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78話 近衛兵=ゴキブリ

冒険者解体撤廃により、冒険者の彼らは活気に満ち溢れた。


どうも魔王君臨時代より仕事は減ったが、全然現役の職業と言っていい。安城が仕事仲間からかなり称賛されているらしい。本当は私が八割型やったんだけど。


まあいいさ。外交官は言うなれば組織の手駒であり、称賛ってのは上が受ける。逆に何かしでかしても上が文句言われる。


だが、ベンシルリッキ事変はかなりの禍根を残した。ベンシルリッキにも、ベセトアにも。


私は特別作戦司令官の補佐として処理する責務があったから夏休み返上で業務にあたった。


目眩がするほど忙しかった。だから戦争は二度と御免。一応休暇は補填されるらしい。年末辺りに。


この二週間辺りはずっとデヴィースとリバタールを行き来。そしてようやく収束の目処が立った。


「――はぁ〜〜ッ……」


「豊川さんすごいため息だね」


「朝から晩までベンシルリッキ事変の後処理でギッシリ……」


「うわ〜大変そ〜……私も無くした書類探すの大変なんだよ〜」


ラーゼさんは相変わらずのようだ。


さて、まだやることはある。次は主要街道の宿場町の再建。なんでも、そこもジュストン中佐にやられたらしい。


突然、目が眩んだ気がする。タイルの光の当たり方が変わったような――


――ガッシャーン!!


シャンデリアが落下する音に続いて、ガラスが割れる音が大使館中にこだました。


私は間一髪で回避。だが、


「ラーゼさん!?」


「うぅ……!」


顔をしかめて右足を押さえ、血が黒いタイルに滴っている。


「どうして血が……?」


「ねえ……プラクティアかけて……」


「プラクティア……?」


インベントリを調べると、プラクティアなるものがあった。水色の液体が入った円筒容器。言われるがまま右足へ重点的にかける。


「――ッ! ふぅ……、ありがと。残りくれる?」


ちょっと沁みたようだ。


「ええ? はい」


プラクティアの容器を手渡しすると、すぐに飲み干した。まじか、察するにそれ傷薬みたいなやつなのに飲み上がった。


だが、不思議なことが起きた。


引き裂かれた黒タイツの中にある足の傷がみるみるうちに塞がった。足を引き摺っててまだ痛そう。


「治った……?」


「簡単に言えば万能薬だよ。まあ、年取ると効力薄くなるんだけど」


まるでさっき怪我したのをなかったことのように笑い出した。お気楽だなぁ……。


落ちてきたシャンデリアを見ると、銀色の金属で作られていた。確か、普段金色なのに。


「どうしたの!」


物音を聞きつけて慌ててエマさんが姿を現した。


「ラーゼさんが怪我を……」


「……、応急処置は大丈夫みたい。シャンデリアが落ちたの?」


「そうみたいだけど――」


「!? 伏せて!!」


エマさんは私たちの頭を無理やりタイルに押しつけた。


――――!!!!


突然、大使館が地下から爆ぜた。確か、弾薬庫があった場所からだ。


「グッ――!?」


破片が足に当たった。しかも、釘型手裏剣のようなものが足を突き抜けた。多分、『仕込まれていた』。


その衝撃で大使館は崩壊。正面玄関はそのままに、本館後方が崩落。


「ッ……! いったい何が……!?」


「見て! あそこ!」


エマさんが辛うじて崩落しなかった大使館の三階部分の壁を差した。


「近衛兵……!」


エマさんは憎悪の籠もったような声を上げ、彼らを睨んだ。


「えっ!? どこどこ!?」


ラーゼさんはわからない様子。


エマさんが指差す近衛兵は、カメレオンのように壁に張り付いている。しかも、白い壁とは真逆の全身真っ黒の服装。


ベセトア陸軍の戦闘服とは似て非なるもの。銀色の胸当てや肩パッドもなければ、完全に機動力全振りの軽装。それにおいて特殊部隊のような服装。


「えー!? 見えない!」


ラーゼさん、本当に言ってる……? あんなに見やすいのに。たとえ粉塵が舞おうが、轟音が轟こうが。


「無理もないよ、光学迷彩付けてる」


ゴキブリみたいな近衛兵は、私たち三人の視線を受けると、ワープでどっか行ってしまった。本当にゴキブリみたいだ。


「行ったみたい」


「ッ……! ったぁ〜……!」


足の傷は次第に突き刺すような痛みが増幅。


「すぐ手当てする」


エマさんは慣れた手付きで私を治療。釘が足を突き抜けたって言うのに完治した。


「ありがとうございます……。でも……」


大使館本館の地下から地上の物は壊滅。到底仕事をやれる状況ではない。オフィスや居住空間は別館だからなんとかなるけど、ハブポータルは潰れた。


「おーい、エマさん! 何があったんだ!」


ベルーケ大使が別館一階の大使執務室から姿を現す。


「大丈夫!? ヴィオレット!」


「みんなぁ〜!! 怖かったよぉ〜!!」


駆け寄ってきたローレさんも巻き込んで、ラーゼさんは私たちに抱きつき、泣きじゃくった。


ヴィオレットはラーゼさんの本名らしい。


「どうすんだこれ……」


ベルーケ大使はこの廃墟に腕を組んだ。


「多分、この子が近衛兵に狙われてる」


エマさんは動揺せずに私を指差す。


私が近衛兵に狙われている……? 私何かした……?


やったとするなら無理やりコントーレの会談で、多数決によって冒険者解体撤廃を通したくらいだけど。


「ッ……! それってかなりまずいんじゃないか?」


「近衛兵が動いてるってことはそれほど深刻なことだと思う」


「深刻なこと……?」

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