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79話 記憶にございません・リターンズ

私はエマさんにされるがまま、大使館にあるバンでマドレーヌ領へ向かうことになった。なぜマドレーヌ領かと言うと、私を一番匿ってくれそうなところがそこだから。


大使館のみんなはしばらく業務は中止らしい。


ワープは使えない。使えば足跡がつく。


「私……本当に心当りがないんですけど……」


「本当に?」


念を押すように問われた。


「はい」


「だとしたら本当に無自覚なんだね」


エマさんは街道をバンで走りながら言葉を返す。こちらを向こうとはしない。


「……?」


「豊川さんってさ、総統見つけたでしょ?」


「はい……?」


私はあの時、なぜかヒンベルが見えた。他の人には見えないヒンベルが。


「それにベンシルリッキ事変で総統への暴行と卯月の停止、それがあなたの罪状よ」


「!? 待ってください! 暴行はまだしも卯月はやってないですって!!」


ていうか、あの時はなぜかヒンベルがシールドを外していた。猫騙しとつもりがマジ殴りになった。


「でも、事情聴取と現場検証からあなた以外に犯人がいないのよ」


「私は……」


どうしても私の身の潔白を証明できない。


「いい? ベセトア……って言うよりファータロスの上層部自体臆病者の集まりなの」


ファータロスとはベセトアの前身。


「……それはどういう?」


「特定の材質でない限り、何一つ通さないプライマルシールドをまとって、常に安全圏で安住するのが彼らの性格」


ヒンベルも同じだ。


「光学迷彩を見破ったり、シールドがあるのに彼を殴って悶えさせたりしたあなたは、安全圏を唯一崩せる危険極まりない存在なのよ」


卯月の墜落より自身の保全が先と言うことは、エマさんの言う通りまさに安全圏にいたいという性格なのだろう。


「……」


「顕著な例だと、星間どころか次元間を越える技術を持ってるくせに、こんな古代のチンパンジー相手にご丁寧に国交結ぶなんて、おかしな話」


最盛期ベレウゼ文明の科学力は計り知れない。エマさんのような人にとって、地球から見て中世文明っていうのは古代同然。ましてや私にとっての現代地球でさえ、彼女にとっての中世にあたるかも怪しい。


「……身分不相応ってこと?」


「そういうこと。星間文明の人でやっと同じ人間相手として見るレベルなのに。でも、彼らと邂逅する前に人員がほしいだの、無人艦量産したいだのでこんなことやってんのよ」


つまるところベセトアの上層部は過剰戦力をもって星間文明に殴り込むということだ。実際に戦わずとも、星間文明相手に手を出されないほどの力を見せつけ、そうして彼らと上から目線の交流を結ぶってこと。


「だから、どっかの高官とか議員があなたを始末するよ近衛兵に言ったんでしょうね」


「……」


言葉が出ない。一言で言うなら理不尽だ。でも、それ以降に続く言葉はない。


「ねえ、あなたはどうしたい?」


「ッ……、私は疑いを晴らしたい……です」


「そう、でも無理だと思う。多分犯人は覆らない」


「ッ! じゃあ見殺しにするってんですか……!」


「そうとは言ってない。逆にその力を示すのよ」


私が取り乱そうとも、エマさんは冷静な判断を下す。


「ファイル送ったから見て」


言われた通り、エマさんが送られたファイルを開く。何かの資料。


「卯月のエンジンのスペクトル解析。あなたが卯月に乗っていた時だけ、いつも通りの周波数スペクトルが出た」


「……つまり?」


専門用語ばっかでまるでわからない。


「あなたが卯月に乗っていれば、いつもの調子を取り戻すってこと。この時間軸に来てどの航宙艦も不調を来してるの」


「じゃあ、それを証明できれば……」


「始末するより、活用する利が大きくなる」


☆


氷のつぶてや火山灰が乱れ降りしきる天候が窓に映し出される。近衛兵はベレウゼの伝統的な建築意匠の部屋で会議を行なっていた。


石造りの暖炉に、暖かいカーペットがローテーブルやソファーの下に敷かれ、外の景色とは裏腹に暖か味のある内装。


その空間に四人の容姿の整った近衛兵の制服姿の男達がいる。ある人はソファーに腰を下ろし、ある人は外の景色を眺め、ある人はテーブルの前で資料を眺め、最後の一人は愛用の黒英刀を手入れ。


「フルガ、イーダン珍しくしくじったようだな」


外を眺めている男が言った。


「申し訳ありません、カカール隊長」


「どうもミセスアスガが匿ってるようです」


続いて腰を下ろしているフルガ、資料を探るイーダンが言葉を発した。


「獲物に気づかれると一気に厄介になる……まあいい。最終的に事故死に見せればいいだけのこと」


カカールは自身の髪を指でいじり、整えている。


「しかし、どうするんですか? 奴ら、勢力を広げようとしてますよ。大事にされたら近衛兵の沽券に関わる」


剣の手入れの手を止め、カカールに口を出す。


「その通りだ、メリド。我らは早急にかつ、効果的に始末する計画を立てなければならない」


「カカール隊長、今の奴らの動向です。ご確認を」


イーダンがカカールに整理した資料を送信した。


「ふむ、なら一つ山を張ろう」


カカールは作戦を共有した。


「獲物の脅威はベセトアに留まらず、我らの崇高な目的にも及ぶ。それは大法官も黙っていらっしゃらない。ベレウゼ復活の為、脅威を排除し、総統の助力の下に再建するのが我ら近衛兵の使命。皇太子様も一刻も早く再建されたベレウゼを目に焼き付けたいだろう」


そうして間を開けてから窓を手で刺して言う。


「このゲラーべこそが、再建の礎になる」


ゲラーべはベセトアが発見したスノーボールアース状態の惑星。ここには衛星、磁場やハピタブルゾーンなどあらゆる生命が暮らすに必要な条件が揃っている。


ここに急速な温暖化をもたらせば、シールドを纏わずとも空気を吸える日は遠くはない。


現在、ベセトアはゲラーべの内核を再加熱し、プレート運動を再始動させている。


「征くぞ、メリド!」


「ハッ」

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