第十話:たーくんとウシジマくん・前編
◆たーくんのお部屋。◆
こちらおねえちゃん。学校終わりくらいの時間ですね。
今はたーくんの部屋にて座して彼の帰りを待っているところです。
(早く帰ってこないかなー。たーくん♡)
すると鳴るスマホ。着信だ。確認してみましょう。
ん? たーくんからですね。なんだろう。
「もしもしー。こちらお姉ちゃん」
『こちらたーくんです! おねえちゃん?』
「なーに?」
『今日ウシジマくんの家に遊びに行って良い?』
……勿論良い! まあちょっとさみしいけどねー。
まあ良いわ良いんだが……。
(監視カメラが無いから、たーくんを視界に入れることが出来ない……!!!)
当たり前ですけど、さすがのお姉ちゃんでも他人様の家の中に監視カメラを付けることは出来ません。学区内全てに仕掛けるより、ハッキリ言って難易度が高いです。
(まあでも、お友達どうしの交流ってとっても大事だからねー)
ちょっとくらいは我慢しましょう。たーくんとウシジマくんのイチャイチャは脳内で補完すれば良い。
「いいよー。行っておいで~」
『……おねえちゃん、僕にあえなくて寂しくない?』
「……寂しいけど、帰ってきてくれるんだし。お姉ちゃん、御飯作って待ってるから」
『……ごめんね……』
……可愛い……。こんな一緒に遊ぶ友達なんてほとんどいないカス相手の孤独を案じてくれるなんて……。
『……? あ、ウシジマくんが話があるって。ちょっと待ってて』
……? なんだろう。皆目検討つきませんが。
『……おねえちゃん? 今日時間あるよね?』
「うん。あるけど?」
『ウシジマくんがおねえちゃんなら来てもいいってさ』
……マジで……!?
「行くイクイクイクイクイクイク行く!」
『きてきてきてきてきて!』
しかし、何故ウシジマくんはそんな事を言ったのでしょうか。
まあ良いや。色々準備して向かっちゃおう!
◇ウシジマくんの家の前。◇
こちらお姉ちゃん。まさかのウシジマくんから許可を得ましたと。
結構良いマンションの一室にお住まいのようですね。これ、築二桁年いってないんじゃないんでしょうか。
一応いくつかの、二人のためのお菓子と、親御さんへの過剰なまでの、デパ地下で購入したお土産。
二人はもうウシジマくんの部屋で遊んでいるところらしいです。
そして今、私はチャイムを押すかどうか死ぬほど逡巡しています。
(だってコレどう考えてもおかしいよね?)
小学生の・お友だちの・家に・弟がいるからっていう理由で・お邪魔する姉(23ちゃい☆)。
(こんな奴いる?)
少なくとも私は今まで聞いたことがありません。
(しかもこんなノリノリで乱入クエストする成人女性、ヤバいそのものでしょ)
ウシジマくんの親御さんからしたら結構な恐怖なんじゃないんでしょうか。
正直、成人女性が小学生の遊びに割り込む理由がほとんど見当たりません。
(監視目的か、ショタが過ぎるか、マジで暇か)
まあどれもろくなもんじゃない。正当な理由は一つも見つかりませんね。
(まあだからこその高級デパ地下お土産だ!)
もう金の力で黙らせます☆ だってもうコレしか方法が思いつかなったんだもーん(えーん(T_T))
自認ヤバい女だっていう自覚はとうの昔からあります。だからこそのお金。
(金はすべてを解決してくれると信じている)
ワンチャン電気代とか、向こう1年分の食費とかも支払う覚悟です。
まあそんな心配事とは別に、お姉ちゃんはウッキウキ。
だって、はやる気持ちを抑えられない。
(たーくんがイチャイチャしてるところが見れるってことでしょ!?)
しかも今回はウシジマくんっていう現状たーくん以外なら最推しの子もいる。
(勇気を出せ! お姉ちゃん!)
エイ! チャイムを鳴らします!
ピンポーン♪
『はーいー?』
これはお母様だ! いけ!
「あ! あの! たーくんの姉です! ウシジマくんに誘われて来ました!」
(ヤバい。ちゃんとした文言が思いつかない)
沈黙です。くっそ警戒しています。そりゃそうだ。
息子に誘われただけでくんじゃねえよって感じですよね。成人女性が。
お母さんからしたら、たーくんという名のこどもを家に呼ぶのと、私という名の成人女性を家に連れ込むのは全く話が違います。内側からご家庭を食い散らかすトロイの木馬になりかねませんし。
てゆーかこの感じ、ウシジマくんお母様に私の話をしていなかったな……!?
(う~! 緊張するー! 早くなにか言ってよー! お母様ー!)
数秒の沈黙の後。とうとう私も不審者として司法に裁かれたりするのかなーなんて思っていると、予想だにしないお母様の発言。
『あのたーくんのお姉ちゃんね! はいはい! 今から出迎えに行きますから』
……お?
ガチャリと扉が開きます。
「あらー! 噂に違わぬ超美人さん! はじめまして。ウシジマヒロトのお母さんです」
(めっちゃいい人ー!)
「あ、あの! 田中雪歩です! こちらつまらないものですが……」
さあ顕現せよ。
A5ランクの霜降り牛にキャビア。さらに瓶入りのウニのペースト。
ちゃんと全てご家族分あります。
(ふっ。勝った……)
しかし物語は想定外の事態に。
「……失礼だけど、これいくらしたの……!?」
「(やばい。逆にドン引きしている)まあそこは……。お気になさらず……」
えーっとね。
A5ランクの霜降り牛が、えーっと4万円でー。
キャビアが三万円でー。
ウニがー。一万円。
合 計 八 万 円 ☆
金の力で黙らせることには成功したね☆ いぇーい☆
(まあドン引きなんてもんじゃないけど)
初対面の成人女性から計八万円のギフトはもう賄賂です。
『受け取ってくれ。……今回のことは不問にしといてくれな……?』的なメッセージが含まれています。
そんな裏のメッセージを受け取ったせいで、警戒心MAXのお母さん。
「……息子になにかするつもりじゃないでしょうね……!?」
そりゃそうなるわ。
「いえいえ! 全くそんなつもりはなくて! 本当に誘われたから来たんです!」
いやコレも意味分からん。
「ますます怪しいわね! 普通小学生に誘われたからって、成人女性が遊びに来る!?」
超まともな意見! 良かったお母様がまともな人で!
「え、えと、あの、その……」
隠れてお菓子を食べていた事がバレた時のたーくんみたいな返事しかできません。
母は強し。コレはどの世代でも不変なんですね……。
いやそんなことより……。
「さあ! なんとか言ってちょうだい!」
——だ、誰か助けてー!——
すると現れる二人の救世主。
「待ってくれお母さん! 違うんだよ!」と、ウシジマくん!
「お、おねえちゃんをいじめないで!」と、たーくん!
「た、たーくん~! ウシジマくん~!」と私、不審者。超泣きそうです。
「ひ、ヒロトにたーくん! ちょっとお母さんには何のことだか分からないわ! 説明してちょうだい!」とお母様。
ここでたーくん、最高にナイスなファインプレーをカマしてくれます。
「えーっとねー。おねーちゃんは小説家なんだけどー。今日は色々僕たちに教えてくれる予定なんだー!」
……あれ? そんな話はしてないけど……?
(でもここで口裏を合わせるしか無い!)
「そ、そうなんです! 私あの! 本名『田中雪歩』の名前で『グレイズ』とか、『代文化ミステリーシリーズ』などを執筆していまして……」
コレはほんとう。そして代文化ミステリーシリーズは民放でもアニメ化している作品。
つまり……。
「あらー! あの『代文化ミステリーシリーズ』の! こちらとんだご無礼を……。本当に申し訳ありませんでした……」
「いえいえこちらこそ本当に申し訳ありませんでした……。あまりにも説明が不足していましたね……」
よっしゃ! たーくんとウシジマくんのおかげで難を乗り切ったぜ!
後でいーっぱい二人に感謝しないと……。
「さあさあ、お上がりください。先生。後本当にこちら頂いて良いんですか?」
「ぜひぜひ! ご迷惑をおかけしたということで。遠慮なく受け取ってください!」
さあ。これで合法的に他所様のご家庭に侵入することが出来ました。
でもさっき言っていた、たーくんの発言。
『えーっとねー。おねーちゃんは小説家なんだけどー。今日は色々僕たちに教えてくれる予定なんだー!』
……どういうことなんだろう。ウシジマくんもなにかやってたりするのかな?
まあそれは後で聞いてみよう。




