75話 空飛ぶ爆弾
「観測論に基づくと観測しなければ地面の存在が確立しないから、ある状態とない状態が両方あり得る」
「……」
「つまり上を向いて渓谷を歩けば、そのまま渡れるんだよ。これカートゥーンの世界じゃ常識」
「現実の話しろ」
口を開けばこれだ。頼むからこの状況を打開する策を講じてくれ。そもそも両方あり得るんだったらない状態も内包してるんだよ。だったら落ちるじゃん。
「他にないの?」
「豊川をロケランの上に乗せてあっちまで飛ばす。これFPSじゃ常識」
「だから現実の話しろ」
人一人を大きくてもバレーボールくらいのロケットランチャーの弾頭に乗せるのは、どう考えても無理がある。
それこそ、弾頭に百グラムも満たないくらいの重さのものをガムテープでくくりつけるのがせいぜい。
いや……待てよ……?
設定の質量コントロールって欄を押す。重力加速度や重力傾斜とある中から自分自身の質量、つまり体重をクリック。
体重は見なかったことにして、本来の体重から0.01kgに変更する。人間の面積だと、風影響を受けて今にも吹き飛びそう。
「ロケットランチャーってある?」
「あるよ……?」
平然とヒンベルのロッカーからロケットランチャーが出てきた。ダンジョンの時使った鉄の筒って感じのメカニックなやつ。
「これでどうするの?」
私はロッカーからガムテープを取り出して、私の手首と弾頭を何回か巻いて接着する。
「え、マジでやるの?」
どうやらヒンベルも今からやることがわかったようだ。少し動揺している。
「ヒンベル、あっちに撃って。その後この人たち地下都市に詰め込んで」
私がタゲ取っていれば、この人たちが巻き込まれることはない。
「あっ……はい」
ヒンベルは左脚を地面につけスコープを覗き、トリガーに指をかける。
「い、いくよ……?」
やっぱり戸惑ってる。まあ気持ちはわからんでもない。
ヒンベルがトリガーを引くと、轟音と白煙と共に弾頭が射出。
弾頭の行くまま私は引っ張られる。
弾頭は一瞬にして渓谷を飛び越した。
対岸の廃屋に着弾するまで金魚のフンみたいについてゆく。
着弾により視界が一瞬にして煙に包まれた。すぐに晴れると、半径三十m内にあった家屋は破砕された。
これをダンジョン内でやったんか……。そりゃ崩落でもなんでもするわ。
計画通り、着弾地点に到着、と言いたいところだった。
私は合計体重二十グラム。つまりどんな衝撃でも吹っ飛ぶ。
あられもない方角へ飛ばされた。
弾頭が着弾した時、私は引っ張られる以上後ろにいるしかない。
それは進行方向と反対向きに爆破の力を得るということ。
逆戻りを余儀なくされ、瓦礫にダッシュート。
「それ計算してなかったでしょ?」
「うっ……」
ヒンベルに痛いところ突かれた。最後の最後で詰めが甘い。
これは私が前々から気づいてる私の悪いところだけど、どう直せばいいかわからないやつ。
「ッ!?」
周囲の瓦礫が竜巻で巻き込まれるように削がれた。
化け物じみたジュストン中佐に追いつかれた。
「"ヤット……!"」
これは死を想起した。私の視界を覆うようにおどろおどろしい結晶体を纏った化け物が陣取っている。
あの結晶体は安城のシールドを貫いた。
「なんだあの化け物は……!」
「みんな地下都市に戻れ!! 終わってない!」
「押すな! ただでさえ狭いんだから!」
地下都市に隠れていた民衆がおぞましい化け物に指を指す。我先に奥へと隠れ始め、ごった返した。
「下がれ! ここが軍人の見せどころだぞ!」
「こいつが祖国を……!」
「これが偽司令官だと……?」
連合軍およびベンシルリッキ軍も急遽戦闘態勢。
各々銃や槍を構える。
「"先ニオ前カラ……"」
腕と一体化した巨大レイピアを振り上げ、月光が反射。
そして自重により振り下ろされた。万事休す。
――ガンッ
……?
「メルスィン、もう大人げないよ……?」
表情を少し歪ませながらレイピアを防いでいた。
曲った白刃の刀が守ってくれた。
「……なんで……ヒンベル」
「……ちょっと契約と逸脱してるだけ。従業員を殺すのは規約に違反して……る――」
ヒンベルはレイピアを打ち返した。
「"オ前モ邪魔ヲスルカ……!"」
「本末転倒。こいつ殺すんだったらその力取り上げるよ」
ヒンベルは圧倒的な暴力性に満ちたジュストン中佐に怖気づかなかった。
「"僕ハ……タダ……コノ不条理ヲ焼キ払イタカッタ……!!"」
「焼き払うのにこいつ殺しても意味ないよね?」
ヒンベルは論理的に戦う姿勢を見せた。
「"コイツハイツモイツモ邪魔バカリ……!"」
「そっかぁ〜、じゃあ豊川、手ぇ引く?」
「ダメでしょ」
それは見過ごせない。私たちがいなくなれば、虐殺が再度始まる。周りにいる軍人も許さない。
「だったら、どっちかが諦めるまでやり合うしかないね」
結局そうなるか。まあ、もはや言葉は不要と言わざるおえないところまで来ている。
でもこの勝負、私の勝ち。
「アスラン様!!」




