54話 安城、告白、コミュニスト
安城はコントロールルームである卯月の艦橋に向かった。もちろんオルガ大佐と共に。
その他ベセトア軍、デェシュメック軍士官も別れ、ミラス旅団長も持ち場へ足を進めた。
「よく考えたな、あいつ」
だが、未だこの作戦室に残っている人が二人。
私とヒンベル。
「本当にあいつが考えたのか? だいぶ心の変わりようが見受けられるけど」
察しがいい。
「その心は?」
「殺害をタブーとした行動原理には道理が行ってるけど、かなりギャンブル。場合によっては死傷者をだしかねない」
「……」
よくわかっている。伊達にこういった組織力やまとめる力を持ってるわけじゃない。それに、それなりの洞察力がある。
このヒンベルの姿には無性にかっこいいと思ってしまう自分がいる。普段もそうして欲しいんだけどなぁ……。
まあ、ここは白状するか……。
「……その通り。あの計画は全部私が考えた」
「……」
ヒンベルは「納得が行った」と言うようにため息。
「しかし驚きだよ、まさか豊川がこんなに計画力と発想力があるなんて」
「バカにしてる?」
「面白いとは思ってる」
ヒンベルは鼻で笑った。
「背骨砕くぞ」
「おお、怖い怖い」
心にも思ってないことを。
「……何が言いたいの?」
「そんなに若いのによく考えられるなぁって。私が豊川くらいの時は、なんも思い浮かばなかった」
ヒンベルは「な〜んもわかりません」って言うように手を広げた。
「まだ院生だったか、ちょうどベレウゼに留学できたから惰性で行ったけど、散々だったね」
ヒンベルは懐かしむように語り始めた。これあれだ、中年おじさんの武勇伝を語るやつ。
「いつまで話すつもり?」
私は呆れを表に出して尋ねる。
「すぐ終わらせるよ。少し聞いてくれ」
「……」
「『理系は院いけば安泰』って言葉があるもんだし、外国、いや外現実の大学院の出がいたら就活で喉から手が出るほど欲しがられると思ったんだよ」
「それが実際は陳腐で国内の院と大差がなかったと」
長くなりそうだから、結論を予測してまとめる。
「結論から言ったら三大財閥の御三家から内定貰ったよ。あの大手重工業。まあ、どう足掻いても入社出来なかったけどな」
「ああ……」
例の災厄だ。
そういえば、三大財閥の御三家の重工業系と言ったらあれだ。牧之原グループの一角。日本の国防をも担う重工業系企業。
私の父さんも牧之原グループの会社に勤務していた。
「当時は研究はやるけど、のめり込むことは全くなかったか。今となっては、先生は私によく手を焼いのだと思うよ」
どういう感情か、ヒンベルの口元が少し笑った。
「誇ってる?」
「まさか」
誇っているような口ぶりだった。
「まあ、ファータロス入ってもやることはやるけど、全く手につかなかったよ。結局、先生も『創生の大追放』に遭って恩返し出来なかった」
「大追放……?」
なかなか物騒な言葉が出てきた。何があったのだろうか。
「大追放が起きる五百年間、ずっと平だったけど、先生がいなくなってから火が付いたってのかな。使命感帯びて考え始めたよ」
「逆に五百年間窓際社員だったの?」
逆にそれが驚き。到底、この組織を統べている人間とは思えない。
「話が長くなったか。まあ何はともあれ、豊川の能力はいずれ買われると思うが、上に上がることだけが幸せじゃないってことだけ覚えときなさい」
「上……」
上昇志向がないわけではない。今の待遇には十分満足している。
「ここぞというときにやればいいんだよ。それ以外はそれなりにやり過ごせればいい」
その言葉にはヒンベルの長年の経験から生み出されたようなものがあった。
「……ねえ、あいつほんとに陸軍元帥にする気?」
最後にそれだけ確認したい。
「約束は守るよ。出来たらやるし、出来なかったらやらない」
「私が誘導しないとなんもできないよ?」
「じゃあもうあいつが元帥になるならないの匙加減は豊川が握ってるってことだ。君に任せるよ」
「えぇ……。あいつさあ、昔グランドに『好き』って書いて大声で誰かに告白して、後で騒音苦情と備品無断使用でこっぴどく先生に怒られるくらい計画性ないんだよね」
私が安城のエピソードを語るとヒンベルは、崩れるように笑った。
「ほんとにそんなんやる奴いるんだな! 『個身さんはコミュニストです』くらいでしか聞いたことないよ」
赤っけぇなぁ。てかこんな話してる場合じゃない。
「まあいいや、私は帰る」
「そう、じゃ」
私は手を上げ、ヒンベルを見送る。
ヒンベルも振り向きざまに手を上げ返した。
作戦室から出る去り際に、なにやらイヤーピースを弄っているのが気がかりだった。




