66話 レスバ敗北
「っ……! どこやったんですか、安城を!」
「安心してくれ、彼は卯月にいる」
すぐにマップで確認。卯月の艦内を調べると、艦橋に安城を示す三角マークが表示された。ちゃんと彼を示す一角が動いている。
「お前も帰った方がいい。気が気でないだろう」
「外交官だからって舐めないでくれます?」
私はトラックから下りる。
「見たいか? こいつらが嬲り殺されるのを」
ジュストン中佐は近くの敗残兵を一瞥。彼らは砂ぼこりを上げて敗走。しかも、息を引き取ったチフテレル将軍に見向きもしない。
「ペーペーの外交官など陸軍中佐である僕に敵わない」
ジュストン中佐からは溢れ出る自信を感じられる。
「それはどうですかね」
この虐殺を止める手立てはないわけじゃない。
ジュストン中佐がやったように、私も彼をどこかへワープさせる。ジュストン中佐のワープはさっきつかった。故にしばらくここに留まる。
拘束できる場所を登録してないのが痛いところ。
問題はどうやって近づくか。
「私はあなたを看過できません」
ジュストン中佐はふ~んとため息と共に口を開く。
「豊川、お前は『なぜ』人殺しを認めないんだ? 知ってるぞ、お前も人を殺したことくらい。何が違うんだ?」
この問いに少し目眩を感じた。動揺している……?
「……同じ穴の狢とでも言いたいんですか? 決定的な違いはあります。意味もなくジュストン中佐は理不尽に命を奪っている」
断固たる姿勢で非難。
「言い方を変えよう。なぜ無関係の人間の死を悼むのか」
「……?」
「別にいいじゃないか。現実のどこかで人が死んだって。いつもニュースで『どこどこで何人が死にました』って一瞬嘆いてもすぐにいつもの生活に戻る。ましてやその死がお前たちの利益になるんだ」
「それは……倫理的に……」
「そら出た、倫理。倫理的に看過できないことを、お前に無関係なあいつらは平気でやる。答えてくれ、倫理的に許されるのはどっちか」
ジュストン中佐は畳み掛けてくる。
「ッ……!」
言い詰められてしまった。レスバに負けた。思いもしなかった、ジュストン中佐がこんなにも口達者だったとは。
落ち着け、感情で口答えしたら完敗だ。おばあちゃんにも言われた、なんでも感情任せに言っちゃだめだって。
「……答えられないか、ならこれまでだ。では」
「――あっ!」
ジュストン中佐は振り返り、安城顔負けの速さで大地を飛ぶように疾走。
私が手を伸ばしたって無意味だった。
「あ、そうだ。総統は木偶の坊だから泣きつかない方がいい」
足を止めて一言残すと、東へ行った。
ここは戦略的撤退が堅実だ。卯月にワープして体勢を立て直す。
「琴音! 無事だったか!」
安城は私が艦橋に戻るなりお出迎え。
「オルガ大佐と話してたんだ」
「今、攻撃展開したベセトア軍の六割は止めれた」
オルガ大佐が状況報告するなり、艦橋の天井にデータが映し出される。ベンシルリッキ帝国の縁は青く、中央部は赤。
そして音信不通部隊のリストに十五個の分隊が記されている。
「赤部分が音信不通部隊が潜むゾーン。帝都も入っている」
オルガ大佐が指を差して解説。
「探したいんだけど、どうにも足取りを掴めないんだ」
「なんで掴めないの?」
「ちょっとベセトアの情報錯乱システムに問題がある。ゴーストモードになっている従業員は、上官でないとどこにいるかわからない」
「ゴーストモード?」
直訳すると幽霊状態。
「周辺の電子機器を常時無効化し、味方でもマップに表示されない潜伏状態。偽司令官に唆されたのだろう」
青ゾーンには多くのベセトア軍人がいると示す三角マークが大量にあるのに対し、赤ゾーンはなし。
「でも、上官ってことなら大佐であるオルガさんなら――」
「いや、管轄が違うんだ」
そうか、だから現在進行系で行方を追っていたのだろう。
「それだったら、陸軍大佐以上の人を――」
安城は特別作戦司令官だが、正式な階級は少尉。
「それが、いないんだ」
「今の陸軍最高階級は中佐らしい。ファータロス時代の階級を受け継いでるとかで」
オルガ大佐の言葉に続いて安城が説明。
「え、じゃあ……」
「……止められない」
どうすんだ。帝都を攻める部隊なのだ、きっとそれ相応の実力を兼ね備えた部隊。一筋縄では行かないと思う。
「でも、陸軍の最高階級が中佐なだけでしょ? 国防大臣は?」
国防大臣はベセトア軍を統括するヒンベル内閣の一角。
「この時間帯は寝てる。最高統率者の総統もな」
今は午後九時過ぎ。日本時間では深夜三時。
「いや、気にしてる場合じゃないな」
早速ヒンベルに鬼電。
「……」
一分経ったが、反応なし。自動でコール終了。
もう一度。だが、結果は同じ。
「……出ない?」
「イヤーピースからコールは聞こえるだろ? 非通知なんてあるのか?」
設定から非通知にできるが、どうなのだろうか。前に電話かけた時は応じてくれたが、くっそ不機嫌だった。
正直、非通知にしているのかわからない。深夜の電話は私以外からもあるとは思う。暗黙の了解でないのかわからないが。
「総統は基本電話に出るぞ、いつでも」
「えぇ……?」
「しょうがない、俺たちはこの地点でジュストン中佐に会った。そしてエヴィリエ砦にもいたはず。進路を予測すれば、この先の帝都に向かったはずだ。待ち伏せするしかない」
安城は天井に映し出されたマップにマーカーを引く。エヴィリエ砦からチフテレル本隊襲撃地点へ、そして帝都。
「ここぞとばかりに計画立てるじゃん」
「琴音は違うのか」
「中佐は北にある帝都じゃなくて東にある街に向かったのを見た。でも、もう遅いと思う。だから安城と同じ」
「ッ……! そうか、ありがとう琴音。オルガ大佐、第三十二歩兵分隊をこの街に派遣してくれ。生存者の保護を」
「わかった」




