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56話 玉、城を捨てる

「な……!?」


「銃声……?」


午後七時前に銃声が響いた。


デェシュメック軍、ベセトア軍の両軍は狼狽え始めた。当然、両者まだどちらとも銃弾は配給されていない。


「なんだ今の音……?」


「今誰も弾持ってないはずじゃ……?」


私たちは顔を見合わせる。


私たちはずっと卯月のコントロールルーム、艦橋でデェシュメック軍の演習を見ていた。我ながら立てた計画は壮観だったのが記憶。


「どこから聞こえた……!?」


安城は焦りを見せ始める。それもそのはず、これは計画にない。事故があろうものならすぐに突き止めなければならない。


「てか、早く安否確認しないと! 誰が死んでるかわからないよ!」


私は安城を急かす。今、全体にアナウンスができる権限を握っているのは安城のみ。


「ふ、不吉なこと言うな! 点呼!」


安城はグループチャットで安否確認を行った。現在、広範囲に軍隊は散開している。誰が撃たれたかわからない。


一人ずつ順番に数を答える。ベセトア軍はものの数分で終わった。だが、デェシュメック軍の点呼は数十分かかった。だが、問題が一つ。


「デェシュメック軍が一人足りない……!?」


「それって、もしかして……?」


もしかしたら、さっきの銃声で撃たれた。


「総員、演習を中断! 直ちにデェシュメック軍人の捜索に当たれ」


マイクで両軍に通達。すぐに隊を編成して草むらをかき分け、文字通り手探りで探す。


だが、数分経とうとも発見できず。


「……気が気じゃない、俺たちも探そう」


「バカ言うな! 私たちはここで指揮しなきゃ情報伝達網が崩れるでしょ」


会議では安城が中心となって各士官に情報を伝達する旨を伝えた。これが崩れれば、この演習はヒッチャカメッチャカ。加えてそんな失態を晒せば、元帥の話も無くなるだろう。


「上も動かなくてどうする!?」


「今それ言ってる場合じゃないでしょ!」


「歩兵部隊の一人……、こいつは一番端で展開して北の山に近いのか……。探すぞ」


安城は私の言葉を聞く耳を持たない。部隊の展開図を天井に投影。北から南にかけて赤いマーク、歩兵部隊が示された。その北、ベンシルリッキ領に最も近い山だ。尾根が境となっている。


「行くぞ、琴音!」


「絶対行かねぇぞ!」


「……二人とも、俺がここを見てる。行ってこい」


突如、オルガ大佐が話に割り込んできた。余計なことしあがって。




多分これで安城が元帥にならなかったら、十中八九これのせい。


私たちは持ち場を放棄して、失踪したデェシュメック軍人の持ち場付近を見回る。


懐中電灯を片手に森の中を照らす。


いくら暗視があるとはいえ、失踪者が迷子になっている可能性がある。自身の近くで灯りがあれば寄ってくるものだ。


「おーい!」


「誰かいませんかー?」


各々散開して声を上げる。


「いたか?」


「いない」


首を横に振る。


「……」


安城は頭を掻いた。焦ると急に痒くなる。


「冷静になって」


「……逆に琴音は肝据わりすぎだろ」


「歌でも歌って」


「緊張感ないなぁ……」


私は更に森奥へと歩み始める。安城も同伴。


「テテテン テテーン テテーテレン」


「何歌ってんだ?」


私は口ずさむように歌っている。こんな暗いと気を紛らわしたくもなる。


「ス○ンド・バイ・○ー」


「急に歌い出されると怖いんだけど」


「どんな話か知ってる?」


「死体を見つけに――って、おい」


気づいたか。


正直、デェシュメック軍の軍服と自然の色は補色になっているから見つけやすいはず。鉄兜にロングコート風の上着。それに鎖帷子を羽織っている人もいたりいなかったり。


――ザザッ


「待って、なんか聞こえた」


スマレンのサウンドエフェクトも音を検知。


「なっ!?」


私は安城を静止。


「あそこ」


私は左手にある茂みを指差す。


――ザザッ


また聞こえた。今度は安城に聞こえたらしい。


顔を合わせ、ゆっくりと近づく。


あと五m、


――バンッ!


マズルフラッシュが茂みから放たれる。森をざわつかせるほどの銃声が響いた。


左胸が撃たれた。シールドがなかったら死んでいた。


間髪入れずに茂みから人が飛び出した。デェシュメック軍人だ。


衝撃のあまり、身体が動かなかった。


「させるかっ!」


安城は飛び出したデェシュメック軍人を横から被さり、地面に拘束。手を後ろで組ませている。


「こいつが失踪者か」


「離せ! 何してんだ!」


ひとまず、失踪者は無事だった。今から無事に帰れるかは別として。


「こっちのセリフだ。なぜ失踪した!」


「山ん中で野戦演習じゃないのかよ!?」


「はぁ?」


お互いの話は噛み合っていない。


「砲兵の演習が終わったら、休憩を挟んで『平野』で演習ですよ?」


「いや、それは『変更前』じゃないのか? 『変更後』は休憩を入れずに山で野戦演習だと聞いたぞ」


「変更……?」


私たちはまたも顔を合わせる。そんな事実はないと。


「変更なんてそもそもないですよ? どういうことですか?」


「こっちが聞きたい! ベセトアの士官から聞いたんだ」


「士官……?」


とりあえず、落ち着きを取り戻したの失踪者を起こす。


「とりあえず、本部に来てもらいます」


司令官である安城が直々に失踪者の手を後ろで組ませ、「ワープしてくれ」と合図を私に送る。


ワープデバイスを起動し、卯月にカーソルを合わせようとすると、ふと変な音が聞こえ始めた。


「……どうした? 早くワープしてくれ」


「ねぇ……、なんか聞こえない?」


「は……?」


風と森のざわめきの中に聞こえる。破裂音。それに何度も……。


「「……銃声……!?」」


私たちが答えを出すのは同時だった。


☆         おまけ


日本時間深夜零時半前。高知のポツンと一軒家で一階の明かりがついていた。


そこに一人と一匹がテレビをつけてソファにぐったりと寝転んで見ている。


「……」


「……」


テレビで録画したアニメを見ていた。


「"だけど、私戻らないと! 大切な人達が待っていてくれる世界に!"」


アニメの主人公は叫ぶ。


「フユ、今日は華金だから遅くまで録画見れるよ。最近忙しかったからね」


「ニャニャニャニャ」


一人は微笑んで白猫の一匹の前脚を揺さぶる。


「"私の世界はここだ。この世界を、大切な人達を守りたい。バッドエンドには絶対にさせない"」


「俺の現実はここだ。この現実を、安寧の日々を守りたい。トゥルーエンドを壊させない。そうだよなぁ?」


「ニャー」


一人はネコ吸いをキメた。

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