62話 転生『させ』ます
飛び込んできたベセトア兵は息が荒かった。走ってきたのだろう。
「窓を見てください!」
言われるがまま窓を覗く。
「……ッ!?」
嘘だろ……。
この部屋からは砦の中庭を見渡せる。そこに残存したベンシルリッキ兵を待機させていた。
だが、私の目に映ったのは、ベンシルリッキ兵の死体。血の海ができていた。
すぐに中庭に下りる。
「こんな……こんなことが許されるの……?」
これには私も声が出た。
見るも無残なベンシルリッキ兵の死体が、中庭に充満している。
海には肉塊の岩礁が散乱し、誰一人として動いていない。まるで一つの作品のようだ。
そして何より不気味なのは、誰一人として断末魔が聞こえなかったこと。
「……ッ!? 誰だこんなこと……!」
安城も合流。不殺主義の安城にはあまりにもグロテスクな光景。
「見張りは何やってた!?」
見張りは僅か十人。多すぎるとベンシルリッキ兵にストレスを与えかねなかった。
それ故、最少人数で砦に配置した。
「気づいたらこんなことに……」
一人のベセトア兵が言葉を漏らす。
「何やってんだ琴音……」
私は海に近づき、遺体を観察。
「見て、死体の切り口」
そう、ここに散乱する遺体は、共通の特徴があった。
「……こんな綺麗に切断できるのか?」
遺体の外傷である切り口は、あまりにも綺麗に真っ二つだった。
綺麗すぎるあまり、骨髄さえ見える。日本刀で身体を断絶してもこんなことにはならない。
刃物を無理やり叩きつけたなら凹凸のある断面ができるはず。
「これは……」
ベセトア軍士官は心当たりがある様子。
「何かわかるんですか?」
「……」
ひとまず、ベンシルリッキ兵の遺体は残留する第十四歩兵分隊に一任することにした。猶予がない。
とにかく、チフテレル本隊と合流するのが最優先。
ベンシルリッキ軍が狼煙を上げ、即座に撤退するよう促したが、引き返したかは不明。
私たちがチフテレル本隊といれば、ベセトア軍も攻撃の手は止まるはず。
「エヴィリエ砦は任せます」
「承知しました。お気を付けて」
私は車に乗り込む。この車で合流する。
「ちょっといい?」
「何、安城?」
「いや……なんで大型トラック?」
安城が指差すは、荷台付きの大型トラック。本体のカラーはシルバー。
「トラックじゃないよ、『転生させMAX号改二型』だよ」
「そうじゃなくて、なんで?」
安城は転生させMAX号改二型を見るなりずっと動揺を隠すことができていない。
「そりゃチフテレル本隊と合流する為に……」
「別にバイクとかでよくない?」
☆
私はヒンベルと電話していた。武力行使ではなく、軍事演習に変えてはどうかと提案していた時だ。
定時を過ぎて自由時間の時、自室で通話。
「"それでもいいけど、かなり火遊びだよ? 先に帝国が武力行使したらどうするの?"」
「そりゃ――沈めるしかないって思ってるけど」
私は安城ほど楽観的ではない。やるしかない時はやる。逆にそれ以外の選択肢はない。
「"直々に加勢したいってこと?"」
「まあ……時間内にやるんだったらそうでもしないと……」
安城の陸軍元帥昇格はこの作戦にかかっている。肩入れするわけではないが、安城にも思うところはある。
それに軍事演習なら降伏宣言受理ではなく和平交渉となる。それを夜中にやらなければならない。
とりあえず、手札は色々持っておきたい。状況がどう転ぶかはわからない。
「"ん〜、じゃあ大型免許ある?"」
「逆にあると思う?」
大型免許というのは、もちろん自動車のことだろう。だが、私はオートマしか取ってない。というか、生涯大型操縦する気はまったくない。
「じゃあこれ」
ヒンベルは私にファイルを送ってきた。大型自動車操縦データ。脳内書き込みを押す。
「"書き込みすれば大型使えるよ。規則上でも問題ない"」
「大型で何すりゃいいんだよ」
「"そりゃ轢くんだよ"」
「えっ」
思考が止まった。
大型トラックに轢かれた誰かさんが脳裏……いや脳全体に浮かんだ。
「いやいや、森ん中とかオフロードどうやって走るんだよ」
舗装されたアスファルトを走るトラックにとって悪路すぎる。それに木々が邪魔すぎる。
「"オフロードタイヤなりカウキャッチャーなりつければ何とかなるよ。あとジェットブースターも"」
「もうそれトラックじゃないぞ」
言うなれば、地上を闊歩するロケット。とんでもない重さに、とんでもない速さ。
「"豊川は来る敵全員トラックで轢けば、早く終わるよ"」
そりゃ理論上はそうなるだろうよ。
「"豊川は転生『する』んじゃなくて『させる』んだ。せっかくだから餞別としてベセトアが持ってるトラック大使館に持ってくよ"」
「いや、普通に邪魔じゃない?」
大使館には大型トラックを停車させるスペースはない。あるとするなら地上の敷地内。
「"えー要らないの? 『転生させMAX号改二型』"」
☆
「ってわけ」
「あかんやろ」
安城は目を丸くして即座にツッコミ。
「グズグズ言ってないで乗れ」
私は運転席に乗り込み、エンジンを吹かせてシフトレバーを操作。
「ちゃんとシートベルト着けてね」
安城ほ文句も言わずシートベルトを装着。
この大型トラックはシフトレバーが二つある。
一つは四駆に繋がっているやつ。もう一つは荷台に付いているジェットブースター。なんでもローニ級に使われているスラスターと同じらしい。
鋼鉄のカウキャッチャーが似合い、巨大なオフロードタイヤを付けた魔改造トラックが、今からチフテレル将軍に会いに行く。
待っててね。




