63話 密室に二人、何も起こらないはずがなく
「安城……」
「琴音……」
私たちは互いに見つめ合った。
安城が私に覆いかぶさる形で、私は押し倒されている。
☆
エヴィリエ砦を出て山道に入った。ここはエヴィリエ砦付近は植生が豊かだったが、この付近は乾燥した大陸性気候。この先を行くと帝都に続く高原が広がっている。
エンジンの振動が運転席まで伝わる。ガッタガタとマッサージチェアのように。
もはや、タイヤがジェットブースターで焼き切れるのではないかと心配するレベル。
「な、なぁ琴音、そんなに急がなくてもいいんじゃないか……?」
窓から見える景色はかなりの速度でスライド。
スピードメーターは222km/h。
「あんたが殺生嫌うかこうしてんだぞ。なんか文句あっか?」
「い、いえ、別に」
安城がよそよそしい。転生させMAX号改二型に乗った時からずっとこの調子だ。
「琴音、そろそろ丘だぞ……? 速度を落とした方が……」
「知ってるか、安城。ここに道交法なんてないぞ」
私の言葉に安城は目を丸くした。
「つまりいくらでもスピードは出していいってこと。そして、私たちにはシールドがある。覚悟しろ」
私はアクセルベタ踏みで目の前の丘へ道なりに進む。
まずは急な斜面をなだらかに進む。
面舵いっぱい、ヨーソロー。
「こここ琴音! 落ち着いて!」
安城は遠心力により私から遠ざかる。
「こんなんで音を上げてんじゃねえぞ」
「ひぃぃ……」
取舵いっぱい、反転180°
「こっち寄んな!」
寄られると前が見えなくなる。
「仕方ないだろ!」
安城は遠心力でこちらに向かってくる。私も遠心力で安城から遠ざかる。
上り坂に加えて慣性により、座席に身体は押し付けられる。
丘の緩やかな斜面を登りきり、下り坂に差し掛かる。
面舵いっぱい、反転180°
「ううぅ……」
安城の言葉は遠に失われた。
「行くぞドリフト」
初めてやる。
思い出せ、ネットサーフィンしてた時に見たドリフト運転の動画を。
「ちょ――」
思いっきりハンドルを左に切る。遠心力で荷台は弧を描く。そしたら外側へハンドルを切る。
「ガッ――」
安城はシートベルトに打ち付けられる。
折り返しを抜けると安城は再度座席にめり込む。
山に垂直にくだるのはダメだ。まだ横転する角度。
「もっかい行くぞ」
「……」
安城は失神寸前。
ドリフトはまたも成功。後輪が巻き上げる砂煙が舞う。
「よし、これで道なりに――まだやる必要あるな」
まだ斜面はなだらかじゃない。
「いけ……!」
よし、成功。これでなだらかな斜面に――。
――バキッ。
突如、押し倒さた。遠心力のせいもあるが、要因はお隣の人。
安城のシートベルトが壊れた。ベルトと金具が破断。
視界には安城しか映ってない。
「安城……」
「琴音……」
私たちは互いに見つめ合った。
左足で安城の腹に後ろ蹴り。
「ガッ――」
安城は衝撃のあまり吹き出す。
「事故りてぇのかコノヤロウ! 前見えねぇだろ!」
私が予期していたことは起きた。
荷台は遠心力で横転。あまりの速さに下り坂を転がりながら進む。
「あああああ!!!」
「叫びたいのはこっちだわカス!」
視界がグルングルン。目が回る。そこら中から騒音が響く。
トラックはシールドのお陰で形は歪まない。
そして僅かにバウンドしている。
次第に速度は落ちる。軋む音はしないが、黒板消しの角を黒板に引きずった不快音がする。
地面の砂でシールドが滑る。
そしてトラックは横転した状態で止まった。
「……」
「安城……?」
「……」
あっ……。
安城はシートベルトが外れたあまり、運転席をスーパーボールのように跳ねた。そんなことが起きようものなら。
安城は今、フロントガラスと運転席の間にいる。
「二度目の死を迎えたか……いいやつ……『だった』」
過去形は大事。やりようによっては減点。
合掌して目を瞑る。一礼。
さ、出よう。
上にあるドアを開けるため立ち上がる。
「あっ……あっ……」
死んだはずの安城は弱々しく手を動かす。
「『あの時、この手で確かに殺したはずじゃ……!?』」
「い……生きてる……よ……」
あまりの衝撃でずっと倒れたまま。
「こ……こと……ね、さん、一つ……聞いていい……?」
「何?」
「お前じゃ……ねえよな……?」
安城の言葉に付け加えるなら、「(俺をトラックで轢いたのは)お前じゃねえよな?」ってことだろう。
「違うよ、そんとき免許ないし」
「よかっ……た……」
安城は息絶えた。
可哀想に。
安城はほっといて上のドアから出る。
シールドがあるのだから身体は無事。たとえ空から落下しようが、水面に激突しようが、弾丸を食らおうが。
「えっ」
安城に気を取られていてわからなかった。
「何者だ! 名を名乗れ!」
前衛に盾を全面に敷く兵と中衛に槍を構えた兵、後衛に火縄銃を構えた兵が、トラックを囲んでいた。




