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83話 鎌倉武士

私はこの邸宅のお風呂に入ることになった。だがお風呂こそ、一番危険な時なのだ。


鎌倉時代や室町、戦国時代など蒸し風呂は襲撃を受ける危険の高い行為だったのだ。


お風呂に入るときはシールドを外す。でなきゃお湯が身体の汚れを取ってくれない。武器だって外すから丸腰。だが、奇襲リスクを減らす取り組みはある。


それは――


「ポール! 湯船で泳がないの!」


杖を片手にポールを捕まえようとするアリス。


「えー、いつもしてるのに?」


ポールは剣をおもちゃのように振り回す。


「まだやってたの?」


錫杖を壁にかけてクララは頭を洗っている。


「通りでいつもバチャバチャ聞こえると思ったら……」


ポール、アリス、クララが私と一緒にお風呂に入っている。


残りのポーリーヌとエーヴは外で武器を持って待機。


私は静かにボブヘアーを洗っている。


クララは綺麗なロング。憧れはあるけど、洗うのは面倒くさそう。だから私はボブでキープしている。


しかし物騒だ。ここにいる全員が武器を持っている。


「コトネ、お胸大きいのね」


クララは興味津々と私に寄ってくる。


「ッ!?」


私を胸をがっしり揉んできた。ちなみに、クララは俗に言う貧乳。


「ちょっと――」


「あー! クララだけズルい! ポールも触りたい!」


「ちょっと! 嫌がってるでしょ!」


なんなんこいつら。緊張感なさ過ぎ。




入浴後、夕食を食べてそろそろ寝る。


私は部屋に戻り、寝ているエマさんを横目にネットサーフィンしていた。一応、気を付けて。


なんでも、地球の方で中一女子が剣道全国大会優勝した高三男子に圧勝したって記事がある。


その子はあまりの強さに幼き剣聖と呼ばれているらしい。


午後十一時くらいにエマさんは起きた。温め直したシチューを食べて入れ替わる形で寝るつもり。


「そろそろ行くんですか?」


ちょうど日付がわかったくらいに身支度を始めた。


「まあね。そうだ、これ」


エマさんは手のひらサイズのスノードームのようなものを取り出した。


「これは?」


「緊急脱出用裂け目。これを割れば上空にワープできる。一つしかないからここぞって時に使って」


「あぁ、ありがとうございます……」


私ってこういうオンリーワンなものってずっと手に持って余らすこと多いんだよなぁ。エリクサー症候群ってやつ。


「あとさ、」


「……?」


「彼のこと、好き?」


エマさんは真剣な顔で口にした。


「え……、いや、別に。てか怖い」


「そっか。なら良かった」


それはどういう意図があって……。


「あっでも、優しいとは思う」


「だったら本質が見えてない。あれは人を信用できなくなった人間」


取ってつけたような回答にエマさんはフフッと笑って答えた。


「ちょっと、独り言」


「……?」


エマさんは窓に寄って真夜中の景色を一望。


「私の夫って彼の先生。イレダ アスガ」


!? ヒンベルは師匠がいると言ってたが、エマさんの夫だったとは。


「みんなに『アスガ先生』って慕われて、私にはアスガって名前は重かった」


通りで『エマさん』と名前で呼ばれているのか。


「彼は夫の弟子の中で一番手がかかった」


「……」


「でも、憎めないの。思うところがあって私と夫、彼とその娘でしばらく暮らした」


「え! 娘いたの!? 私と見た目の歳変わらないのに?」


「厳密に言うと養子。元々彼の子じゃない」


エマさんは言いづらそうに補足した。


「あっ……そう……」


ちょっと複雑なんだろうな。しかし、あのヒンベルが子供持ちとは思わなかった。一体どういう風の吹き回しなのか。


「私たちは新天地でそれなりに楽しく生きてきた」


エマさんは私を気に留めず話続ける。


「でも、いつも脅かそうとしたのが女だった」


――――☆


遠い記憶、かれこれ三千年前くらいのことだった気がする。精神性摩耗症候群はゆっくりと私を蝕んでいる。


新天地の恒星系外縁部にある居住ステーションで起きたこと。


「エマ、近づかないほうがいいよ。その子も遠ざけなさい」


物が散乱した部屋の中、私にそう指図したのは私の夫、イレダ。彼の師匠。片膝をつき、白衣が床についている。


見た目が三十代にしては艶のある黒髪に青い瞳。純血のベレウゼ人。


言われた通り、側の幼子に離れるよう合図。


夫を挟んだ先にある壁の角には人がいる。涙を堪えきれていない一人の新人研究員。


夫は彼の肩に触れ、落ち着かせると同時に、もう片方の手で私たちを制止させる。


彼は震えた手で拳銃を握っているが、肩も震えて撃つことはできない。ただ虚勢を張っているだけ。


「PTSDの類だろう。医務室に連れて行く。ワープの前に男性職員だけにして、受け入れ体勢を整えるよう言ってくれ」


緊迫した声で私に告げた。


「……、……」


彼は言葉にならない細々とした声を発し、自分を抑制しようにもできない状況にいる。


「大丈夫、安心しなさい。女は近づけない。あれは終わったことだよ」


言い聞かせるように何度も、彼を安堵させようと試みる。


彼の涙が溢れる。


「君は悪くない。私らは信じてる」


「……、……なんで」


「もう考えるな。深呼吸だよ」


彼は嗚咽が混じった深呼吸を行った。


彼がそうなった節はある。


どいつもこいつも、彼に詰め寄る女は彼を殺そうと画策した。どれも常套手段を使って寄ってきた。


寮のお隣だったから、生まれた時から見知った人だったから、研究室の仲間だったから、剣術の同じ弟子だったから……。


そう言って親しくなった後、彼に牙を向いた。


腹にナイフを刺そうと、頭を撃ち抜こうと、シールドを破って剣で切ろうと。


その度、彼の心は深刻な傷を負った。それは修復できないほどに、ツギハギで埋め合わせするように何度も修復した。


でも、夫は総統の『創生の大追放』で消された。


そして彼は焦燥感に駆られ、壊れかけた私たちの楽園を必死で維持しようと猛進した。


体裁を保ち、『見た目は』好印象であることを続けた。夫のように柔らかく接し、夫のように気さくにやり続けた。


彼は私の夫を真似て、絶対的なシールドを手に入れた。


いつしか、私の地位よりも上に行って、ついに総統に上り詰めた。


でも、本質は心を閉ざしている。巨大な茨で覆い、本当の自身を隠している。それを見破れなきゃ、彼を知ることはできない。


人を信じない。それが彼の一つの防御陣。


その時の彼の顔は、あまり幸せそうじゃなかった。


『なんで』、あんなことされたのに『彼女』を……。

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