第九話:たーくんと書店に行こう!後編
◆書店にて◆
こちらお姉ちゃん。ただいまたーくんの手を握りながら、二階建ての書店にて、取り敢えず一階を徘徊中。
一階には実用書だったり、小説、医学書などの専門書などもあります。
さらに某チェーンのカフェ店も併設してあるので、購入した本はここでドリンクやらケーキでも嗜みながらいただくことが可能です。
そして2階ですね。
今回は、こちらに用があります。
(なんたってこっちにラノベ、漫画、児童書に雑誌などが置いてありますからね!)
まあだから、汎用エンタメコーナーって感じでしょうか。
後はお料理本とか、スポーツの、テクニック集? みたいなものもあります。
(品揃えが豊富なのだ! このお店は!)
お姉ちゃんも、一人では割とよく行く書店さん。しかし、たーくんとは行きたくなかった……!
(2階にこそ精通ポイントがいっぱいあるんですよ……!)
先ず漫画コーナー。
恋愛漫画よりも、異世界コーナーに有る漫画のほうが危ないのかな。
(露骨におっぱいが大きい女の子の作品が多いんですよ……!)
しかも水着にしては際どすぎたり、装備品が『そんなんで冒険とか戦闘とか舐めてんの? 防具の意味無くね?』みたいなものも勿論……。
(なんかそもそも着てないみたいな物も結構ありません?)
次に写真集。
まあコレは説明不要。現実世界の美人さん達が普通に谷間下乳さらけ出してます。
(お姉ちゃんたちよりもっと上の世代の人は、グラビアとかで精通してたのかな?)
まあ良いやそれは。生々しすぎる。
最後。コレも説明不要。
ラノベコーナー。ここはマジで容赦がない。
ここはもう、精通どころか、三次元の恋愛に興味無くなってしまう、二次ヲタになっちゃう要素が目白押しですよねー。
表紙がもうエッチだもん。
(Vtuberの子はエッチな格好の子多いし、ラノベのヒロインはヤケにパイパイおっきいし)
男の子たちはここでもれなく精通してしまうんじゃないでしょうか。
(まあ六歳のたーくんはまだ精通とかこないとおもうけど……!)
しれないけど、おちんちんを2次元の女の子がきっかけでいじりかねない。
そうなるとこれから、同級生の女の子と恋愛ができなくなるかも知れないので、気をつけよう!
(取り敢えず先にたーくんに何が読みたいか聞こう)
さっきから精通のことばっかり考えてましたからね。書店を徘徊しながら。
「たーくんは、読みたい本とかあるの?」
「んーっとね! 転メタスラ!」
『転生したらメタルスライムでした』ですね。 児童書コーナーにも、ラノベコーナーにもありますね。
「漫画? 小説?」
「小説が良い!」
普通の子なら漫画のほうが良さそうなもんですが。
(まあたーくんに限らず、なろうで書いてる人にとっては伝説ですもんねー)
まだ完結はしてないけど。でも殿堂入りでしょうコレはもう。小説っていうかもう一種の聖書みたいなもんかもね。
「じゃあ2階に行こうかー!」
「うん!」
◆2階◆
(地雷原に来てしまった……!)
グラビアコーナーはちゃんと隔離されてるから大丈夫。
漫画コーナーも青年コーナーとか隔離されてあるから大丈夫。
(問題はラノベコーナー……!)
特に『男性向けラノベコーナー』っていうのがあるんですよね。
こちらの作品の中に、マジでエッチな表紙のものが多い。
(ここだけは死ぬ気で回避しましょう……!)
「たーくん。先にどこ行こう?」
「んーっとね。転メタスラ見たい!」
まあそう来ますよね!
「じゃあラノベコーナーってことかな? よーし! 一緒に行こう!」
「うん!」
◆ラノベの書棚の前◆
私は今、たーくんを肩車して運んでいます。
何故なら、これならたーくんの視界にエッチな本が入るというトラブルを回避できるからです。
「たかいたかーい!」
「ねー! 高いねーたーくん!」
しかもこの方法ならたーくんは喜びます。許せ、書店員さん。コレしか方法がないのだ。
「転メタスラどこかなー?」とたーくん。
「もうちょっとだよー」
すると、視界に入る『原作:田中雪歩』の平積み。
お姉ちゃんが今まで書いてきた『グレイズシリーズ』や『代文化ミステリーシリーズ』が視界に入ります。
「わ―! おねーちゃんの本だー! おろしておろしてー!」
「う、うん」
しゃがんでたーくんを下ろします。
たーくんがトテトテとお姉ちゃんの本に駆け寄り、手にとって一つ一つを愛おしそうに掴んで、眺めます。
「すごいねー! おねーちゃんの本って今こんなにいっぱいあるんだー」
「……ねー。これからまだまだ増えるんだよー」
人気作家はこのように、購買者の方に寄る作者買いが起こるので、こうしてまとめて平積みにされることが多々あるわけですが……。
(なんか感慨深いなー)
私も、たーくんほど早くないけど、小学五年生くらいからとにかくいっぱい色々書いて。
それでなろうに投稿し始めたのが十年前の中学一年生くらいの時かな?
そんで17の時にデビューして。そこから雪だるま式にミステリーとか。後は純文学にエッセイも売れて。
ネット小説文化が育ってくれたおかげで今の私がある。
(なろうって、お姉ちゃんとほとんど同い年なんだよねー)
2026現在。なろうは2004年から始まっているので22歳。お姉ちゃんは23歳。
勿論、産まれてからすぐに二人三脚で歩んできたわけじゃないけど、なんというか、厳しくも育ててくれたお母さんみたいな感じなのかも知れない。
(まあ私が勝手に思ってるだけだけど)
私は、私の本を嬉しそうに手に取るたーくんを眺めます。
すると私の視線に気づいたのか、たーくんが振り返り、私に話しかけてきます。
「おねーちゃん。」
「んー?」
「僕も、田中大輝の名前で書籍化したら、いつかおねーちゃんの隣に本が置かれる未来もあるのかな?」
もしも、たーくんが書籍化したら。
「うん! そうだね。それに、お姉ちゃんが誰よりも先に、たーくんの作品の帯に応援コメント書いちゃうかも!」
「なんて書いてくれるの!?」
「うーん……。なんて書こうかなー」
応援してます? 他人行儀すぎるよね。
うちの弟がお世話になります? 三者面談じゃないんだから。
「うー。なんて書こうかなー……。あ! 良いの思いついた!」
「なになに!? 教えて教えて!」
立っている私の膝下に来て、シャツの裾を引っ張るたーくんが愛おしい。
……。どうしよっかなー。
「えへへ。たーくん?」
「なあに?!」
私は立ったまま、たーくんの頭を撫でます。
たーくんがキョトンした顔をしても、私は構わず続けます。
ひとしきり頭を撫で回した後、私は彼が愛おしくなったので、周りを見渡し、誰もいないことを確認した後、私は彼を抱きしめます。
彼の小さな両腕が、私の背中に伝い、私の抱擁に応えてくれます。
「……たーくん?」
「……なあに?」
私の顔が見えるように、少しだけたーくんを突き放した私は、思いっきりの笑顔を浮かべながら
「教えない!」
と、いたずらっ子な面を見せつけました。
◆帰り道◆
なんとか何事もなく、地雷原を生き延びた私達。
夕方の三時はまだ真昼のように明るい陽光を私達に浴びせます。
行きと同じように、手を繋いだまま帰る私達。
たーくんが手をブランブランさせて駄々をこねています。
「ねー。やっぱり教えてよー! 僕の帯になんて書くつもりなの?」
「ダメー。だって転メタスラ、買ってあげたじゃん。ソウイウ約束だったでしょ?」
「うー……。まあそうだけどー!」
だってね。そういうのってサプライズにしたいじゃん?
それに、そんなに大層なことを書くつもりは無いんだし。
◆いつかの未来。とある一般人の視点◆
とある書店の2階。
一人の作家によって大量に出版されている作品の平積みの隣に、一つの、無名の新人による作品が積まれた。
それは『小説家になろう』という戦場を勝ち抜き、数年の果て、ようやく叶った夢の具現化らしい。
私はその一冊を手に取る。表紙と、あらすじと、帯を確認するのが読書家の習性であろう。
それに倣いそれらを確認する私の表情は少しだけ、帯のコメントを読んだ段階で曇る。
新人の作品の帯には何かしら、有名作家によるコメントが書かれているものだが、それは販促を促進させるためのプロモーションであったりもするはず。
果たして、この帯でこの本を買う気になる人はいるのだろうか?
『こちらお姉ちゃん。
デビュー本当におめでとう。
毎日あなたがいっしょうけんめい頑張っていたこと、私だけはずっと知ってたから。
ずっと私の背中を追いかけてきた小さな作家は、今日、ついに私の隣に並びました。
「いつか隣に」というあなたの夢、ちゃんと叶ったよ。
これからは同じ景色を見ながら、二人で一緒に走ろうね。』
ぶつくさ言いながら手に取り、結局私は一人の読者となった。




