65話 理想の『現実』のために
「どうしてだ、ジュストン中佐」
安城がベセトア軍制服姿の男を睨み尋ねる。
ジュストン中佐はレイピアのような剣を持ちながら振り返る。黒刀のレイピア。
「おや、二人とも危ないところだったな」
「おい」
「僕はお前たちが無事で嬉しいよ。こいつは大の拷問好きで知られてる」
「はなしを――」
「さ、ベセトアに喧嘩を売る輩は屠ろう」
ジュストン中佐は何事もなかったかのように、ベンシルリッキ狩りに勧誘。
チフテレル将軍に負けず劣らず話が通じない。
「お前だな? ベンシルリッキとの武力衝突させたのは!?」
安城は相当ご立腹。ヒンベル相手でさえこんな形相はしたことはない。
「勘違いしないでくれ。僕は『この現実』を正しい方向に直してるだけなんだ」
「……は?」
わけがわからない。
「『現実』は非情なんだ。僕みたいなちっぽけな人間は抗えない。でも、ベセトアは違う。ベセトアは僕みたいな人間にも『現実』を歪めれる力があるんだ」
物想いにふけるように語り出す。
「だからなんなんですか?」
話が見えない。そもそも『現実』に正しいも間違いもあるのかさえわからない。
「単純な話だ。ベンシルリッキがこの大地を支配するのは間違っているということ。『台本』に基づいて『この現実』を修整する」
「それが人殺しだったとしても?」
「『この現実』が修整されるなら」
安城の問いに即答。
「願ったり叶ったりだろう。俺は夢が叶う。お前は元帥になれる。いいこと尽くめだ」
「どこがだ!!」
安城は吠えた。
「どこがいいこと尽くめだ。バカバカしい! お前のせいで事実も知らずにベセトア軍が虐殺して、ベンシルリッキ軍が虐殺されてんだ! わかってんのか!?」
ジュストン中佐は嗤った。
「何がおかしいんですか?」
「いやいや、すまない。お前たちにもそういう感覚はあるんだなと」
「は……?」
「お前たちみたいな外現実に来たばかりの人間は、外現実人を同等の存在だと扱わないことが多い」
これはちょっと私に刺さった。盗賊を爆殺した時、小馬鹿にしてて人を殺したという感覚が湧かなかった。
「だから開戦に踏み切ると思ったんだがなぁ」
ジュストン中佐は「がっかりだよ」と言うようにため息。
「随分あまく見積もったみたいですね」
「まあいいよ、ベンシルリッキは今夜滅ぼす」
ジュストン中佐は近くのベンシルリッキ兵にロックオン。
片手でレイピアを構え、ベンシルリッキ軍に突撃。黒刀に青い光の刃が輝く。
「まずい!」
安城が追随してジュストン中佐の一撃を防ぐ。が、安城は庇おうとした兵士よりもだいぶ前に構えた。
「――!? どうしてだ?」
ちょっと不調な様子。
「「ガァァ!!」」
たった一振りがベンシルリッキ兵を一網打尽。綺麗な断面によって内蔵が露となる。
周囲を狩り倒すと、隊列など遠に崩壊した兵士が密集した地点に狙いを定める。
「させるか……!!」
今度は安城が防ぐ。安城も青い光を纏った黒刀を手に鍔迫り合い。
近くの兵士は悲鳴を上げ、散り散りになって逃亡。
「予想外だ、なぜお前が持ってる?」
「……ッ! 知ってるぞ……! 『初見殺し』には引っかかんねぇって……!」
そう、あの黒刀の特性のことだ。
☆
「司令官、これを貸します」
ベセトア軍士官が渡したのは黒い鞘に入った西洋剣。自身が腰に着けていたのを手渡し。
「剣? 黒刀……?」
安城は貰うなりすぐに抜刀。
「それはベセトア高官職のみが帯刀を許される『黒英刀』。プライマルエネルギーによってできた青い刃は、大抵のものならなんでも切れます」
「そうか、そういうことですね?」
私は士官に問う。
「そういうことです」
☆
ビンゴ。大量の真っ二つ遺体が散乱していたのにも合点が行く。
恐ろしい剣だ。大抵のものはなんでも切れる。切れないのはシールドなどのプライマルエネルギーの粒子や絶原性素材と呼ばれるもの。そのうちの一つが黒英刀。
鍔迫り合いはジュストン中佐が勝利。安城が吹き飛ばされる。
安城は乾燥した地面を踏ん張り立て直す。
「良かったな身内で、シールドが無きゃ死んでたぞ」
「揃いも揃って同じことを」
言われてみれば、ヒンベルもシールドが無きゃ安城は死んでいた。でも、ヒンベルは黒英刀ではなかった。白銀の日本刀。
「だが、ここでやり合うのも不毛だ」
ここぞとばかりに話がわかる。
今私たちはシールドがある。故に長い時間を嬲り殺されるか、決着がつかず朝を迎える。
「ここは停戦と行こう。仲直りの握手だ」
ジュストン中佐はレイピアを左手で持ち、右手を差し出す。
安城も了承し、ジュストン中佐に近寄る。
待てよ……。『右手』って……!
「安城! 待って!」
忠告は遅かった。
彼らは握手し、ジュストン中佐の右手が光る。安城はワープさせられた。
青い玉は収縮してボロボロと崩れた。




