59話 敵機直上急降下!
ブルサ将軍の本隊は、速やかに帝都へ馬を走らせた。暗闇の山道を駆け抜け、ガタゴトと荷車を走らせる。
こちらには風が向いていないのか、雨は降っていない。ランプがブルサ一行の場所を知らせている。
しかし、これはブルサ将軍にとってこの上なく屈辱的なことだった。
まったくと言っていいほど先遣隊は帰ってこなかった。軍隊を更に送ろうと画策するが、最後に前線を逃げ出した兵を数えても、僅か百人足らず。
先遣隊は千人規模で構成されているのに対し、たったの百人。戦争や戦いにおいて、「全滅」は損耗率三割を超えたときに呼ばれる。
全滅を遥かに超え、この事実は惨状をありのまま物語っていた。
「閣下、先鋒から通達。チフテレル将軍の軍に現状を伝達できた模様。今、旅団がこっちに向かっています。この先の砦で合流する予定です」
「ッ……! よりによってあいつか……!」
ブルサ将軍は歯を食いしばり、悔しさを滲み出す。
「だが、我らは馬だ。雑兵の奴らは追ってこれまい。エヴィリエ砦で立て直すぞ」
ベンシルリッキ末端の駐屯地を出たブルサ一行は、少し安堵に包まれていた。
先遣隊が言うに、ベセトア、デェシュメック軍は人の足でこちらに向かっていると。人の足は馬の足に敵わない。
馬に乗った時点で、我々は少しの猶予があるのだと。
「……? おい……、何か聞こえないか?」
「何か……?」
ブルサ将軍は『何か』を聞き取った。
ブルサ一行はかなりの騒音に包まれている。走る馬の蹄、荷車の車輪、打ち付け合う鎧、森のざわめき。
その中に異質なものが紛れ込んでいると。
「……! 上だ!!」
――ギイィィィ
後方上から聞き慣れない音が断続的に響く。
「!? 落ちてくるぞ!」
更にその中に、風切り音が聞こえた。
――ドォン!
物体はブルサ一行に降り注ぐ。雨のように場所を問わず降り注ぐ。
馬は鳴き声を上げ、立ち止まる。前脚を高く上げ、落馬する兵が多数。兵は強く地面に打ち付けられ、背骨を折ってそのまま動かない者もいたか。
逃げ惑う馬で隊列は崩壊。
荷車も直撃し、残骸が散らばり、ベンシルリッキ兵に牙を向く。
七割は周囲の木々の落着。バキバキと木枝が折れた。
「誰だ!?」
ブルサ将軍が声を上げるのも無理はなかった。
物体は人型をしており、綺麗に跪いて着地するものや背中から着地するものもいた。
「っ! こいつらだ! こいつらがベセトア軍だ!!」
一人のベンシルリッキ兵が声を上げた。敗走した兵の一人。表情は恐怖そのものを物語っていた。
着地するや否や、すぐに銃を取り出し、ベンシルリッキ軍に向ける。
「各個射撃開始」
無情に上官が命を下し、ベセトア軍は引き金を引いた。
「ガァッ!?」
「グッ……」
ベンシルリッキ兵は断末魔を上げて伏す。
強力な弾丸がベンシルリッキ兵の身体を砕き、周囲の血肉を削ぐ。
脳天を撃ち抜かれた者は断末魔を上げることなく、ただ肺にある空気を吐くのみ。
剛速球の弾丸が飛び交い、同士討ちも気にしない。なぜなら、シールドのお陰で何一つ弾丸を食らうことはなかった。
「死中に活を見いだせ! 強行突破だ!」
ブルサ将軍は馬に走るよう伝える。
「続けぇぇ!! ――ガッ!」
騎乗したデェシュメック兵は戦うことを避け、砦に一直線に向かう。
途中、追い打ちにより撃たれ、落馬する者が多数。
「爪の甘い奴らめ……! 手薄じゃないか……」
ブルサ将軍は一つ感じ取っていた。ベセトア軍のやつは一方を除いて満遍なく落下してきた。
ベセトア軍の包囲陣を抜けれたベンシルリッキ兵は、約二百人と二百匹。騎馬兵以外はまず持って掻い潜ることは出来なかった。
枯れ葉や泥を散らしながら獣道を蹄で駆け抜ける。
その矢先、
――ダンッ
と、ブルサ将軍の前を駆け抜ける馬が撃たれた。右目から銃弾を食らい、脳髄へと達する。
馬は態勢を崩し、滑るように倒れた。騎馬兵も投げ出されて巨木に頭を強打。
ブルサ将軍の馬は間一髪で避け、道なりを歩むが、奴らは待ち伏せていた。
「将軍! 伏兵です!!」
「何……!?」
木々の間、茂みから銃口を覗かせ、次々と馬や騎馬兵を仕留める。ベセトア軍は光学迷彩を用いて頃合いを伺っていた。
ブルサ将軍は察知した、彼らの思惑に。最初からこれが狙いだったのかと。
わざと綻びを作り、我らの退路を絞る為に。
「あぁ……ああ……!」
ベセトア軍の弾丸は当たりどころが悪いと、一撃で頭も吹き飛ばす。
入れ食いのようにベンシルリッキ兵は狩られ、馬も四方に散らばる。銃声は馬にとってつんざくほど不快な音。
周囲にいた騎馬兵は一人、また一人と落馬。鎧があろうがなかろうが銃弾は身体を貫徹。
そして遂に、銃弾はブルサ将軍に直撃。
「グゥ……! 死んでたまるか……!」
一撃はなんとか持ち堪えた。だが、右脇腹の肉塊は吹き飛んだ。血は肺に入り、吐血。
強く手綱を握り、身体を馬に寄せて少しでも被弾を抑える。
既に前にいる騎馬兵はいない。そして、殿の蹄の音も聞こえなくなった。
「……もうすぐ……エヴィリ……エ砦……!」
たった一撃の被弾は致命的なものだった。ベセトア軍の使う銃弾は、周囲の肉を削ぐような作り。
失血は止まらず、意志が朦朧とする。
それでも、ベセトア軍の伏兵ゾーンは抜けた。抜ければ、更に盾となる木々が増える。
――バギィ!
「ガァァ……ァァ……!」
左脚に被弾。馬も貫徹した銃弾を食らう。
痛みのあまり、馬は走り抜ける。もはやブルサ将軍の命令は聞き入れていない。
弾幕は消えた。ブルサ将軍は追跡を掻い潜った。それに気づき、安堵した。微笑みが溢れる。
身体を起こし、勝利のガッツポーズ。だが、それで力は使い果たした。
弱々しくガッツポーズは崩れ始め、手綱を握る手も離れた。
☆ おまけ
日本時間深夜一時半過ぎ。高知のポツンと一軒家で一階の明かりがついていた。
そこに一人と一匹がテレビをつけてソファにぐったりと寝転んで見ている。
「……」
「……」
一人は白猫の一匹を撫でる。どちらとも何食わぬ顔。
一人は有線ヘッドフォンをテレビに付けて視聴。もう一匹は無音のコマ送り画を傍観。
動体視力のいい猫にとってアニメはコマ送り画。
そして一人のヘッドフォンにキャラの声が伝わる。
「"元カノが忘れられないんでしょ? だったら全力で取りに行きなさい"」
「ナツ、聞く?」
「……」
猫のナツはゴロゴロと喉を鳴らす。
一人は自身のヘッドフォンの片側を猫の耳に当てる。
「"欲しいものがあるなら、かなぐり捨てて掴みに行くくらいの方が、人生は楽しいわよ"」
ナツはそっぽを向いた。
「いやだったか、ごめんね」
そしてアニメはエンディングに差し掛かった。
彼女、お狩りします
アニメの主人公であるマタギは、決死の覚悟で崖から飛び出し、崖下の熊に猟銃を向けた。




