第七話:読みあい文化とたーくん
こちらお姉ちゃん。
時刻は17時。今日はたーくんは一緒じゃないんです。
お姉ちゃんのお家で、作業をしながらたーくんを見守っています。
監視カメラ越しに。
「ふふふ……。今日も頑張ってるねー。たーくん♡」
お勉強を終えた後、今は執筆活動。覚えたての漢字をちょっとずつ使いながら、自分のベストを出していってます。尊い。
はあ……。眺める分には良いけど。でも体は寂しい……。たーくん成分が全く足りていません。
次は絶対に一緒におねんねするんだから!
社会人って辛いですね……。はあ。
さあ、仕事をしながらたーくんを眺めて、枯れた心を癒しましょう……。
◆たーくんに異変。
三十分が経過した頃。たーくんに異変が。
珍しい。筆が止まってます。考え込んでる感じでもない。
(……何を見てるんだろう?)
眼球を物理的にズーム! たーくんのスマホ画面をカメラ越しに見てみましょう。
(……コメントを読んでるのかな?)
すごい! 初めてのコメントだ~! たーくんの作品にもとうとうファンが付いたのかな……?
でも、その割に嬉しそうではないね。かと言って悲しそうでもない。
(……内容が気になる……)
お姉ちゃんは、たーくんの全てをか見守っているわけではありません。
スマホ上の全て、おトイレの中。お風呂の中には流石に見守り機能は付けていない。
だからこそ、こんな始めての事態に対応出来ない今がもどかしいのです。
(……えええい! お仕事なんてなんとかなります!)
お姉ちゃんはたーくん第一! 降りてすぐさま車で向かいましょう!
◆車ブーン◆
到着し、たーくんに迎え入れてもらって、現在たーくんのお部屋の中。
たーくんに事情聴取です。
「たーくん。」
「なぁに?」
「……」
(やばい、なんて言おう)
『さっきまで何を見ていたの?』なんて聞けるはずもありません。だって、たーくんが何かを見ていたことを、お姉ちゃんは合法的に知れるわけがないからです。
(……まあいいや。取り敢えず普通にお話を聞いてみよう)
「たーくん、今日はなにかいいことあった?」
「……んー。良いことっていうかー……」
「……イイことっていうかー?」
「……初めてコメントが来たんだ―」
「……なろうの方に?」
「……うん」
やっぱりなんだか嬉しくなさそう。何があったのかな。
「そのコメント、お姉ちゃんに見せてくれる?」
「……うん」
たーくんがお姉ちゃんにスマホを貸してくれました。さあ、内容を見てみましょう。
『初めまして、イディオムと申します!いつも素晴らしい作品を拝見しており、独特の世界観や魅力的なキャラクターの掛け合いに大変感銘を受けております。プロ顔負けの文章力に、同じ執筆者としていつも勉強させていただいております!』
……なるほど……。そしてこう続くと……。
『もしよろしければ、お時間のある時にでもご一読いただき、星やレビューなどで応援していただけますと今後の執筆の励みになります! お互い頑張りましょう!【urlリンク】』
……うん。なろうとカクヨムあるあるですね。コレは。
(星乞食だ……!)
己の力を磨き上げるわけでもなく、不自然なコメントを置き土産に去っていく、ただ書籍化がしたいだけのコメント。
「……たーくんは、このコメントを見ても、嬉しくない?」
「……うん。あんまり」
六歳児にも見抜かれてますよ……。嘘で塗り固められてるって……。
たーくんがそのまま言葉を紡いでいきます。
「……僕の話が面白いからコメントと星をくれたのかな―って思ったんだけど……なんだか違うのかな……」
……なんだか、たーくんが泣いているところを見るより、心が痛い。
この手のコメントって、真剣に『楽しんでほしい』っていう作者のことを馬鹿にしているっていう自覚が無いんですよねー……。お姉ちゃんも、投稿したてのときは良くあった。
お姉ちゃんが中学生くらいの時とか……。
『あー! コメント来てるー!』ウキウキコメントパカー
『』長文星乞食ー☆☆☆
『……。楽しんでくれたわけじゃなかったんだね……』
なんてことが良くありました。
あれ何がムカつくって、読まれていない作品を狙い撃ちにしてるんですよね。
だから、絶対に読んでいないんですよ。星乞食は。
当時は本当に嫌な気持ちになっていましたが、それを乗り越えることが出来、今では、沢山のファンに支えられて楽しく、時には苦しくも執筆活動を続けることが出来ています。
「ねえねえ。おねーちゃん……?」
「なあに? たーくん?」
「……この人の小説……。読みに行ったほうが良いのかな……?」
うーん。コレどうなんだろう。確かに参考にはなるのかも知れませんが……。
なんていうか、読み合いって要は「お互いの臓腑をナイフで突き刺しあって斬れ味を確かめてる兵士達」みたいな物だと思うんですよね。
苦労して血を流してる割に成果がない。
本来『純粋な読者に読んでもらって評価をいただく』っていうのが正しい成果じゃないですか。その果てに書籍化やらがあると。
ならばそのナイフを、戦場で敵を倒すために使うべきなのに、「このナイフの斬れ味どう?」「いいね。私のもどう?」って言ってぶっ刺し合ってるんですよ。
時間も血液も無駄に垂れ流している。
なのにスキルは増えない。経験も増えない。
例えば、創作仲間を作りたくてやるにしても『これって本当に仲間と言えるのかな?』とも思うわけです。
見返りを求めてる時点で『何かの目的を達成するための協力者』の域を出ないような。
一人ででも戦場に投げうって、戦う。
若しくは思い切ってプロという名の上官の心臓をぶっ刺して評価をいただく。
それか、趣味の延長線上で楽しく書き進めていく。読まれようが読まれまいがね。
これがネット小説という荒野の生き方なのかなーとお姉ちゃんは思うわけです。
良し! お姉ちゃんなりに結論が出ました。
「たーくん。聞いてくれる?」
「うん」
「お姉ちゃんはね。読み合う時間よりも、書いたりする時間のほうが大事だと思う。」
「……じゃあこの人の作品を読みにいかなくてもいい?」
「……そもそもたーくんは、この人の作品を読みたいって思う?」
「……全く」
まあぶっちゃけ面白くはなさそうだよねー。
「だよね。なら読む必要ないよー」
「……分かった」
「それにお姉ちゃんと一緒に読み合いしたほうが効率がいいから、今度からお姉ちゃんと一緒に読み合いしようね?」
「うん! 分かった!」
さあ、平和的に解決した所で……。後はこのコメントをどうするか。
「たーくんはこのコメント消したい?」
「……うん」
「なら消しちゃおう。今から消し方を教えてあげる」
そう言って私は手取り足取りたーくんにやり方を教えていると……?
【新着メッセージ(1)】
「たーくん。新しいメッセージが来てる」
「……」
まあ積極的には開きたくないよねー。また星乞食だったら嫌だし。
「じゃあお姉ちゃんが代わりに見てあげる」
「……ありがとう」
画面をタップ。中身を確認。
「……たーくん! これ、質問来てるよ!」
「質問?」
「うん! 答えてあげて!」
その中身の内容は
『これって何話くらいまで続きます? 続きが気になってます』
正直、丁寧とは思えない文言。
だけれど、だからこそ、まるでソファの上で寝っ転がりながら適当に打ったかのような文章に、私達は素直に喜びました。
「たーくん! この人ちゃんと読んでくれてる人だよ! 返信してあげて!」
「わ、分かった!」
「ちなみにコレ、何話くらいまで続きそう?」
「え、えっとね……」
『はじめまして! 読んでくれてありがとうございます! 僕のこの作品は50話くらいで完結予定です! よろしくお願いします!』
(たーくん漢字を正しく使えてる……!!!)
たーくんが震える手で返信。そして数分後……。
初回から最新話まで、リアクションボタンが一つずつ押されました。
それとブクマも一つ!
「……おねーちゃん……」
「……うん……。うん……」
「僕、初めて書いてて嬉しいって思った……」
「……うん……そうだね……」
もう半年? 1年くらい頑張って書いてるのかな?
今までリアクションボタン、ブクマどころかPVも殆どつかなかった。
けど今日、初めて、たーくんのお話を楽しんでくれてる人がいるってことが分かりました。
ちなみにお姉ちゃんは、たーくんの作品にブクマも星もつけてません。
だって、初めてのポイントは、自分の力で手に入れてほしいし、その喜びを正当に味わってほしいもん。
その初めてが、今日叶いました。
(……ありがとう。見知らぬ人……)
なんだか涙が出ちゃう……。
「……なんでおねーちゃんが泣くのー……?」
「だってぇ……。ふぇぇぇぇぇぇぇん」
「……仕方ないなー。おねーちゃん。こっちおいで?」
たーくんが両腕を広げてくれます。
お姉ちゃんは蜂さんみたいにたーくんに吸い寄せられます。
たーくんの胸の高さに私の頭が来ると、たーくんが抱きしめて、
「よしよし……痛いの痛いのとんでけー……」
と撫で撫でしてくれます。
「うう……グス……。ありがとう……。たーくん」
「こちらこそありがとう……。おねーちゃん……」
最後にこの人のユーザー名だけは確認しておこう……。
なんて名前なんだろう……?
『メスガキ太郎』
…………。
「……ふぇぇぇぇぇぇぇん………………」
「なんでまた泣くのー!?」
「……良くわかんないよー……」
……本当に良くわかりません。なんでこんなイカれたユーザー名にしたのか……。
(メスガキ太郎がたーくんの初めてかー……)
本当にありがとう。メスガキ太郎。
でもできれば名前を変えてください……。
子どもに悪影響なので……。
あとなんか素直に喜べないので……。




