70話 停戦交渉
ワープの青い球体が収縮すると、目に飛び込んだのは、皇帝の馬車が破壊され、側近の死体が四散する光景。
だだっ広い広原の中、腰が抜けて血を被った豪勢な服装をした老人の前に、ベセトア陸軍士官の制服を着た人がいる。
身体に言及するならハゲ。
血に塗れた黒英刀を片手に対峙。
「ひいぃいぃ……!! やめてくれぇ……! ワシが……何をしたと言うんじゃぁ……!」
皇帝とある者が、醜態を晒している。
「それすらわからんゴミに、喋る資格はない」
ジュストン中佐のレイピアが皇帝の首に斬りかかる。
その直前、安城の青い刃が受け止めた。
「――!?」
安城は重い一撃を堪えた。
「ジュストン中佐、今回の内部工作による武力衝突と通信系統のジャミング、到底許されない重罪です」
ヒンベルを差し置いて前に出る。
そしてジュストン中佐は安城と距離を取る。
「なぁに、こいつさえ殺せばもう終わることだ。後で責任追及されようがどうでもいい」
ジュストン中佐は嗤うように吐き捨てた。
「ボズテペに向かった分隊も今ごろ停戦命令が出ています。もう、終わり」
「そうか……。そういえばあの答え、まだ聞いていなかったな。外交官のクセして口達者出ないのは思いやられる」
「……」
突然話を変えられた。小馬鹿にするような口調。
この話を振れば私は黙ると踏んでいるのだろうか。
「ヒンベル総統、手ぇ出すなよ。これが『僕のやりたいこと』だ」
「……」
ヒンベルは横転した皇帝の馬車にもたれて聞き入れた。口が動いていたが、言葉にはしていなかった。
「これで総統は木偶の坊、こいつと将軍を処理した後、次はお前らだ」
と、ジュストン中佐は私たちを一瞥。
再度皇帝に一振り。だが、安城に阻まれる。
「往生際が悪い。こいつはどうせ死ぬ運命にあるんだ」
「させるかっ……!」
互いの青い刃は、ほのかに揺らめく青い粒子を散らしている。
鍔迫り合いを止め、距離を取った。
「そうかぁ……」
「……?」
ヒンベルが突如割って入った。胸を擦りながら両者の間に立つ。
「そういえばさ、この戦いの監督責任者って安城なんだよ。こいつやっとけば、逆に監督不行き届きで責任問えるし、やりたいことやれるぞ」
「えっ」
これには安城もヒンベルの発言に言葉を失う。
「ならちょうどいい、若造……悪く思うなよ」
ジュストンは安城に近寄り始める。
「じゃあ頑張ってね、安城」
えぇ……。
ジュストンは安城に斬りかかる。
安城そのままジュストンの猛攻に対応して後退。広原の地平線に向けて剣を交え始めた。
「――まあ、いったかな? あんなに飛ばして大丈夫かな」
「……何する気?」
ジュストン中佐をどっかやるため雑に安城に任せた。いつまで耐えれるだろうか。意外とパワー負けしていたから長く続くか心配。
「んん? そりゃ豊川ならわかるでしょ」
ヒンベルは皇帝を一瞥。
ああ、わかった。私の本領発揮と言うべきか。
私はヒンベルの意図を汲んで皇帝に向かう。
「ねえ」
「は、はいぃい……!!」
声かけるや否や土下座。一国の長とある者が見る影もない。
「何でもしますから命だけは……!」
「何でも?」
そう言われたらやりたいようにやるけど。まあ、こんなシワシワジジイをいたぶる癖は持っていない。
「停戦します?」
皇帝は慈悲を乞うような目で見上げた。
「も、もちろん! 頼む、もう民を、この国を傷つけないでくれぇ……」
「まあまあ一旦座って。ちゃんとこの先のことを決めようじゃないか」
そう言ってヒンベルは土の地べたに胡座をかく。
「私は特にこれと言ってして欲しいことはないし、無条件降伏……。いやそうだ、あの南東部にある山岳地帯譲ってくれない?」
「もちろん! あそこは何も無いが欲しいなら好きにしてくれぇ!!」
ヒンベルの要求を皇帝は無条件で呑んだ。なんでわざわざそんなところ貰ったのか。
「なら、私からの要求はもうないかな。ただ――」
ヒンベルは私にまた一瞥。あとは君の仕事だと。
「今後の国家運営に関して言及させてもらいますけど、この戦争で国力を失ったのを期に帝国は不可逆な衰退をするでしょう」
「……」
皇帝は心当たりがある様子。帝国の反乱分子はあらゆる所から析出するだろう。エルフなりドワーフなり。
「少なからず自治区の独立を認めるなければ、反逆の狼煙があがります」
「ああ、併合した土地は独立を認めよう」
「――ですが、このまま帰郷しようものなら国民は黙ったものじゃないし、あいつも止まらないでしょう」
「豊川補佐官、連れてきました」
この会合にベセトア士官が割って入ってきた。無数のベンシルリッキ軍、デェシュメック軍を連れている。
私は一つの交渉をした。
だが、懸念が一つ。安城の安否。
まあ、名前に「安」って付いているんだから大丈夫だろうと思いたい。
が、あちら側をイヤーピースで聞くに、厳しそうだ。
しょうがないやつだ。




