第二話:たーくんの怖い話
◆お姉ちゃんが一人で住むタワマンの一室◆
こちらお姉ちゃん。
今は実家……ではなく、私のお家の一室。
大量のモニターの前で仕事中。
わたしは神の視点で、たーくんの現在地を把握しています。
学校にいたるところに仕掛けたカメラが、彼を捉えます。今は……。図書館の、ホラーコーナー? にいるのかな。
ちょっとそっちが気になりますね。一旦お仕事を中断しましょう。
たーくんが今、ホラーコーナーにある一冊を手にとり、開いて読んでいます。
うわー……。懐かしい。お化けのレストランだ!
あれ結構怖いんですよね。子供用にしては、絵がど迫力で。
「……」ペラリ
たーくんがペラとページを捲ります。
あれ? あんまり怖くないのかな?
私が小学生の時は、一人で読むのも怖かった記憶もあるのですけど。
まあ今ではホラー小説を一冊出すくらいには慣れましたけどね。
ひとしきり捲って、読み終わったたーくん。
するとひとりでに
『……これだ!』
なんて言ってます。
……これだ……?
どういうことでしょう。なにかひらめいたような感じがしますが。
経過観察を行います。
たーくんが自分のスマホにメモを記しています。
ズームイン(眼球)!
メモにはこう書かれていました。
『怖い話を書く』
……おやおや。もしやこれ、なろう作家あるある……。
(『いろんなジャンルに手を出す』では?!)
面白そうですね。
仕事を早く終わらせれば実家にて、たーくんを待ち構える事が出来そうです。
ではとっとと仕事終わらせましょう。
◆たーくん帰宅後
こちらお姉ちゃん。間に合ったのでたーくんが帰ってくるのを玄関で待ち構えています。
すると玄関がチャリ……と開き……。
我らの天使兼神兼王兼天使……。
たーくんの降臨です!!!
「ただいまー!」
「おかえり―! きゃあああたーくんだぁぁぁ!」
「ちょっと……。くすぐったいよぉ……」
お姉ちゃんは飽きもせず毎度たーくんに抱きつきます。
たーくんから分泌された汗を逃さずスリスリ。スリスリ。
こうすることにより、たーくんの魂の欠片を取り込むことが出来ます。
そしていずれ私の胎内にもう一人のたーくんが形成されていきます。
コレはもうほぼ受胎です。
私は産みたい。たーくんを。
でもよく考えて。お姉ちゃん……?
——もう一人たーくんがいたら身が持たない……。——
「そういえば、おねーちゃん。聞いてよ」
「どうしたの?」
「僕、今日はホラー小説を書いてみたいんだ」
うん、知ってる。
学校、いや、学区内全ての死角を網羅するように仕掛けられた、たーくん観察用監視カメラがたーくんを捉えているからね。
でもそんなことがバレたら、たーくんに嫌われるどころか、司法に裁かれる可能性があるので、私は……。
A.「うん、知ってる。何故なら監視カメラを学区中に仕掛けてるからね。たーくんを24時間視界に入れるために。」
▶B.「えー! なんでホラー??」
Bを選択しました。
「えー! なんでホラーを書きたいの?!?」
「えーっとね! コレ知ってる?」
するとたーくんの小さな手が鞄にスルスルと吸い込まれていきます。
そして見せてくれたのは『お化けのレストラン』。
「……懐かしいねー!」
勿論知っていますけど! まあここは穏便に。
「知ってるんだねーおねーちゃんも」
「うん、私、結構怖いものが苦手だったんだけど、たーくんはこういうの得意なの?」
「うん! だって僕は男の子だもん!」
「そっかー。お姉ちゃんは、怖いの苦手なんだよねー……。」
はいここ。撒き餌です。いつもなら、お姉ちゃんは率先してお手伝いをするわけですが……。
「私、怖い話はちょっと駄目かも……」
Q.次に、優しいたーくんが取る行動は?
「仕方ないよ! おねーちゃんは女の子だもん!」
「……! たーくん……!」
「いざとなったら僕が守ってあげる!」
A.コレが答え。
でもここで手を緩めるお姉ちゃんはお姉ちゃんじゃありません。
もう一つ。飛車を前進させましょう。
「でもお姉ちゃん……こわいからさぁ」
「うん」
「後 ろ か ら 抱 き つ い て 良いなら手伝ってあげるよ」
「うん! いいよ!」
はい。司法はヌルい。
不同意性交等罪?
こうやって同意を得れば良いんですよ。
同意を得ればお姉ちゃんはたーくんの魂の欠片を合法的に摂取できます。
「たーくん、じゃあいこっか。たーくんのお部屋に」
「うん!」
◇たーくんのお部屋。◇
さあ。ベッドの上で。座って。
後ろからたーくんを抱きしめつつ、見守りましょう。
とここでたーくんの今日の方針。それがこちら。
「おねーちゃん。僕、今日はホラーの短いのを書くから」
とのこと。
短編のことですね。まあ1日で書くことが出来る量なんてそんなものでしょう。
(たーくんが書くホラーかー。どんなんだろう)
最近の小学生って結構エグい漫画とか摂取してるし、意外と怖いもの書いてきそうですよね。
最近だったらほら。『破滅の刃』とか。『チェーンソーウーマン』とか。
私、一個どでかい疑問があるんですよね。
もうコレばっかりは意味がわからないんですけど、人間の四肢がちぎれたりするのはいいのに、なんで女性の乳首って未だにそんな規制が厳しいのでしょうか。
チェンソーウーマンなんて、血がドッピュドッピュ出てる割に、乳首は一回も出ません。
結構狂ってませんか? この世界。
乳首って四肢切断より駄目なんですか?
「おねーちゃん! 書けたよ! 一番盛り上がるシーン!」
おっと。女性の乳首問題について考えている間に、たーくんがホラーシーンを取り敢えず書いてみたそうです。
「早いね―! じゃあちょっとお姉ちゃんに見せて?」
「はーい」
さあ。一体どんな仕上がりになっているんでしょうか……?
『ガオー!』
『怖い! ぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!』
『がおー!』
『ぎゃああああああああああ!』
………………………………
——1ミリも怖くない……!!——
ホラーって難しいですよね。何故怖く感じないのか。言語化が難しいのですが……。
まずテンポが良すぎます。
完全にコントのテンポです。こんなテンポで、しかも「ぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ」という有声音が入ったホラー小説。多分無いんじゃないでしょうか?
あと『ガオー!』ってなんですか? 虎? 獅子? 虎か獅子の霊? 草原に出る獅子の幽霊?
そうなるとシチュエーションも怖くありません。
だって日本家屋の話ではないですよね?
恐らくアリゾナ州とかの開けた大地のはず。
それなら普通に野生の獅子とかクロコダイルに出くわした方が怖いし……。
私は頭を抱えました。
これどうしよう……。手直しの方法が分からない……。
「お、おねーちゃん……?」
「……なぁに? たーくん」
「……怖くないの……?」
なんで怖がらせる側の目がうるうるなんでしょうか。可愛すぎて怖がる余地がありません。
(……あれ?! 待って!)
落ち着いてください。皆さん。よく考えて……?
これ、実はめっちゃチャンスなのでは……!?
(死ぬほど怖がれば、たーくんが私の事を慰めてくれるのでは……?!)
そうですね。
例えば私がビビり散らかして泣きまくります。
「……うええん怖いよー……!」とか言って。
「……意地悪しないでよー……!」とか言って。
勿論涙もぶりんぶりん流します。
——そうするとたーくんが私の頭をナデナデしてくれるのでは!?——
……いやいや! まだあります!
(これさらなるチャンスが広がってませんか?!)
それこそ草原に住む獅子のような無限のチャンスが有ります……!
(これ、たーくん、私と一緒に夜も眠ってくれるのでは……?!)
さらにビビり散らかして「うう……。お姉ちゃん怖いからもう一人で眠れない……」とか良い年して泣きながら言います。
するとたーくんが「……一緒に寝る……?」と提案してくれるかも……?!
このセミダブルのベッドの中、たーくんと二人で?!
え?! 狭すぎませんか?!
身を寄せ合うしか無いじゃないですか……!!!!
……てゆーかあれ? まだ可能性が……。
あ!
(……ちょっと待った……!?)
これさらなる確変がありますが?!
え?!
ボーナスゾーンに入りませんか……?!
(これたーくんとお風呂に入る事だって出来るかも……!?)
私が「ふえええええん……シャンプーしてるとね……? 後ろに人が立ってる気がして目を瞑れないよー……」とか言って、たーくんの脳みそをハッキングします。
すると……? 優しいたーくんなら……?
なんて言うと思いますか……?!
『なら僕がおねーちゃんの後ろに立ってあげる!』
「たーくんお願い私の後ろに立って!!!!」
「うわぁ! びっくりした!」
「ご、ごめん……」
いかんいかん。妄想が捗りすぎました。
いやまあ、流石に私にも理性があるのでここらへんにしときますけどね?
私にできる範囲。それは司法の網の内側だけ。
その範囲内で、お姉ちゃんという立場を行使しして、たーくんを愛でるだけ。
だって、お姉ちゃんがもし、たーくんとお風呂に一緒に入ってしまったら……?
『おねーちゃん。頭洗ってあげるね!』
『はーい。じゃあ目を瞑るねー』
数分後。
『じゃあたーくん。今度は私が背中流してあげるね』
『うん』
ゴシゴシゴシゴシゴシゴシゴシゴシ
『じ、じゃあ、あの……。たーくん……』
『うん? なあに?』
『……ま、ま、ま……』
——前側を洗ってあげるね……!?——
「南無三出ていけ私の煩悩!」
「うわぁ! びっくりした!」
「ご、ごめん……。たーくん」
そう。お風呂に入るまでは良いでしょう。お風呂に入ったら最後。密室痴漢事件が発生する可能性があります。
私だってまだ23歳。捕まりたくありません。(※ただし同じムショにたーくん道連れに出来るならワンチャンあり(※それも一緒の牢屋で何もかも一緒ならあり)(※それでめっちゃ安全が保証されてて、スマホがあるならあり)(※2日だけならあり))
はあ……。でもさ……。
なんだか私の目がうるうるしてきました。
だって考えると泣けてくるんですもん。
どれだけ愛でても、私はたーくんと結婚できない。
たーくんは恐らく可愛い彼女をいずれ見つけて、そして可愛いお嫁さんを見つけるのでしょう。
……それでもいいのです……。それでもいいのですが……。
「ふえええええん……」
「……おねーちゃん?! どうしたの?! 怖すぎた?!」
「……うん。……未来が怖い。いずれ来る未来が」
「……これ以上の物価高とか?」
(違う)
いや怖いは怖いけど。そんなんで泣く事って逆にないような。
取り敢えず私は「物価高は関係ないよー」って首を振ります。
……年甲斐もなく泣いてしまいました……。しかも弟が結婚するという未確定の理由で……。
でも涙が止まりません……。私が下を向いて延々とないていると……。
たーくんが立ち上がります。そしてくるりと私の方を向きます。
その後フッ とちいさな、彼の両手が私を抱きしめてくれました。
そしてそのまま私の頭を撫でて……。
「怖くないよー……。怖くないからねー……。僕がいるからねー……」
「……うん」
めっちゃ尊い……。めっちゃ尊いけど……。
(私これ獅子の幽霊にビビり散らかして泣いたクソビビり女って事にならん?)
まあなってるんでしょうね。
まあいいや……。はあー、幸せホルモンがぼりんぼりんに分泌されます。
たーくんが私の頭を撫で終えたあと、今度は背中までさすってくれます。
なでなでされて泣き止んだ私も、泣く演技を一応続けます。
「うええええええん(嘘)」
「……怖くないよー……。怖くないからねー。僕がいるからねー」
「うう……。ぐす……。ありがとう(嘘泣き)」
いや私一応ホラー小説も出してますからね?
獅子の幽霊にビビってるような女がどうやってホラー小説を書けるとお思い?
私が書いたホラーはスプラッタです。獅子ってゆーか四肢がちぎれます。もうぶりっぶりに。血みどろに。
まあそんなことはどうでもいいやと私は取り敢えず泣き続けます。
するとたーくんが……
「……お姉ちゃん。一人でトイレ行ける……?」
はいチャンス。このまま睡眠まで話題を誘導しましょう。
「……無理かも。……夜も怖い」
「……なら今日、一緒に寝る?」
「うんうんうんうん!」
やった! 泣いた甲斐があった!
「ならたーくん! 抱きしめて寝てもいい?!」
「……いいけど変な事しない……?」
「しない!(したい!)」
◇夜◇
私達。はい。合法的に毛布にくるまって、抱きしめ合っています。
はー。背がちいこい。ちょうどいい位置にすっぽり埋まります。
「おねーちゃん……?」
「なぁに?」
「……僕。ホラー小説、書かないほうが良いのかな……?」
「……どうしたの?」
「……だって、おねーちゃんを泣かせちゃったし」
はああああああああああああああああああん!
優しすぎます。こんなに可愛くて優しい子ってこの世にいますか?
いません。ありえません。
いるって言うならあなたの子と戦わせてみますか? 優しさバトルじゃないですよ?
しかもたーくんとじゃないですよ?
お姉ちゃんvsその子です。かかってこい。私が相手になってやる。この拳で。
まあそんな事は置いといて。
本当は、また泣いたふりでもして、よしよししてもらいたいところですが……。
「たーくん?」
「……なあに?」
「たーくんは、ホラー小説を通じてお姉ちゃんを怖がらせたんだよ?」
「……うん」
「なら、たーくんには才能があるってこと。」
「……!」
「だからやめちゃ駄目。それに色々やってたら、いつかその色んなが繋がって、思いもよらないすごい作品が出来るんだから」
「……うん。分かった」
するとたーくんが私をギュッと抱きしめます。
頼りない、小ちゃい身体だね。
私ができることは只々たー君が、楽しく小説が書けるような言葉を投げかけるだけ。
無粋な言葉なんていりません。
ねー? たーくん?
「……おやすみ。たーくん」
「おやすみ……。おねーちゃん」
◇
可愛いたーくんの吐息……。
お顔は見えません。なぜならわたしの胸に埋もれているから。
「おねーちゃん……」
「……?!」
「……大好き」
……寝言ですね。寝言すらも愛おしい。
私はたーくんをぎゅっと抱きしめます。
彼の顔が更にわたしの胸に沈みます。
私は彼の髪の毛を撫でます。
頬をプニプニ起こさないように突きます。
「……いつまでも、こんな関係が続くと良いなぁ……」
でもそれは叶いません。
いずれ、絶対に卒業しなきゃいけない私達の関係。
でも良いんです。今は好き放題やって。
今ならまだ、取り返しがつく時期なのですから。
私はたーくんの耳にちょっと口を近づけます。
本当は耳をカプリと食べたいけれど、そういうことじゃなくて。
私には、たーくんに届けたい言葉があって。
その言葉は、『だ』から始まり、勿論『ん』で終わる。
「大好きだよ……。たーくん」
そう言って、私もたーくんと一緒の夢が見れますようにと神様にお願いしながら、スヤスヤと眠りにつきました。




