58話 当時のAI合成音声はたかが知れてる
「なんてことを……!」
安城は今の光景に言葉を失う。
草木は焼かれ、平野の草むらは灰となった。その上にデェシュメック軍、ベンシルリッキ軍問わず人が血に濡れながら倒れている。
動かない。手当てしようと脈を測るが、誰一人脈がない。
目を見ると虚ろな眼だった。
安城の顔が青ざめる。
大勢のベンシルリッキ軍が麓に倒れている。上に登った兵士もベセトア軍に狩られ、枯れ葉を散らしながら転げ落ちてきた。
「安城長官、ベンシルリッキ軍の一個大隊は全滅しました。既に偵察隊が追っています」
死体処理を行なっている一人のベセトア軍士官が情報報告。
「そうじゃないだろ!? すぐに武装解除しろ」
「ですが……」
「安城殿、追いましょう。今夜、諸悪の根源たるベンシルリッキ帝国を壊滅させるのです」
「ミラス旅団長まで……俺たちがやることは演習だけじゃ……!」
二人は安城の言葉にピンと来なかった。意味が理解出来なかったわけではない。
「……お言葉ですが、攻撃指示は安城長官であると記憶しているのですが……」
「それはどういう……」
士官は安城に一つの動画を送る。その士官のスマレンが録画した映像。
安城はすぐに再生し、事の顛末を確認。
士官は一般兵たちを見渡せる場所に陣取っていた。
発砲音が聞こえ、両軍が動揺し始める。
もう一度、発砲音が聞こえた時、
「"両軍士官に通達。ベンシルリッキ軍を北西の山で視認。先ほどの発砲は彼らのものと思われる。宣戦布告と受け止め、開戦を宣言する"」
と、安城の声で再生されていた。
ベセトアデェシュメック連合軍が北西の山へ隊列組み行進。
そして、
「"てぇぇー!!"」
と、安城の声を皮切りに開戦の火ぶたが切られた。
「どういうことだ……?」
安城は自分とは似ても似つかない自分の言動に戸惑いを覚えた。
「俺はその時、失踪者を探してたはず……」
そんなことはやってない。やってないはず。だが、証拠が目の前にある。そんな証拠があろうものなら、『やったような気がする』という疑念に飲み込まれる。
「やってない……俺は……やってない……」
安城は頭を抱える。目の前が真っ暗になった。
こんな事実がある以上、責任の言い逃れもできない。何より、自分が人殺しを働いたなどと思いたくなかった。
「"……安城、さっきの聞いてたけど、お前がやったんだな"」
「違う! 琴音! 知らないぞこんなの!」
寸分違わず、動画の声は安城のものだった。これには誰一人として疑いようのないもの。
「安城殿、『本当に』言ってないのか?」
「もちろんだ……!」
迷うことなく即答。
「"安城これもしかして、『誰か』が戦争を誘発させたんじゃない?"」
琴音には一つの疑念があった。
「"失踪兵も『誰か』に触発されて山に潜った。『誰か』はこの演習より戦争を望んでいた"」
「琴音……」
「……一利ある」
琴音の言葉にミラス旅団長は納得。
「"あと、アリバイは私が証明できる。安城と一緒に探してた"」
「じゃあ、これは偽物?」
「人の声を真似るなんてできるのか……?」
「ああ、合成音声と言ってな。AIによって作られたものが大体だが……ベセトアには人の細胞を使って対象の声色を完全再現できる」
ベセトア軍士官は淡々と説明。
「合成音声なんてゆっくり実況くらいしか聞いたことないぞ……」
「"確かに……"」
「わかった、ならばすぐに戦闘を中止しよう。これで奴らも懲りただろうしな」
ミラス旅団長は大きく息を吸い、
「狼煙を炊けぇーー!!」
と、ミラス旅団長はすぐに側の部下に狼煙を焚くよう促す。
篝火から薪を焚き上げ、火を大きくしようとする。
だが直後、雲行きが怪しくなった。
「……? 雨か……まずいな……」
ミラス旅団長が手のひらを広げると、ポツポツと降り始めた。
空は星空を覆うような暗黒の雲がかかっていた。
「これじゃ私たちは知らせられない」
「安城長官、悪いニュースだ。偽長官が各部隊に司令を伝達。通信系統がジャックされた」
「なんだと……!?」
「姑息だな……。ものの見事に私らだけ通信を除け者にしている」
「"安城、やることは一つだよ"」
「……わかった。一刻を争う。各自、攻撃中止を各員に伝えたし」
「「了解」」
ミラス旅団長はすぐに行動に移し、自らの口で攻撃中止を伝えにゆく。
ベセトア軍士官も緊急作戦中止煙弾を発砲。暗い夜空に赤い煙が立ち登る。
「それで閣下、連合軍はどこへ向かったんだ?」
「開戦を切ったこの山道をデェシュメック軍は登っていきました。ですが、ベセトア軍は空挺降下とワープ強襲を行おうと、各自散開した様子」
「ベセトア軍の追跡は困難だな……」
「"いや、追跡しなくても待ち伏せできる。ベンシルリッキ軍がいる駐屯地なら絶対に来る。私ならそこを狙う"」
「……本当に頭が回るやつだ。琴音が言うんだったらそうなんだろうな」
安城は少し涙ぐんだ。




