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77話 冒険者解体撤廃

気がついたら、コントーレ大使館の医務室にいた。


白い天井に、広いベッド。清潔な澄んだ空気。


布団をめくり、患者衣を緩めて右胸を見る。そっちを撃たれた。でも、傷口は全くなかった。


谷間を広げてよく見るが、それらしきものは見えない。


というか、包帯なりガーゼが付いていない。ここまで不自然だと自分が死んだのか疑いたくなる。


でも、近くにある心電図モニターは動いている。


心拍数:78

酸素飽和度:99

呼吸数:22


「あ、起きたんだ!」


医務室の入り口を見ると、ラーゼさんが姿を見せた。私に反応したってことは死んでない。


「よかったぁ……、二日寝込んでたんだからね?」


ラーゼさんは胸をなで下ろした。


「二日……安城たちは……?」


「あー、安城くんはなんか元帥になったらしいよ。庶民院議員になったって」


ひとまずは目的達成かな。でも、最後の目的はまだだ。


「それで冒険者解体の話はどうなったんですか?」


「ああ、閣議に持ち込まれたけど、全会一致で否決だって」


「ダメじゃん」


ラーゼさんはサラッと流すように重要なことを話した。


「総統言ってたけど、『論理の『ろ』の字もなかった』だって」


「……」


どうやら中卒には会議などの仕事の企画や請願書の作成も難しいようだ。


「コントーレ政府との会談っていつあるんですか?」


割と定期的にベセトアの上層部とコントーレ中央政府は会談を行なっている。コントーレで行なわれている施策の是非を議論するために。


「多分一週間後じゃない?」


一週間か……。間に合うかなぁ?


☆


異常もなく、目覚めたその日で自由行動が許可された。痛みもないため次の日には仕事を再開した。


私が皇帝と交わした交渉により、ベンシルリッキやデェシュメックに支援が行なわれている。


財源はヒンベルを睨んだら出てきた。ちなみに戦費もそこから。まさに紙一重。


まあ、あれだけのことをやられたのだ。彼らは二度と他者の領土を踏み荒らすこともなければ、それ相応の禊も行った。


とりあえず、帝都の困窮者への炊き出しとかが予定通り行なわれているらしい。


で、私がやるべきことはこの目の前のこと。


「――以上より、ルミディ地方の開墾を支援していただきたく存じます」


コントーレ中央政府関係者の老人がベセトア上層部の人間に意見を通した。


彼らは巨大な円卓を囲んで座っている。ちょうど半分がコントーレ政府、ベセトアと別れている。


私はこの定期的会談に司会役として出席した。そして、安城も新たなるベセトアの高官として。


「まだそこへ定住させる人間が少ない。時期尚早だ」


老人の異議をベセトア高官は一蹴した。無慈悲だが、こうやってコントーレの方針を固めるのだ。決して間違ったことではない。


「ルミディ地方に関する協議は以上でよろしいでしょうか?」


「……」


誰も異議を唱えない。つまり次の議題に行っていいということ。


「では次に冒険者解体――おっと! すみません誤植が!」


両者の緩衝地帯に吊るされたスクリーンには、『冒険者解体促進』ではなく、『冒険者解体撤廃』と映し出されている。


私は安城に目線を送った。


「――皆さん! 俺は冒険者解体を撤廃していただきたく存じます!」


肩章が一気に陸軍元帥のマークに変わっている。銀色の五つ星が輝く。


好機と言わんばかりに躍起になっているのを横目に、ベセトア高官の表情は一気に険しくなった。


それもそのはず、高官、ひいては議会の真の目的は冒険者人材の肉体労働事業への参入。


定期的に大使館に現れる高官が、そう言っているのを漏らしていた。


「それは閣議で否決されたことだ! 新参が口を出すな!」


高官はこの国の勇者とあろう人を、とっくにベセトアの犬だと錯覚している。


「冒険者の飽和と危険性が問題なんだろ? だったらそれを制約すればいい」


「ッ……! それがなんだと言うのだ!」


高官は嗤った。


「琴音、俺のスライドを」


言われるがまま、前日にもらったスライドを映す。


背景グリーンに虹色フォント、ギザギザのふきだしと区切れの悪い文章の羅列が公開された。クソダサスライド。


『冒険者解体撤廃』


そういえば、私確認してなかった。安城のスライド。「これくらいお前が作れ」って急かした。


これには、ベセトア高官と私も吹き出すのを堪えずにはいられない。


私もヒンベルに送ろ。


「……え、えぇ〜っと、では……、読み上げを――ブフォッ」


下を向いて誤魔化す。


「まず、冒険者の飽和について。それは新たな規約や制度を制定し、免許制にして人数を調整すればいい」


ベセトア高官と私がわろけてるこんな状況をものともせず、淡々と詳細を説明。


私は進行役としてスライドをめくるが、別のクソダサスライドが顔を見せる。しかも途中に、謎のアニメーションが入る。


やばい、頭に入ってこない。それはベセトア高官も同じ。いつも痛烈な批判がご自慢の人たちも、腹を抱える以外にできることはないらしい。


でも、安城の左手が僅かに震えてる。


「つ、次に危険性。武器の所持は人の密集地では、布を巻くなり覆い隠して持ち歩く。そうすれば簡単に取り出すことはできない」


またもクソダサスライドが出てくるが、堪らえようと努力。


「これなら、コントーレの伝統の冒険者は守られる……!」


「……ッ! お前のスライドは傑作だ!! 面白過ぎて頭に入らないよ!!」


ベセトア高官は膝を叩きながら高らかに大笑い。他の高官もスライドを指差して笑い合う。


「こんな人を笑わせる能力があるのに、陸軍にいるのはもったいない! ベセトアに芸能事務所つくるからコメディアンに就職してくれ!」


何の悪気もない口調で安城を嘲笑。


「あの――」


「――すみません」


私が口を開く前に、マドレーヌ夫人が割って入った。


「この絵、読みにくいです」


うわ〜。ダメ出し。


「――ですが、解体理由の要所要所を押さえています。私もこの案に賛成です」


「……!」


「これならば、我が国民が犯罪に加わることもないでしょう。私も賛成です」


陛下も味方になってくれた。


「陛下が賛同するならば儂も」


「では、多数決でよろしいですね?」


「おい、お前! そんなこと――」


コントーレ政府の人たちは次々と手を上げ始めた。


「私は勇者様に助けられました」


「冒険者がいなければ、私はもうこの世にいなかった」


そして、コントーレ政府の人は全会一致。一方、ベセトア高官は安城以外、手は挙がらない。


   賛成:十二人    反対:十二人


私は司会であるが故に、票は入れられない。高官も断固として票を入れるつもりはない。


「……っ、どうすれば……」


「なら、私も入れるよ」


この広間の扉から声がした。


長身の黒髪黒目の男。地球でよく見る黒スーツにグレーのネクタイをしたやや痩せている人。


「ヒンベル……!? どうしてここに……」


ヒンベルは確かこの会議には出席する予定はなかった。


「総統……! なぜお前がっ……!」


「ここで面白いのが見れるって聞いて来たんだよ」


まさか……。ここでこう転ぶとは思わなかった。


「十三対十二で可決だね」


「では、議題は可決されました」


「……! やった……、やった……やっと!!」


安城は身体全体で喜びを表現した。大きくガッツポーズ。


「……、あの外交官め……」




「琴音、お前のおかげだ……! お前が総統を呼んでくれたんだろ?」


安城はあの会談の終わりに頭を下げて感謝を述べた。似合わず他人行儀。


「別に。最後はあんたの力でしょ? ヒンベルはどっちにもついてないと思うよ」


ヒンベルの言葉を鑑みるに、議会がうるさくて渋々やってる感がした。


「な、なぁ……」


「何?」


「なんで琴音は俺のことを助けてくれるんだ……?」


安城は目を逸らして言った。


「別に。私はあくまで外交官としての仕事をしただけ。国家間の関係と駐在先の情勢は安定させるべき、そうじゃないの?」


「……そうか……なあ、」


「何?」


「……ありがとう」


どことなく、安城の耳が赤くなっている気がする。


「あ、いた」


ちょうどいいところでヒンベルが水を差した。


「おーい、安城。大法官のところ行くよ」


「……? どうしてだ?」


「議会の方針に背いたじゃん。かなりお叱り受けるよ」


「……それはヒンベルも同罪じゃない?」


「いや? ただ公正な議題に、私はあのスライド面白かったから入れただけだよ」


そんなSNSのいいね感覚で票入れたんか。


「まあ、とりあえず行くよ」


「うぅ……」


安城はトボトボと本部へ向かった。


「んで、本当は何しに来たの?」


「予算請求。とんでもなくオーバーしてるから」


「あんたの財布からで」


「嫌だね」


「じゃあジュストンバンクから」


「これが死人に口無しか……」


「僕が出すよ」と言ってたので問題はない、と思いたい。


「ここまで織り込み済みとは話に聞くミクリアみたいだよ」


「ミクリア? あの?」


「彼女の企ては必ず成功するとも言われた名将」


そう残してヒンベルは去った。


まあ、これで一件落着かな。


そうして後日、冒険者は国家試験合格者のみ冒険者を名乗れることができ、武器の携帯ができるようになった。


現状の一定ランクの冒険者は無条件で免許取得が可能。だが、期限はある。そのため来たる試験に備え、勉学に励んだらしい。


総合的に、いい方に転んだのではないかと思う。安城が私をアリスと誤認したとはいえ、彼が士官になってこのリバタールの冒険者を救ったのは。


デヴィースの一件は安寧へと向かっているが、傷口が治るのはしばらく先。


調和へと向かわせるのは、私たち外交官の役目。


今日もベンシルリッキ役人との会談だ。


――――


      シーズン4 衝突に備えよ


           完


           主演


         豊川 琴音


          準主演


      ヒンベル 役 ??? ???

   ??? ??? 役 ??? ???

       源光蝶 役 ??? ???

     ジュストン 役 アスラン メルスィン

     安城 祥太 役 安城 祥太

       ラーゼ 役 ??? ???

     オルガ大佐 役 オルガ大佐

     ハルム宰相 役 ハルム宰相

    ミラス旅団長 役 フェリハ ミラス

     ブルサ将軍 役 デミル ブルサ

   チフテレル将軍 役 チフテレル将軍

    ボズテペ将軍 役 ボズテペ将軍

 ベンシルリッキ皇帝 役 ベンシルリッキ皇帝



          友情出演


      ベンシルリッキ軍の皆様

      デェシュメック軍の皆様

        ベセトア軍の皆様

       ベセトア高官の皆様

        マドレーヌ夫人

        コントーレ国王


           脚本


         プライマル

          ケーリー

ご視聴頂きありがとうございます


次回、シーズン5 世界が交差する


守る国もない近衛兵――


シーズン5に入るにあたって、一週間準備期間を設けます


それまで一旦完結にしておきますが、普通に続きます


シーズン5はかなり簡素にテンポよくやっていくのですが、シーズン5はゆっくり投稿していきます


具体的には二日に1話って感じですかね


15話くらいで終わると思います


まあ、問題がシーズン6なんですけど


シーズン7はシーズン5同様簡素に作りたい所存です


面白そう、続きが気になる、と思って頂ければ


ぜひとも作品フォローをお願いします


最新話から評価できるので星をつけていただけると作品更新の励みとなります


よろしくお願いします

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