第六話:お姉ちゃんはお友達と飲み会
◇とある小洒落たバル◇
こちらお姉ちゃん。
テーブルクロスが敷かれた、円卓を囲んで……
今日は友達たちと楽しいディナー会!
普段はお酒を飲んだりはしません。ですが今日は勝手が違う。
前菜:彩り野菜のサラダ、温菜にアヒージョ等など。
メイン:ローストビーフやら、ステーキやら。
(……とってもワインに合うラインナップ!)
コレは飲まない手はありません。
まああと、気心知れた数少ない友人との会だからっていうのもありますね。
(本当はたーくんも連れてきたいんだけどね……)
連れてきたら最後、私は昔からの友人をほっぽいて、ただただ、たーくんと一緒にイチャイチャするだけのブラコン性獣小豆洗いになるでしょう。
(でも帰ったらたーくんをいっぱい愛でるんだー!)
なんて思いながら、私は何かを抱きしめる素振り。
友人二人は怪訝な表情。
「……雪歩……。あんた何、空を抱きしめてんのよ」と、派手めな美人『ゴージャス』。
私より身長の高い、ハーフの美人さん。
私達が勝手にゴージャスって呼んでます。勿論コレは本名ではありません。金髪だから、ゴージャス。
ちなみに私の名前は雪歩って言います。以降お見知りおきを。
「わかってる。どうせ可愛い弟くんを召喚して、抱きしめてたんだよね?」と、ちっちゃくて可愛い『ちびちゃん』。
この子も勿論あだ名です。背がちっちゃいからチビちゃん。10歳だったら溺愛してるかも。
二人は私がたーくんと精神世界で付き合っていることを知っています。
なので割と、わたしの特性について理解してくれる、数少ない仲間です。
「まあいいや。おい雪歩とチビ。見せたいものがある」とゴージャス。
何でしょうか。
ゴージャスが自身のスマホをいじります。そして何かを見つけてきて、その後私達にとある画像を見せつけます。
「見て―! コレ彼氏の寝顔ー! 超可愛くない?!」
するとチビちゃんが合の手。
「かわいいー!」
なるほど。ソウイウ流れねー。了解。
なら私もスマホを取り出して……。
ふんふーん♪
「じゃあ私も! これ彼氏の足の裏! 可愛いでしょ……!」とチビちゃん。
「可愛いー!」とゴージャス。
ふんふーん♪ あ、次は私のターンか。
「……ぬるい……! ぬるすぎる!」
「「……?!」」
「二人の彼氏って、成人してるよね!?」
「まあ……。そうだけど」とゴージャス。ドン引き☆
「雪歩じゃあるまいし……」とチビちゃん。同じくドン引き☆
いやいやドン引きしたいのはこっちなんですけど?
なに普通に、成人した彼氏という当たり前でイキってるんですか?
成人なんて、ただ寿命が小学生や幼稚園生より短い、ほぼ死人ですからね? 寿命レースならたーくんの圧勝ですが? それでもイキります?
もういい。格の違いを見せてやる……!
「いでよ! お主達の彼氏を生贄に……!」
——たーくんと、私が頬を擦り寄せてる写真を……——
「召喚する!(勝った……!)」
「「…………」」
((可愛いけど犯罪の匂いがする……!))
◇◇◇
「いやいや。勝手に私の彼氏を生贄にすんなよ」と、ゴージャス。
「そうだよ。しかも二人まとめてって。星7以上のモンスターじゃん」と、チビちゃん。
確かに遊☆王ならそうなるね。
さすが二人。私の渾身のボケに対してマアマアな精度のツッコミを返してきました。
「でもとっても可愛いでしょ? たーくん。最近64GBのメモリーカード、全部たーくんで埋まったんだー」
「……また?!」
「雪歩それ何枚目なの?」
……確か……。
「……15枚目?」
((つまりほぼ1TB))
960GBですね。正確に言えば。
ちなみにコレは二人にも言ってないのですが、1年で使用したメモリーの容量です。
写真1枚の容量を5MBだと仮定します。
すると
総撮影枚数: 960,000MB ÷ 5MB = 約192,000枚
1日あたりの撮影枚数: 192,000枚 ÷ 365日 = 約526枚 / 日
という我ながら常軌を逸した数字が出ます。
睡眠時間を8時間とし、活動中の16時間常に一緒にいると仮定しても、1時間あたり約33枚(2分弱に1枚のペース)で毎日欠かさずシャッターを切り続けている計算になるのです。
流石に友達には言えないや☆
まあ更に言えないのが、これらの画像データは全て仕掛けられた監視カメラに依るものってことです。
後画像だけで約1TBあることも言えません。動画ならもっとあります。
コレも友達には言えないね☆
普通に犯罪行為だしね☆
「相変わらず溺愛してるんだね。たーくんのこと。」とちびちゃん。都合の良い解釈をしてくれます。
「なー。雪歩が普通の恋愛してるところとか想像できるか?」とゴージャス。こやつ、何を言い出すつもり?
「出来ない。昔っからこの子ってこうなの?」
「そうだよ。雪歩はずーっと昔から変わらないんだよ」
「まあそうだと思ったけど」
まあ私には、そういった前兆のようなものは昔からありはしましたね。確かに。
「そうそう。昔、この子が中学生の時に、ナンパしてきた高校生くらいの男がいたんだけどさ」
「うんうん」
「雪歩が『あなた。10歳越えてますよね?』って聞いたんだ」
「ほうほう」
「そしてその相手が『うん。見たら分かるでしょ』って」
「そしたら?」
「そしたら雪歩が『10歳未満の子以外には興味ありません!』って言って思いっきり股間を下から蹴り飛ばした」
「……へー(ぶれないねー……)」
懐かしいですね。昔から変わらず、小学生以上は私の恋愛対象ではありませんでした。
今ならどうでしょう。まあでも、たーくんにゾッコン中なあたり、私の守備範囲は大して変わってないんでしょうね。
ちなみにその後怒り狂った男の子たちは、ゴージャスの手によって制裁されました。さらばナンパ男。絶許。
「なー雪歩」とゴージャス。
「なに?」
「今度、たーくんに会わせてくれよ」
……ちょっとからかっちゃおー。私、ゴージャスの弱みを握ってるんですよね……。
「……そう言って『雪歩おねーちゃん』に昔みたいにバブバブされたいだけなんじゃないの……?」
「ち、チゲ―よ! 昔の話はすんなよ!」
わかりやすく動揺しているゴージャス。からかいがいがあるよね―。
……もっといじめてやろう……。
私は彼女の隣にスンッって立ちます。
「……何する気だ……?」
……えい!
そう言って座っている彼女の顎をクイッとした後、唇スレスレにチュー♪
プニンっとわたしの粘膜と彼女の頬がぶつかります。
「……何すんだてめえ!」
「もー……。昔だったら素直に喜んでたよ? 『……雪歩ねーちゃん』って」
「それ二人きりの時のやつ!」
ふふふ……♪ ゴージャスは昔っから変わんないねー。
顔が真っ赤なのは、お酒のせいかな?
それとも照れ?
「と、とにかく! たーくんに会わせてくれって話!」とゴージャス。
「私も私もー。今度四人で遊ぼうよー」とチビちゃん。
「……えー……。」
と、私は死ぬほど嫌そうな顔を浮かべます。たーくんを3等分みたいなことでしょ?
お姉ちゃんが独り占めしたい!
しかしゴージャス。私の琴線を刺激してきます。
「だって正直、すっごく可愛いんだもん。お前に似てさ。ちびもそう思わない?」
「うん。雪歩の女の子バージョンがたーくんって感じがする」
……嬉しいこと言ってくれますね。ゴージャスとちびちゃんは。
「……いいけど、でもたーくんに変なことしないでよ」
「……お前に言われたくねーよ……」とゴージャス。
「……むしろあんたが何してるのか心配で仕方がないよ……。」とチビちゃん。
まあそんな友達ならではの適当を言って、運ばれてきたデザートを平らげましょう。
◇お店の外◇
「じゃあねー。ゴージャス。チビちゃん」
「きいつけろよ」「また会おうねー」
うう……。なんだか楽しくなっちゃっていっぱいお酒飲んじゃった……。
今は九時か……。家に帰ってもいいけど、たーくん成分が足りてないよー。
一応おトイレでフロスと歯磨きは終わらせてるし。たーくんの元へと、清められた体で会いに行くことを神は許してくれるでしょう。
「タクシー捕まえよう」
アプリを開いて……。よし。
後たーくんに連絡しといて、準備完了!
◇#チビちゃん目線#◇
私は今、バーの中で泣きじゃくるゴージャスの頭をナデナデする係を担当している。
「ううう……。あいつは変わっちまったよ……。」とゴージャス。
「……また泣いてる……。ゴージャス……」と、私、ちびです。
「だってー……。昔だったら多分、夜遅くまで私を甘やかしてくれたはずだぞ……」
「……結局あんたも雪歩にバブリたいだけなのね……」
どうやらゴージャスは、雪歩の隣という特等席を弟くんに取られたことを残念がっているようだ。
幼馴染から続く二人の関係。時にゴージャスが雪歩に甘えて、時にゴージャスが雪歩に甘えて……。
そんな一方的な甘えてを繰り返していた二人の中に、高校生の時に加入し、なかよし三人組が誕生した。
(まあただの仲良し三人組じゃないけどね)
雪歩はラノベ作家。
ゴージャスは漫画の原作。
私は作画やらイラストレーターやらをやってる。
(元々趣味があったからこんなにも馬があったんだよねー)
「あああ! バブバブしたい! 雪歩の胸で!」
「……彼氏じゃ駄目なの?」
「彼氏にはついてないだろうが! あのでっかいおっぱいが!」
コホンと咳が一つ。
マスターからですね……。はい……。
「……すみませんでした」とゴージャス。
「……声が大きいんだよ……。ゴージャスは……」
なんかゴニョゴニョ言ってるゴージャス。
「……とにかく、私が言いたいのは、雪歩に甘えたいってこと……!」
「……私じゃ駄目?」
「……ちびでも良い……」
ゴージャスが私のペタンコな胸にぬるっと入ってきた。
「おっきい赤ちゃん……。」
「……うっさい。黙って頭撫でてろ……」
「はいはい……」
今頃、雪歩はたーくんの頭でも撫でてるのかな? 二人でいっつも何してんだろうね?
◇玄関前◇
こちらお姉ちゃん。
もう夜は遅いので、鍵をこっそり開けて……。
よし……。靴を脱いで……。抜き足差し足で入ると……。
ここだけ見ると泥棒さんみたいだね。
残念でした。正解はお姉ちゃんです♡プリプリ♡
2階に続く階段へも、音を立てずに上がります……。
……たーくんの部屋の前まで来ました―! わーい!
ここも慎重に……、ガチャリ。部屋は薄暗いけど、中は視認できるね。
よしよし……。ベッドを見ると……。
たーくんは毛布にくるまって眠ってる。
じゃあ、と……こっそり潜り込もうとしたその時……。
「ばあ!」
「うわあ!」
こ、腰が抜けた……。
「た、たーくん起きてたの!?」
「うん! えへへ……。ずーっとここで待ってたんだよー。おねーちゃんが帰ってくるのを」
「そうだったんだー……。すっごくびっくりしちゃった……」
とか言って、眠気眼のたーくん。
ずっと羊さんに抗いながら、お姉ちゃんが帰ってくるのを待ってたんだね―……。
せっかくだし酔った勢いで、たーくんに色々言っちゃえ!
その前に……。
「たーくん。一緒にお布団に入ろっか」
「うん!」
というわけで、小さなセミダブルベッドの中に、たーくんを寝かせた後、お姉ちゃんがゴロンと寝転んで……。毛布をかけると……。
二人だけの世界の完成。
「おねーちゃんお酒臭い……」
「……! ごめん!」
アルコールを含んだ呼気で、子どもに悪影響を与えることは無いのですが、まあ普通に嫌だよね……。
と思いきや
「おねーちゃんの匂いなら気にしないよ……」
なんて言ってお姉ちゃんの顔に顔を近づけてきます。
(これ、チューの距離感……!)
あるいは捕食の距離感。お姉ちゃんが獅子だったらたーくんは今頃食われているでしょう。
「たーくん……?」
「なぁに?」
「がおー! 食べちゃうぞー!」
キャッキャと喜ぶたーくん。
えーい! もう良いや!
耳をカプリ!
唇で優しく挟みます。
「おひひひ。たーふんの耳」
「おねーちゃん……。コリコリしないでよー……」
コリコリしちゃう!
たーくんがくすぐったそうに身を捩らせているところを全身で感じながら、私はたーくんをいじめます。
「おねーちゃん?」
「ん?」
「僕もそれやる!」
「……いいよ♪」
こんどはたーくんがこっち向いて、お姉ちゃんは後ろを向いて。
たーくんに後ろから抱きしめられる形になります。
(……これとっってもエッッッッッじゃない!?)
「おねーちゃん……? カプってしていい……?」
「……来て?」
カプリ♪
たーくんの小ちゃいお口が私の耳たぶを甘噛みします。
口周りの筋肉が未発達なので、時々歯や、舌がペロって、お姉ちゃんの耳を優しく刺激します。
鼓膜と舌が、つまり近い。少し粘膜が擦れる音が振動となって、お姉ちゃんの聴覚を揺らします。
「……ん」
(コレマズイ理性が消し飛ぶ)
しかも酔がすっごく回ってきあ……。これすごい……。
「……たーくぅん」
「ほうひはほ?」
「……お姉ちゃん……。もう降参だよぉ……」
たーくんが口を離します、そして嬉しそうに「参ったしたいの!?」と私に聞きます。
「……うん……。参ったする……」
「参った参ったー♪」
嬉しそうなたーくんの声。
姿も視界に入れたいので、私は振り向きます。
するとたーくんと目が合う形になります。
「たーくん……?」
「なぁに……?」
「今日ね。お友達に彼氏の自慢されたんだー」
「……僕、あんまりそれ良くわかってない」
彼氏という概念のことかな?
まあそうだよね。まあいいや、続けちゃえ。
「それでねー。私も悔しくなって、とある素敵な男の人の写真を見せたんだー」
「……誰それ」
ヤキモチ焼いてるのかな? たーくんが可愛い顔でムスーって私をちょっと睨んでる。全く怖くないのがちょっと面白い。
「それはね、たーくんとお姉ちゃんの写真!」
と私はポッケからスマホを取り出して、待受の写真を見せます。
たーくんは安心したのか嬉しそうな表情。お姉ちゃんの胸まで、顔を下げて埋もれた後、抱きしめられます。
……たーくん以上に素敵な男なんているわけ無いでしょ……。
私は更に酔った勢いを維持したまま、たーくんと更なる深淵に臨みます。
「……たーくん?」
「おねーちゃん?」
「付き合って♪ たーくん♪」
「……いいよー! 何に付き合うのか良くわかんないけど」
まあそうだよねー。まあいいんだよ。言質は取ったから。
私達は付き合ったと。
でもこれを悪用するんじゃなくて、一時の私の欲を満たす為の下準備。
「えーとね。付き合うとね、お互いの事を好きって言い合ったりするんだって」
「……そーなんだ」
「じゃあたーくん。お姉ちゃんのターンからね」
「……うん」
「たーくん……。大好き」
「……」
「……次はたーくんのターンだよ?」
「……」
返事は無いけど、お姉ちゃんを抱きしめる力は強い。
さては照れてるんだなー?
「たーくんずるーい。お姉ちゃんにだけ言わせて—」
「……だって恥ずかしいもん……」
「……ならお姉ちゃん。もう寝ちゃうもん」
吐息を立てて、眠るフリ。
さあ、隙だらけだぞ?
数分経った頃、可愛いハンターさんは狙いを澄まして……
「……大好き……、おねーちゃん」
と、お姉ちゃんの罠にかかりました。
仕返ししよう!
お姉ちゃんはたーくんを驚かせることにしました。
「ばあ!」
すると静かにびっくりするたーくん。
「……起きてたの?!」
「……うん。その言葉が聞きたくて」
「……馬鹿ぁ……」
たーくんがお姉ちゃんの胸元をぽよんっと叩きます。
全く痛くないよーだ。
「えへへ……。ねえ、たーくん……?」
「……なに?」
「大好き……」
すると観念したらしいたーくん。お姉ちゃんが聞きたかった言葉を聞かせてくれます。
「……僕も好き」
「……お姉ちゃんも、たーくんの事好き」
「……僕もおねーちゃんのことが好き……」
「……お姉ちゃんの方が好きだよー……」
「……僕の方が……もっともっと大好き……」
意味のない、報われないラリーを繰り返した後、私達はいつの間にか眠りに落ち、夢の中でも大好きを繋げました。




