって、かなり精鋭なんですよね。
そんな感じで、懐かしい感覚を感じつつ、俺は領主館に向けて馬を進めていきました。
騎士の一人が先触れに出てくれまして、領主間の入り口が見えてきた頃には、屋敷の人達が総出で出迎えしてくれているのが見えます。
俺は見えてきたその人たちに手を振って応え、そうしてようやく我が家への帰宅を果たしたのでした。
馬丁が手綱を預かってくれまして、馬を降りるといの一番にエリカが抱きついてきます。
「アーサー君、おかえりなさい!」
「エリカ、出迎えありがとう」
俺はそう言ってほのかに甘いエリカの匂いを感じながら、頭をなでてやります。
エリカも俺の頬や肩口に、鼻をすりつけるように匂いを嗅いでいますね。
なんだか、少し見ないうちにエリカったら、キャラ変わった?
エリカが何か一生懸命に匂いを嗅いで、それから少し首を傾げ辺りを見回します。
そしてミレーユの方向を見て、彼女と視線を交錯させました。
ビシリと固まること数秒……
その後、俺の身体に巻きつけていた腕がスルリと解け、俺の襟首を掴みます。
「あの娘…… だれ?」
ヒュン!
うん、俺は説明しようと口を動かしているんですが、口から漏れるのは僅かな空気のみで、パクパクと動く口からは言葉が出てきません。
「どうして、アーサー君から、あの娘の匂いがするの?」
ヒュン!ヒュン!
落ち着けエリカ!いつからそんなヤンデレキャラになったんだ!
って、エリカの眼光がロイドさんを凌ぐくらいに、すごい迫力なんですけど!
「……い、いや、これは道中で、色々とあってねぇ」
俺はそう言ってエリカから視線を外して、誰かに助けを求めようと出迎えの人達に目を向けました。
「……ほぅ、アーサー君。奴隷を買ったのかい?」
あふぅ!ロイドさん、背中にゆらゆらと怒りのオーラ背負ってます。 って、目が光ってませんか!?
間違いなくこの親子を前にしたら、オーガでも裸足で逃げ出しますよ!
ヤバイです!息子の息子と命の危機です!
助けを求めようと、一縷の望みをかけて父様と母様の方を見れば……
ヒュン!ヒュン!ヒュン!
……母様が笑顔です。
とっても爽やかな、ナイススマイルです。
「アーサー、言い分や報告は後で聞くけど、とりあえず後で倉庫に行きましょうね」
死亡確認…… 家に帰っても俺に平穏はないのか!
「それで、この子は誰なんだ?」
うん、父様が至極まっとうな質問をしてくれまして、とりあえず首の皮一枚で命がつながります。
「はい、話すと長くなるのですが、簡単に言えば返り討ちにした元盗賊で、今は俺の奴隷です。
腕を切り落とすのは忍びないので、俺の奴隷として情報収集をしてもらっています」
その一言で、父さんは納得したのか、小さく溜息をこぼして頷きました。
「そうか、腕を切り落とすのは気が引けたのか。お前は俺に似たのか、そういう所は甘いからな」
苦笑しながら父様がそう言った事で、母様の笑顔は通常モードに切り替わりました。
良かった、一応事情は察してくれたみたいですね。
そして、もう一方のエリカはと言えば……
「奴隷なんですか?あの娘はアーサー君の奴隷なんですか?」
いや、危機はまだ去っていないようです。
このままでは、Nice boat.されてしまいそうな予感がヒシヒシと!
「お、落ち着いてエリカ、その手に込めてる魔力はヤバイから、散らそうね」
俺からスッと離れたエリカの手元には、凝縮された火魔法が浮かんでいまして、威力的には中級、いや上級に届くかも……
って、いつの間にそんなに成長したんでしょうか?
視界に入る母様が、なんかドヤ顔してますから、間違いなくこの人の仕業でしょう。
俺はゆっくりとエリカに近づいて両手を握り、無属性の魔力でエリカの魔力を包み込んで、無力化していきました。
おれが手を握った事で少し落ち着いたのか、エリカも少し落ち着いたようです。
「さて、とりあえずは中に入って、ゆっくり事の顛末を聞かせてもらおうか」
父様の一言で、全員が揃って家の中へ足を進めます。
そんな中で、ススッと俺に近づいてきたのはリーラです。
彼女は俺のマントを脱がせてくれて、ニッコリと微笑んでくれました。
やっぱり、リーラは癒やし枠ですね。
「アーサー様、おかえりなさいませ」
そう言ってくれたリーラに、俺は微笑みを返して、屋敷の中へ進んでいきました。
後ろで『おやつ~♪ おやつ~♪』とか聞こえますが、ご愛嬌ですね。
そうしてリビングで集まって報告会と相成りまして、俺は時系列にそって話を進めていきます。
まずはホラーク男爵領でのミレーユとの出会いや、その後の強盗の襲撃までを話しました。
この時点で、出された魚の干物をパクついているミレーユを正式に紹介しまして、父様にも了承を取ります。
ミレーユの王都での働きはけっこうなもので、この時点で奴隷解放も話をしたのですが、それは本人から断れました。
「ニャ、普通に盗賊ギルドで仕事しているよりも、ご主人さまの下で働いてた方が待遇が良いニャ!」
っと、まあ普段のモフりが効いたようで、そんな事を言ってくれました。
うん、そう言うことなら、今夜は徹底的にモフってあげましょう!
俺がそんなことを考えていると、どこから思考が漏れたのか、サラッとミレーユが爆弾を投下します。
「嫌というほど耳元をワシワシ撫でられて、すっかりご主人さまの匂いがついたニャ。
もう、猫人族の中ではお嫁に行けないから、置いてもらうニャ!」
……うん、相変わらず干物をモシャモシャしながら、ミレーユが放った一言は、『ビシッ!』っという効果音が聞こえそうなほど、場を凍らせました。
「アーサー …… 貴方って子は……」
母様の笑顔が、また一段と冷たくなりまして、笑顔のまま倉庫の方を顎で示していらっしゃいます。
どうやら、倉庫送りが決定事項となってしまったようです……
すまぬ、息子よ…… 未使用なのに消滅するかもしれん。
唯一の救いはエリカが政治的な話も含むので、別室だった事でしょうか。
「まあ、それも彼女の一生に係る問題だが、ひとまず置こう。今は王都での一連の出来事だ」
すこし、母様の迫力に圧されながらも父様がそう切り出して、再び俺の話が始まりました。
ウシガエルの暴走とその陰にいたミュアー商会の話、そしてウードの事。
ミュアー商会の話をした時にはロイドさんが眉を顰め、ウードの話をすると、父様と母様が苦い顔を浮かべました。
「……そうか、あのウードが、な」
父様がポツリとそう言った言葉を聞き、俺は報告書の内容にあった、父様との決闘後にウードがどう動いたのかをかいつまんで話しました。
「ウード、どうせならあの時、焼き殺しておくんだったわ……」
母様の物騒な発言は、とりあえずスルーしましょう。うん、藪蛇怖い!
「アイツなら、立ち直れると思ってトドメは刺さなかったんだが、そうか……
アーサー、すまなかったな。父が甘かったばかりに禍根を残してしまったようだ」
そう言って父様は、静かにため息を吐きました。
「いえ、幸いにして生き残れましたし、もうウードは墓の下です」
俺がそう言うと、父様は目を閉じて小さく頷きます。
「それでも『暴風のウード』と戦って、無事でよかったわ」
先ほどまでのスマイリーな表情から一転、母様が心配そうにこちらを見つめています。
「辛勝でしたが、なんとか」
俺がそう言うと、父様と母様が顔を見合わてから苦笑します。
「まったく、我が子ながら末恐ろしいな」
そう言うと周囲に笑いがこぼれ少し雰囲気が軽くなりました。
いや、ホントは笑い事じゃないんですけどね……
っと言う訳で、俺が倒れてからの話を聞かせると、再び場の空気が凍りつきました。
ほら、晩餐会で王様が俺の功績について、勝手に語ってくれましたからね。
それを聞いた父様は頭を抱えて唸り出しました。
ブツブツ言いながら、執事長のモーリスと何やら深刻な顔で相談しています。
単語だけ少し耳に入りましたが、「どう断る?」とか「周囲の貴族との友好関係が」なんて単語が聞こえてきます。
うん、ごめんね。文句は王様にお願いします。
「それで、アーサーはミレイア様について、どう思っているのかしら?」
そして母様が再び、場の空気を凍らせる発言を繰り出しました。
いや、その言葉を聞いた瞬間に、ロイドさんの眼光が3割増しくらい鋭くなったんですが!
「恋愛感情は、まだなんとも言えないのですが、嫌いではない……ですよ」
ロイドさんの方を見ないようにして、俺は言葉を選びながらそう答えます。
それを聞いた母様は、少し思案顔になりチラリとこちらに視線を向けました。
「ミレイア様を娶ると言うことは、かなり大変な事なのよ?
場合によっては領地と爵位をアーサーが賜るかも知れないわ。
チェスター、間に合ってよかったわね?」
「ん?何の話だ?」
モーリスと話をしていた父様は、突然振られた話に要領を得ない表情で、母様に聞き返します。
「アーサーが帰ってきてから、言おうと思ってたのよ。
その…… 出来たみたいなのよ!」
「……はっ!? 本当か!ディアナ?」
なんですと!この発言には俺も驚きました!
両親の夜の運動会は、結果を出したみたいですね!
信じられないといった表情で、父様は固まっていますね。
そりゃそうでしょう。俺が生まれてから、随分頑張ってましたが、やっと結果が出たんですから。
しっかし、今日は場の空気さんは、凍ったり温まったりと、色々と大変ですね……
すみません、だいたい俺のせいですね……




