64話 性癖開示合戦
「我らはチフテレル将軍直下の軍集団だぞ!」
中衛にいる槍兵の後ろの上官が吠える。
「え〜っと」
あまりの急展開にちょっと困惑。
とりあえず、チフテレル本隊とは合流できた。
だが、何万もの軍隊が大型トラックを囲んでいる。
「私はベセトアの特別作戦司令官の補佐官、豊川琴音。中にいるのは司令官」
「なっ!? お前か……! お前らが尖兵を……!」
上官の顔は怒りと憎しみで煮えたぎる。
「生かすな!! 今! ここで! 敵将の首を取れ!」
まずいな、これ。私の言葉聞き入れてくれる雰囲気じゃない。
「てぇぇー!!」
上官が叫び、上げた手を私に向ける。
その瞬間、血しぶきが爆ぜた。周囲の雑兵から。
言葉を発する暇もなく、胴を真っ二つにされて倒れ崩れる。
「なっ……?」
鉄砲隊が引き金を引く前に、前衛の盾兵が地に伏す。
上官の手が自重で地面に沈む。
「お前が……やったのか……?」
信じ難い光景に敵である私に問う。
「いや……私じゃ――」
「嘘を付くな、お前がやったのだろ! 何と言う魔女! 何と言う化け物!」
上官は私に罵詈雑言を浴びせる。
それを気に、ナヨナヨしていた雑兵が鼓舞される。
「どうしたんだ、琴音」
ドアから安城が復活。
「――ってなんだこれ……エヴィリエ砦と同じじゃないか……」
そう言うのも無理はない。
「下がりなさい、愚衆共」
鉄砲隊の奥から馬に乗った女性がやってきた。
ミラス旅団長よりも若い気がする。そして髪はロング。優雅な鎧を着けている。おまけに馬も。
「君たち、かわいぃ……。ねえ、君たちがやったの?」
「知らないぞ、こんなの」
「ふ~ん、そっかぁ〜」
チフテレル将軍と言われる女性は、妖艶で掴みどころのない口調で話す。
「あたし、幼い子が好き」
チフテレル将軍は安城を一瞥。
「私、幼い子が嫌い」
コントーレの懇親会で更年期って言われたし。
「強がってる子も好き」
次に私を一瞥。
「あ、性癖聞いてないです(◜ᴗ◝ )」
「それが合わさった子はもっと好き」
こいつすげぇ。人の話をまったく気に留めていない。ヒンベルの方がまだ話がつく。
「あたし、好きなんです、好きな子をいたぶるの」
流れ変わったな。
「まず、ゆっくり服を剥いでぇ……」
悶えるような笑みでビリビリに破くジェスチャー。
「そしたら爪を剥ぐの」
同様に自身の爪を抜くようにジェスチャー。
「でもそれだけじゃ興が乗らないからぁ……」
「……?」
チフテレル将軍は自身を抱き締めるように手をクロス。
「猿轡と目隠しさせて四肢を折り畳むの!」
目をキラキラとさせる。
あっ、ふ~ん。そういう趣味も、あるよね。この発言に流石の私も口を歪める。
「たくさん『こっちこっち』とか『おいで』って競争させる以上の娯楽なんてこの世に……」
思いを馳せるように目を閉じ、戯れ言を綴る。
「聞いて! この前もエルフの姫と兎人の王妃を競走させたらエルフが勝ったの! 意外だよねぇ? ここに色白のあなたも加わって欲しいな?」
そう言って私にロックオン。
まあ、拷問とかが専門の将軍なのだろう。そんなんで将軍になれるのかは甚だ疑問。
「そっか、じゃあちょっと帝都まで引き返そ?」
私も言葉を無視して発言。こうでもしないと話が進まない。
「強がらなくていいのよぉ! でもその姿をずっと見せてほしい!」
チフテレル将軍は手を広げる。
この発言に対する私の答えは一つ。
「なら、今夜はお前の腸ソーセージの味噌漬けだ」
拳銃を懐から取り出す。
「待て! 琴音!」
安城は手を私の方に突き出し、静止させようとする。だが遅い。私が両手で構え、発砲するのが先だ。
引き金を引いた時、チフテレル将軍の手は四本になった。
「は……?」
銃弾は逸れた。
チフテレル将軍が広げた両手の直線上にいた兵士も、巻き添えを食らった。
何一つ突っ掛かりのない綺麗な断面。骨髄まで見える。中指と薬指から別れ、肩まで切れている。
チフテレル将軍は何が起きたかわからない様子。自身の四本の手を見つめるだけ。
「琴音……お前がやったのか?」
「……違う」
断言できる。たった一発の銃弾、しかも外れた弾がこんな芸当をできるはずがない。
「……あ……? ……あ……あ……あああ!!」
チフテレル将軍は次第に理性を失い発狂。
突如として四肢が六肢になったあまり、さっきまでの恍惚とした表情は消え去った。
「あんたじゃないよね?」
「いや……俺のはずっと腰にある」
安城は自身の腰に手をかける。
「よくも将軍を……! 逃がすな! てぇ――ガハッ!」
上官は腰から崩壊した。
「琴音、追えたか?」
「……何が?」
「さっき残像が見えたんだ、あいつにかまいたちみたいなやつが」
まさしく私たちが目の前にするのは、かまいたち。突風のようにベンシルリッキ軍を切り裂く妖怪が近くにいる。
「怯むな! 進めぇー!!」
威勢のいい歩兵が仲間の屍を乗り越えて突撃。
血塗られた前線から飛び出した時、首が身体と別れた。
「いた! あそこだ!」
安城は指を指した。
私はずっとこの光景に釘付けになった。故に、何が通ったのかわからない。
視点を安城の指先の直線上に乗せると、いたのはベセトア軍の制服を来た男。




