94.王都は燃えているか?
絶対にミレイア様のツンデレは、父親譲りですね!
どうしてこうも、人生設計について悩まないといけない8歳児、アーサー君です。
会食はヒヤヒヤしましたが、なんとか無事に終了しました。
帰り際に王妃様が「王都に来たらまた食事をしましょう」なんて言ってくれました。
次回食事をする機会があるならば、もっと和やかに食事をしたいものですね。
さて、残りの日数に関しては、騎士さん達と稽古をしたり、領におみやげで持ち帰る品を買ったりと、アチコチ動いてました。
そして最終日となる今日は、王様にご挨拶をして昼には王都を出る予定です。
っと言っても、予約していた商品を商家から受け取って、ロイドさんの商隊に預けなければならないのですよ。
そんな訳で城を出てから王都の宿に1泊して、明日の朝には本当に王都とサヨナラですね。
いやはや、毎度のことながら濃密な日々だったと思いますね。
早く父様や母様、リーラやエリカの顔が見たいです。
と言うか、俺に平穏な日々をぷりーず!
いや、マジで……
帰り際に王様から、「次はいつ来る?」みたいなことを言われて、ちょっとビビったのは秘密です。
そして一連の用事を済ませて、俺とダリルさんは王都の高級宿にチェックインしました。
夕食も済ませて、後はお子様は寝るだけなのですが、その前に少しやることがあります。
「それで、首尾はどうだった?」
俺は久しぶりに会ったミレーユを軽くモフりながら、そう尋ねました。
「うにゃ!み、耳はやめるニャ!」
「いや、だから耳じゃなくて首尾は?」
「うぅ…… ご主人さまは鬼畜ニャ、変態ニャ……」
仕方なく俺はモフりを中断して、改めて尋ねます。
「ウニャぁ…… とりあえず報告するニャ。
ご主人さまの言うとおり、間違いなく真っ黒ニャ。
商会長は番頭が連行されたその日のうちに、周囲に怒鳴り散らしてたニャ」
ミレーユは少し名残惜しそうにしながらも、そう言って報告してくれます。
ええ、決闘の前後にミレーユが空気だったのは、ずっとミュアー商会に潜っていてもらったからなんですね。
ほら、辺境伯家が当主交代と息子の放逐、ミレイア様も修道院送り。
それなのにミュアー商会だけは、トカゲのしっぽ切りで終わるとか、後味悪いですよね。
「それで、言葉だけじゃなくて証拠も見つけてきたんだろ?」
俺がそう言って空間魔法から魚の干物を取り出すと、さっきまでヘニャっていたミレーユの耳が、シャキーン!と立ち上がりました。
「ニャ!これが裏帳簿で、この出納帳に黒い金の流れがバッチリ書かれてるニャ!ジュルリ……」
視線を干物から離さずに、ミレーユは素早く胸元から紙束を取り出しました。
一瞬だけ慎ましやかな膨らみが見えましたが、多分気のせいでしょう。
アーサー君はまだ、そんな桜色の突起に興味を示すような、お年頃じゃないですからね。
ごめん、ウソです……
俺は干物と交換で裏帳簿を受け取って中を見ると、あるわあるわ不正のオンパレードですね。
「さて、ミレーユ。干物を食べ終えたらもう一仕事するとしよう。今度はフルコースをごちそうするぞ?」
「ニャ!何でもやるにゃ!フルコースニャ!」
口の端に魚のしっぽをのぞかせながら、ミレーユは直立不動でそう答えてくれました。
うん、だんだんミレーユの使い方が判ってきた気がしますね。
その日の深夜、王都には夜のしじまを切り裂いて、緊急時の連鐘が鳴り響きました。
鐘の打ち鳴らし方で、数ヶ所で火の手が立ち上った事を、住民達へ知らせます。
俺は眠い目をこすりながら、宿の人に何が起こっているかを尋ねると、遠くで火事が起きていると教えてくれました。
幸いにも近場ではないらしく、宿の人は落ち着いた様子で 「何かあればお知らせしますので、ごゆっくりお休み下さい」 と伝えてくれます。
流石高級宿、対応も落ち着いていますね。
俺はその言葉を聞いて部屋に戻りましたが、今度は少し荒々しいノックの音がそのすぐ後に聞こえます。
寝間着のままドアを開けて対応すると、少し慌てた様子で騎士さん達が飛び込んできました。
「夜分遅くに、失礼します。デレク団長から、アーサー様の所在を安全を確認するよう命令を受けております」
冷静にそう言った騎士さん達は俺とミレーユ、そして別室のダリルさんの所在を確認すると、一人が報告に走りました。
「何かあったのですか?」
俺がそう尋ねると、少し言い難そうに騎士さんが答えてくれます。
「いえ、城下で火災が発生しており、皆様の安全を確認せよと命令を受けておりまして……」
少し言いよどみながらも、騎士さんは先程と同じような話を繰り返します。
「もし、火災が大規模なら水魔法が使えますので、消火のお手伝いも出来ますが?」
「い、いえ、それには及びません」
少しドキッとした表情で、そう答えた騎士さんが不意に硬直しました。
「それで、本当の用件はなんだ?」
ギギギと、振り返った騎士さんの視線の先には、静かに佇むダリルさんが立っていまして、鋭い視線を向けています。
……はい、騎士さん即落ちで自白です。
今燃えているのは、ミュアー商会の本店と倉庫、それに商会長の邸宅だそうで、デレク団長は真っ先に俺達の顔が浮かんだそうです。
それで身柄の確認と、下手に動かないように警備と称して騎士さん達を送り込んだのだそうです。
まったく!俺達が放火したとでも言うんですか!
ヒドイ言いがかりです!
俺がそう抗議すると、宿の人間からも証言が取れたそうで、申し訳無さそうに騎士さんが謝罪してくれました。
…………まあ、ぶっちゃけ、俺の仕業なんですがね。
ええ、無属性の魔法でギッチギチに固めた火魔法の種火を、ミレーユと手分けして床下に放り込んで来たんですよ。
食後のお散歩ですからね。小一時間もかかりませんでしたよ。
えっ?誰かに気付かれなかったかって?
大森林で魔物と追いかけっこしてましたからね。余程のことがなければバレませんよ。
ついでに、広場で子供を捕まえて銀貨で買収。厳重に包装した例の帳簿を落し物として、騎士団の詰所に届けさせてあります。
無魔法のコーティングは、数時間経つと外側から解けていき、中の火魔法が炎を吹き上げるんですよ。
魔法版の時限発火装置ですね。
そんな訳で『散歩』を終わらせて、帰って来てから再びミレーユをモフって、満足してから床に入りました。
その後に騎士さん達がやって来た。そういう事ですね。
いや、後味も悪いってのもあるんですが、このまま商会をのさばらせておくとねぇ……
後から確実に、どこかの領主婦人が、俺より規模の大きい火災を引き起こす可能性がありましてね。
はい、少々の小火で『王都大火』を防げるなら、このくらいの労力大したことはありませんよ。
家も財産も失い、それから証拠が届いて捕縛されるとか、商会長が扱い的には一番ひどいかもしれません。
自業自得ですけどね!
そうして騎士さん達の警護つきで朝を迎え、話を聞いてみれば夜明け前にようやく鎮火したらしいですが、すっかり全焼らしいです。
しかも、どういう訳か被害者の商会長は、騎士団に連行されたらしく、街の人達は随分と不思議がっていたみたいですよ。
うん、今日はいい天気ですね!
「さて、領地に帰りましょう!」
こうして俺達は、セルウィン領に向けて出発したのでした……
仕事→報告書→体調不良 このコンボで遅くなりましたm(_ _)m




