60話 大将軍の帰還
砦の見張りは城兵の上で暗闇の中、周囲を警戒していた。
それもそのはず、先ほど空飛ぶ鉄の鳥がいたのだから。轟音のジェットエンジンが砦を震撼し、怯ませた。
そして見張りの一人が何かが近づくの察知した。
「誰かいるぞ!」
周りの見張り兵に伝える。
すぐに下の兵へ通達し、彼らが発見者の示す方を探す。
すると、血を噴き出した黒い馬が砦にたどり着いた。見張り兵を見るなり前脚を上げて止まり、ぐったりと倒れ伏す。
同時に乗馬している人間も地面に叩き出された。
「誰か乗ってる……」
見張り兵が確認すると、鉄の鎧を着た人間。右脇腹と左脚が抉れ、失血が止まらない。
松明の光を当てて目を確認。輝きはなく、身体も夜風で冷たくなっていた。
「この鎧……ブルサ将軍様のもの……!」
「なんと言う有様……」
かの大将軍の最期が馬に跨ったまま、一方的にやられていたのだ。
鞘の剣には血痕は無く、携えた銃も火薬が詰められたまま。火薬袋も満杯。
「敵は想像以上に強敵なのか……?」
「……他に生還者は? 将軍だけのこのこ帰ってくるはずがない」
一人の問いに静まり返る。パチパチと松明の音しか聞こえない。
他に何一つとして聞こえない。今、見張り兵が眺める森林の奥は、ブルサ将軍一行を飲み込んだ魔境。
恐ろしい以外に表す言葉は無く、武者震いさせるには十分だった。
「っ……! 指揮官に伝えろ! ブルサ将軍を屠った輩は目の前だと!」
馬が自力で走って来れる位置で、ブルサ将軍一行はやられた。裏を返せば、追手も直ぐ側に迫っているということ。
「戦闘配置! 大砲用意!」
エヴィリエ砦に駐屯する兵は主に南側を重点的に部隊を展開。
砦は双子山を覆うように建設されており、南と東に砲座がある。それを主として堡塁や櫓が配置。
双子山の谷が山道となり、デェシュメックからベンシルリッキの帝都へ続く道となっている。
ありったけの大砲を南へ向かせ、城壁、堡塁の窓から砲身を覗かせる。
溢れかえるほどのベンシルリッキ兵が南側城壁に集中。
逆に言ってしまえば、他方面は手薄。だが、これは至って合理的だった。
北から西にかけてベンシルリッキ帝国の固有の領土。そして、エヴィリエ砦を中心に南から東へ抜ける道はない。
巨大な河川が砦前を横切るようにある。川を隔てるて出島のような駐屯地がある。
出島駐屯地と砦を石造りの架け橋が繋いでいた。
砦最上階に居座るはここの指揮官。何人もの士官が望遠鏡を除き、真夜中の森を見渡す。
何一つとして変わらない退屈な森林の景色。だが、この中にブルサ将軍を飲み込んだ魔物が潜んでいる。
にわかには信じ難かった。ブルサ将軍一行を完全に仕留め切るには、それ相応の軍隊が必要。
そんな軍隊が灯りもなく真っ暗闇の森林を突き進むなんぞ、到底ありえなかった。
しばらく静寂が辺りを支配する。エヴィリエ砦もブルサ将軍一行と同じ運命を辿った。
――ドォン
「――!?」
指揮官は東を向いた。東側から発砲音が聞こえたのだ。
砲弾は風切り音を立てながら闇夜に消える。
「東だ! 東! 総員、東に――」
指揮官が砦の兵に命を下す前に、砲弾が降り注いだ。城の最上階は指揮官共々砕け散る。
石片と肉片が砦中に落下。
「タネル……?」
石片は下の兵に頭から直撃。頭蓋骨をいとも容易く粉砕。
「!? ひいぃぃ……!!」
続けて人間の腕や頭が直ぐ側に落下。血しぶきが周囲を濡らす。
「上から来るぞ! 気をつけろ!」
「迫撃砲だ!」
更に発砲音が東から轟く。
一撃は城を掠め、更に石片が地上の兵を襲う。
もう一撃は東の砲座に着弾。周囲のベンシルリッキ兵を消し飛ばす。
「あそこだ! 大砲を向けろ!」
一人の兵はマズルフラッシュを捉える。隆起した丘にデェシュメック軍の迫撃砲が構えられていた。
南を向いていた砲門は急遽東に向ける。
その最中、砲弾で一部の大砲は大破。調整していた砲兵も巻き沿いを食らう。
「てぇぇー!!」
なんとか砲撃に漕ぎ着けた大砲は、黒い煤を上げて発砲。
大半の砲弾はデェシュメック軍の迫撃砲前に着弾。一発は迫撃砲に直撃。デェシュメック軍の砲兵が吹き飛んだ。
仕返しと言わんばかりに迫撃砲が火を吹く。
火薬を詰め、弾を入れた大砲も再度発砲。
命中精度はベンシルリッキ軍が優勢。デェシュメック軍は外国の兵器を輸入したが故に、手に馴染まない。
「デェシュメック軍、恐るるに足らず!」
「油断するな! きっと何か……」
一人のベンシルリッキ兵の悪い予感は的中した。
砦の至る所にオレンジ色の帯が砦の空を埋め尽くした。




