第一話:たーくんとお姉ちゃん
こちらお姉ちゃん。
ベッドの上。うつ伏せになって、並んで。
可愛い弟『たーくん』の執筆を見守っています。
「ねえねえ、おねーちゃん」
「なあに? たーくん」
「このさ、僕の書いたさ、このシーンさ、どう思う?」
私は、彼のスマホで書いたシーンを覗き見るという口実のもとに……
「見えづらいよー。もうちょっとこっち来てくれる?」
「うん。分かった」
たーくんの頬に、私の頬を擦り寄せるようにして、彼の小説を添削します。
「ち、ちょっとおねーちゃん!」
「……なぁに? たーくん」スリスリ
「……近すぎるよ……」
顔が真っ赤っ赤なたーくん。
でもさー?
ここで、私が「わかった。じゃあ離れるね」って言ったら怒るんだもんね?
たーくんのことは何でも知ってるんだから。
「えい」と言いつつ、私は彼の頬をツンツンしちゃいます。
「や、やめてよ! おねーちゃん……」
「……本当に止めていいの?」
………………………………
「止めちゃ駄目……」
はあ……。
——可愛すぎる!——
『止めちゃ駄目!?』ですって!?
何を!? ツンツンを!? ツンツンを止めちゃ駄目ってことですか!?
ならもっと色んなところをツンツンしても司法に裁かれないってことですか!?
つまり何処まで!? A!? もしや進んだBまで!? 果てのCは?!
「はあはあはあはあ……」
「どうしたの!? おねーちゃん!?」
「なんでも無い! なんでもないから! たーくんは執筆に集中して!」
「う、うん。わかった……」
そう言って私はたーくんのいろいろをツンツンしました。
ほっぺとか、ほっぺとか、ほっぺとか?
本当にほっぺだけなのかな? なんて……。
……ご想像におまかせします……。
◆
彼は今どきの子らしく、スマートフォンを用いて執筆を行っています。
はあ……。
スマートフォンとは都合がいい。
肩を寄せ合って見守るしか無い。
私は、たーくんの監視を口実に、彼と合法的にさらに肩を寄せ合います。
しかし最近の若者……。
——フリック入力が早い……。——
私はキーボード派です。それも分割キーボード。
わざわざ50,000円もするキーボードを買いましたが……。
皆様はどうでしょうか?
お姉ちゃんと同じキーボードを使っている人はいますか?
私は、ブラインドタッチであれば、たーくんのスピードを凌駕できるのですが。
フリック入力であれば、勝ち目はありません。
「おねーちゃん。僕の爆速フリック入力を見てみて」
「……すごいね! たーくん! 私の百倍早い!」
でも何でか不満そう。私は褒めるのが下手なのかな?なんて思っていると……。
「……。もっと褒めてよー……!」
はああああああああああああああああああああああああああああああん!!!!!!!!!!
「母乳が出ちゃう!」
「なんて!? おねーちゃん!?」
「なんでも無い! 気にしないで!」
「……? うん。わかった……」
まあ勿論出ませんが。生理学的に。
でも気持ち的には出そうです。だって赤ちゃんみたいに可愛い……。
たーくんは、喋ることの出来る赤ちゃんって感じです。
あまりにも純粋すぎます。そう思いませんか?
まあそれよりもっと重要なのは……
「たーくん……。よしよし」
「……えへへ……♪」
合法的に頭を撫でる許可を得たってことです!!!
しかし、うつ伏せだと難しい。
「たーくん?」
「なあに? おねーちゃん」
「私があぐらをカクから、そこにすっぽり挟まってくれる?」
「うん。わかった」
分かりますか……? 私の作戦が……?
つまり、私は合法的に、たーくんを後ろから抱きしめたまま、頭をなでなでしながら、彼の執筆を見守ることが出来るってことです。
「おねーちゃん?」
「なあに?」
「……あたってるけど……?」
当ててます。むにゅ~って。
「嫌なの……?」
「……いやとかじゃないから!」
「……」
母乳が出ちゃう…………!
◆
「ねえねえ。おねーちゃん」
「どうしたの? たーくん」
「僕の必殺技を見てほしいんだけど……」
モジモジするたーくんは極上の蜜そのものです。
赤面する、女の子のように可愛い、男の子。
匂いは、雄っていうよりかは、蜜?
可愛い男の子って、匂いまで可愛いんだねー……。
「ふふふ……」
「……何がそんなに可笑しいの?」
「……別に?」
とかいいつつ、お姉ちゃんはたーくんの髪をサラサラと撫でます。
はあ……。
サラサラの黒髪からは男性ホルモンを感じさせません。
でも何故か、男の子特有の可愛さは維持しています。ほっぺだってぷにぷにだし。
目はクリっとしています。
これの何が良いって。
(ちょっとお姉ちゃんの面影を感じるんだよねえ……)
血の繋がりを再認識した所で。
彼の必殺技を見てみましょう。
『喰らえ! 僕の必殺!』
——暗誦の大罪……!——
「たーくん可愛すぎ!!!!!!!!!!!!!!!」
「な!? 何故!?」
「だって~……。可愛いんだもん……」
「止めてよおねーちゃん……。大きいものを押し付けるの……」
「……大きい……。何?」
「……なんでも無い!」
私は彼を万力の力で、されどふんわり抱きしめます。
私の胸の間に、彼がキュポンッ! と彼の後頭部が収まります。
はあ……。いつまでもこうしていたい。
「おねーちゃん……。離れてよ……」
「……。でもたーくん?」
「……何?」
「……本当に離れてほしいって思ってる?」
私はたーくんを抱きしめたまま、彼の耳元で息をいっっっパイに含んだ声で囁きます。
すると彼はいっつも同じ答え。
「……思ってないけど…………」
……。
理性を保つため。
可愛いポイントを整理しましょう。
1.絶対最近知ったワードを使用する可愛いたーくん。
(絶対『暗誦』の意味わかってない……!)
なんとなくカッコいいから使ったんだよねー? たーくん?
これねー。男の子あるあるだよねー。女の子にはあんまりないかも。
2.暗誦
(これルビが長すぎて文字が潰れちゃうってことに気づいてない……!)
それにダークネスって単語を使っちゃうたーくん。無垢な証明なのかもね。
しかもダークネスでブラッドを挟んでるし。
はあ……。無意味なところも可愛い……。
3.顔がいい
(いや本末転倒なのはわかってるんだけど)
たーくんなら何しても良い。ダークネスでもブラッドでもダークネスサンドイッチでも。
4.たまに来るツンデレ
しかもそのツンがマイルドであり、伏線である。回収までもとっても早い。
(お姉ちゃんはどんなたーくんも大好き……!)
「たーくん!」
「なーに?」
「お姉ちゃんね……!」
——たーくんのことずぅ-っと応援し続けるからね!——
◆
後日。
2日後のpvを見た我が天使、たーくん。
「……おねーちゃん……?」
「……どうしたの……?」
「……PV1しかつかなかったよぉぉぉぉ……」
「……」
——潤目のたーくん! 頂きました……!
(しかもそのpv1。私だし)
まあハッキリ言って、たーくんはまだ、小説家としてはとっても未熟。
自分の書きたいことを取り敢えず書いてるだけ、とも言える。
(本当は、悪魔に魂を売らないといけなかったりするんだけどね―)
書きたいものが、売れるとは限らない。
私は徹底的に市場分析をした。己の願望を押し殺して。
「たーくん?」
「……うん」
「お姉ちゃんの胸の中においで……?」
たーくんが「ふえええええええん!」と、私の胸の中で泣き出します。
彼の雛鳥のような鳴き声が、私の脂肪を揺らして心臓を貫きます。
今は頼りないたーくん。実力もスキルも伴ってないのかも知れない。
でもね……?
お姉ちゃんは、たーくんのいいところをいっぱい知ってるんだからね……?
私はたーくんをギュッと抱きしめます。
「たーくん……?」
「……おねーちゃん……。苦しいよ」
まあムギュッとされてますし。
まあそんな事はどうでもいいんです。
「たーくん。一緒に書籍化目指して頑張ろうね」
「……ありがとう……。お姉ちゃん」
再度彼が、私の大きな胸に顔を埋めます。
それとともに私は自分の決意をさらに固めました。
(絶対にたーくんを、書籍化作家にしてやります……!)
それも、ちゃんと自分の好きなことを書いて、食べていける。
お姉ちゃんが、なれなかったタイプの作家さんにね。
「おねーちゃん……。苦しいって」
「知ったことか♪」




